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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
14/73

011 カエデ(杢)の紙刀(ペーパーナイフ)

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第11弾です」

礼子「今回はペーパーナイフですか?」

仁「そう。作者が刃物好きなもんでな」

礼子「危ない人みたいですね」

仁「言ってやるな」




挿絵(By みてみん)


礼子「で、材料ですか。何か変わった模様が入っていますね」

仁「うん。カエデ(楓)の縮杢ちぢみもくだ」

礼子「縮杢ちぢみもく、ですか」

仁「細かく波打っているさまが、上から押されて縮んだ感じだからじゃないかな」もくの中では比較的ポピュラーらしい

礼子「木目と杢目は違うんですね?」どっちも もくめ と読みますが

仁「違う。木目は板にしたときの年輪のことで、杢目はそれを含めて模様になった状態をいう」

礼子「珍しいから高価なんですね」レア素材です

仁「そういうことだな。また、模様が美しいことも大事だな」




挿絵(By みてみん)


仁「切り抜いて、削り出した」

礼子「ペーパーナイフですものね」

仁「形はネットでデザインの参考になりそうなものを探して真似したらしい」作者もデザインは苦手なのだ

礼子「気を付けることはありますか?」

仁「そうだな、こういう杢目って、ナイフで削ろうとすると逆目さかめが出るから気をつけないとな」

礼子「作者さんはほとんどヤスリですね」

仁「そのようだ。ちゃんとマスクしているぞ」していないと木の粉を嫌というほど吸い込むからな

礼子「最終的なサンドペーパーの番手はどのくらいですか?」

仁「320番の『から研ぎペーパー』だそうだ」




挿絵(By みてみん)


礼子「いよいよ塗るんですね」

仁「まずは柿渋から塗った」赤っぽくなったな

礼子「え? 漆塗りにするのに柿渋を塗るんですか?」

仁「うん。『柿下地かきしたじ』あるいは『柿渋下地かきしぶしたじ』といって、昔からある技法だそうだ」

礼子「どういう効果があるんですか?」

仁「漆を吸い込みにくくするんだな」つまり高価な漆の節約になる

礼子「節約……ですか」

仁「もちろん、それだけじゃないぞ。漆を吸い込むということは色が黒っぽくなるということだ。杢を強調するためには明るめの色に仕上げたいんだよ」

礼子「ああ、それでですか。確かに002の茶匙は木目がほとんど見えませんでしたものね」

仁「そういうことだな」


礼子「で、柿渋ってどういうものですか?」

仁「なんでも、青いうちに採取した渋柿を絞って発酵させて作るらしい」詳しく知りたい方は調べてみてください

礼子「ものすごく臭いらしいですね?」

仁「最近は臭いの原因物質を取り除いた『無臭』のものが市販されているよ」

礼子「それなら使いやすいですね」

仁「ただ、空気に触れているとだんだん固まってくるらしいから長期保存は要注意だな」

礼子「ああ、だからパッチ容器で売っている製品があるんですね」空気を抜けば長期保存できますし

仁「ゼリーくらいまでなら、湯煎すればまた液体に戻る……らしい」やったことないけど

礼子「作者さんは粉末の柿渋を使っているようですね」

仁「必要な分だけ水に溶かして使えばいいからな」その分ちょっと割高みたいだが無駄がないのはいいな



仁「で、塗った柿渋が乾いたらサンドペーパーで表面を滑らかにする」

礼子「柿渋を塗ったせいで毛羽立ちましたからね」


仁「そしていよいよ漆塗りだ」下地用の漆から始める

礼子「漆で違いがあるんですか?」

仁「まずつやが違う。下地用のこの漆は半つや消しに仕上がるな」そういうのが好きな人にはいいかも

礼子「仕上げ用の漆はつやが出るんですね?」

仁「一概にそうとも言えないが、まあだいたいはそう思ってもらっていいな」七分ツヤというものもあったりする




挿絵(By みてみん)


仁「1度塗って乾かした」

礼子「随分赤茶色くなりましたね」

仁「生漆きうるしは時間が経つと茶色が濃くなるんだよ」

礼子「これにサンドペーパーを掛けて、また塗り重ねるんですね」

仁「そうそう」



礼子「そして塗り重ねていくんですね」

仁「茶さじのときにもやった『拭き漆』だな」生漆を塗っては拭き取り、塗っては拭き取りを繰り返す

礼子「手間がかかりますね」

仁「でも1回毎にいい色になっていくのを見ているのは楽しいぞ」見た目はそれほど変わらないので写真は省略します




*   *   *


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


礼子「完成ですね」

仁「いい色になってるな」ツヤもなかなかいい

礼子「杢目が見事ですね」

仁「こういう色付き透明仕上げが、一番(もく)を生かしてくれるんだろうな」

礼子「1枚板のテーブルとかあったら素敵ですね」

仁「まあな。板だけで十万超えるだろうけどな」

礼子「高価ですものね」




*   *   *


仁「というわけで、第11回は『カエデの紙刀ペーパーナイフ』の解説でした」漆塗りをなさる時はかぶれにご注意ください

礼子「作者はかぶれにくい体質ですが作業時はゴム手袋をはめてやっています」


仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」

 ごらんいただきありがとうございました。


 20210228 修正

(誤)確かに001の茶さじは木目がほとんど見えませんでしたものね」

(正)確かに002の茶匙は木目がほとんど見えませんでしたものね」


 20210927 修正

(誤)俺の解説で紹介するっていう企画の第7弾です」

(正)俺の解説で紹介するっていう企画の第11弾です」

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― 新着の感想 ―
[良い点] カエデ(杢)の紙刀(ペーパーナイフ)、木製だから手を切る心配が無いのが魅力的ですね、記事の作例も綺麗でしたし。 [気になる点] 切れ味の悪いカラトリーのディナーナイフの刃を削り落とした方が…
[良い点] 011 カエデ(杢)の紙刀(ペーパーナイフ) 更新ありがとうございます。 [一言] 渋柿を下地に使っているだけに、仕上がりが渋いですね ^^; 手に入れたくなります。 次回の更新も、楽…
[良い点] ハンドメイドって購入した物以上に愛着が湧きそうですね。 材料の入手が困難ですがw 仁「100均のセリ◯でヒノキの端材が売ってたから、それでもいいんじゃないかな?ホームセンターでも探せばヒノ…
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