「謎の力」
バーンの学園襲撃から数時間後、駆け付けた剣士達と学園のブリザードガイアの生徒達の活躍で学園の消火活動は被害もなく終了した。しかし、被害は大きくしばらく講義は学園ではなく各寮の食堂、修練場、ロビーを三学年で入れ替えて行うこととなった。
「あれはなんだったんだ」
ベッドに横になり夜空を眺めながら呟く。バーンを殺めた時に剣から出た禍々しいオーラ、考えれば考えるほど恐ろしさが増していく。
「あれじゃまるでオレは……ヘルソルジャーじゃないか」
剣だけじゃない、あの時のオレはバーンを殺すには丁度いいとさえ考えていた。心までがヘルソルジャーになっていた。
「でも、なんでそんな力がオレに」
星が一つもない夜空がより一層不安にさせる。
「きっと、皆限界まで怒るとああなるんだ。そうに決まっている」
そう結論を付けると瞼を閉じて眠りについた。
~~
翌日、講義の合間にディーネに仕掛けることにした。目標はディーネを怒らせること。作戦は単純で困っていることを聞き答えたらその原因はオレと嘘をついて怒らせるというものだ。
「ディーネ、何か困っていることとかないか」
「……困っていること? 」
声を落とすディーネ、これは何かありそうだ。
「何かあるのか? 」
彼女は頷く。下着泥棒、とかはまあ寮だからないだろうが羽根ペン泥棒位の汚名は被ろうと覚悟を決めて尋ねる。
「……どうして? 」
「ほら、力になれるかもしれないから」
「……そっか、じゃあ……ごめん、ガイト」
「? 」
彼女の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「……昨日、ガイトだけに殺人はさせられないとか言って付いていったのに誰も殺せなかった。ガイト一人に背負わせた……ごめん」
「え……あ……いや……」
思いもよらぬ所からの謝罪に戸惑う。
「別にいいって、バーンみたいに何人殺したから偉い、とかでもないしさ。あの時はディーネが付いてきてくれただけで助かったんだから何も気にしてないぞ」
「……ありがとう」
ディーネが目に涙を浮かべながら礼を言う姿を見て不純な動機からこのことを聞きだしたことに心が痛んだ。
~~
ターゲット変更、次なるターゲットは先生だ。作戦はシンプル、彼女に突然抱きつくだけだ。抱き着かれた彼女はそんな行動をしたオレに対し怒りを露わにして模造剣をぶん回して追ってくることだろう。
「ちょっと先生に聞きたいことがあるから行ってくる」
ディーネにそう断ると講義が終わって他の寮での講義のためロビーを出る彼女の後をつける。寮から出て数十メートル、ここなら誰に目撃されることもないだろう。
「先生」
「あら、どうしたのガイトく……」
振り返る彼女に即座に抱き着く。
……意外と柔らかい。
予想に反した感触に驚きながらも彼女の反応を待つ。
…………長いな。
数十秒程の沈黙の末、彼女は言葉を発した。
「……これはどういうつもりかしら」
あれ? 計画と違う。
この反応は怒りに震えているというよりどうしちゃったのこの子みたいな若干引いている反応だ。
「え……あ……いや……」
再び予想外の反応に混乱する。
こうなるとマズいのは弁解ばかりか怒らせようとしても惹かれてしまうであろうことだ。だとすれば取る反応は一つしかない。
「先生に怒ってもらいたかったのです」
「え? 私に? 」
「はい、ディーネが悩んでいてそれで以前、先生がフレイムのソウルは闘志で強くなるとおっしゃっていたのでそれなら怒りとか嫉妬とかそういう感情でも強くなるのではないかと」
「そう、ディーネさんのために」
先生が意外そうな顔をする。だが、それも無理はない。なんせオレだって驚いているからだ。
咄嗟に浮かんだことを並べたら意外に上手くいったものだと感心する。
「でも、私、今模造剣を持っていないわよ。どうするつもりだったの? 」
言われて先生の腰に剣が刺さっていないことに気が付く。
「ああ……気が付きませんでした。そうですね、じゃあ、こちらで……」
腰にあるオレの模造剣を差し出すと先生が笑い出す。
「そうやって、怒っている私に剣を差し出すつもりだったの? そういうことなら構わないわ。今回の件は不問にします。それと、ソウルの件だけど怒りとかそういう強い感情でも強くなることはあるわね。ただ、ディーネさんにはそういうのは合わないんじゃないかしら」
「そうですね」
ディーネにそういうのは似合わないとさっき痛感したばかりなので素直に引き下がる。
「人には向き不向きがあるからね、とにかく元気そうで安心したわ。それじゃあ、私はこれで」
先生はそう言うと歩みを再開して小さくなっていく。
「怒りでも強くなることがある、か」
あの口ぶりからして恐らく経験したことがあるのだろう。でもそれは、あくまでフレイムのソウルでのことだ。オレの求めていた解答とは違った。
ということは光のソウルは怒りによってああなるということだろう。とにかく人前で披露はしないように心掛けつつ忘れた方が良さそうだ。
サタンの学園生活を見てそう結論付けるとロビーへと戻るべく歩を進めた。




