「脱出」
バーンがいた後を見つめる、終わってみると今回の戦いを通して残っているのはただただ燃えている学園長室と空しさだけだ。
もう少し痛めつけておけば良かったかな。
後悔をしながら一か八か戦っている間に火で覆われてしまった窓から飛び降りて脱出をしようとしたその時だった。
「……ガイト」
ディーネの声が聞こえた気がして慌てて室内へと戻る。
「ディーネ、どこだ? 生きているのか? 」
「……うん、学園長の隠し通路のお陰、迎えに行く」
幻聴なんかじゃない、声のする方向へと向かうと床の大理石が若干盛り上がっている箇所がありそこからディーネが姿を現した。どうやら下は階段になっているようだ。
「……行こう、学園長達も待ってる」
「わかった」
なかに飛び込んで蓋を閉める、ディーネの出した炎を頼りに歩きしばらくすると大きな爆発音が響き天井が揺れた。本当にギリギリだったようだ。
「よく生きていたな」
「……バーンが剣を捨てた時、学園長がソウルで壁を作って助けてくれた」
どうやら学園長のソウルはガイアだったらしい。壁には気付かなかったがバーンの目を誤魔化すために燃えてる家具に隠したのだろう。流石学園長だ。
と感心している場合ではない、ディーネに伝えていないことがあった。
「助かった、ありがとう」
「……それはガイトが助けに来てくれたから。私こそありがとう」
「……そういえば、学園長達って他にも誰かいるのか? 」
お礼を言ったつもりが言われて照れ臭くなり急遽話題を変更する。
「ジェシーとフウト、丁度二人も来ていた」
「そっか……皆無事だったんだ」
安堵のため息を吐く。なんだかんだ皆無事で本当に良かった。
「ところで、これはどこに繋がっているんだ」
やけに下る段が多いので気になった。薄暗いし地獄の入り口のようにも思えていたからだ。
「……もう少しすると下水道に出て、そこを抜けると街の外の川に出るって学園長が」
ディーネが答える。どうやらオレは既に死んでいてディーネが迎えに来たとかいうこともなさそうだ。安心して彼女についていくと階段が終わると同時に彼女が手を触れる。するとくるりと壁が回転して下水道の光景が視界に広がる。回転扉になっていた。
確かに人目につかない場所とはいえなかなか嫌な場所だ。光の翼を出現させる。
「ディーネ、掴まれ。飛んでいこう、足までとはいえ嫌だろ? 」
「……いいの? 」
「ああ、ケガとかもないし余裕だ」
「……じゃあ、お願い」
彼女が差し出した両腕に乗る。
「それじゃあ、出発だ。早いとこ三人に追いつこう。学園の様子も気がかりだ」
力強く地面を蹴ると宙を舞った。
~~
下水道を抜けた海で学園長たちと合流する。
「二人共、無事でよかった」
「何とかな、二人の力を合わせてようやくだ。それと学園を酷く傷付けてしまった」
「ええ……とそれより、羨ましいわ。そんな風に抱っこしてもらって」
下水道に足を入れるのが嫌だったのだろう、ジェシーが頬を膨らませる。
「いやいや、オレもディーネのお陰で助かったからこれくらいお安い御用だ……っていうかその手大丈夫か」
彼女の腕の一部が黒く染まっている。
「ええ、これくらいは平気…………でもないわね」
突然顔を背けて彼女が言う。
「……ガイト、私はもう良いから行ってあげて」
「分かった」
ディーネが砂場へと下ろすと今度はジェシーを抱える。
「病院、でいいか? 」
「その方が良いでしょう。今保健室はどうなっているか分かりません」
学園長が頷く。保健室にはルーカスがいる。彼も病院へと送った方が良いかもしれない。学園長室からは離れているが消火が済まない限り安全とは言えない場所だ。
「我々はともかく学園へ向かいましょう」
「また後で」
「ああ」
答えるとオレは再び飛び立つ。
「怖かったんだから」
ふとジェシーが口にする。
「ああ、悪かった」
「貴方が謝ることじゃないわよ」
「あの見張り役と戦わせたのはオレみたいなものだからな、でも、お陰で助かった。ありがとう」
「…………」
何故か顔を背けて黙るジェシー、いやどうして黙る。気になって覗き込むと彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
「どうしたんだ、もしかして熱か! ? ケガが悪化したのか! ? 」
「ち、違うわよバカ! 」
彼女が似合わず子供の用に体をバタバタとさせる。
「わ、分かったからとりあえず暴れるな。落ちたら大変だ」
宥めながら病院へと向かった。




