「反撃開始」
ディーネと共に背を低くし音をたてないように廊下を歩く。
「……どこに行くの」
「まずはガイアの教室だ。あいつ等なら敵の位置と数を探知できる」
「……わかった」
目的地の教室は二つ先だ。その間にブリザードとウィンディがあるが二人に詫びながら教室を通り過ぎる。
「よし、ディーネはここで突入の合図を出すまで待機」
ディーネに囁くと一人でもう一つの入り口である扉へと向かう。位置的にこちらが後方の列となるだろう。もしかすると教卓のある前列にいるであろう教師が一人は何とかしてくれるのではないかという期待を込めての配置だ。なんだかんだ言ってもディーネに人殺しはまださせられない、律儀に毎日修練に付き合ってくれるバディは貴重だからここで精神が削られ最悪退学とかになるのは困る。
……よし、行くか
合図である取っ手に手をかけ、彼女もそうしたのを見ると一気に扉を開き中に入る。
「な、なんだてめえ」
それが最後の一言か。いや、無駄な感傷は不要だ。
光の翼を出現させて一気に距離を詰めると心臓目掛けて剣を突きさす。返り血がかかったがそれ以外の反撃はなく男は倒れ去った。
前列を見ると予想通りヴィリバルト先生が男を気絶させていた。
「ディーネさんにガイト君……だね、どうしてここに」
「ご無沙汰しております、先生」
血まみれの自分を誤魔化そうと何とか作り笑いをするも余計怖がらせてしまったようで空気が凍り付く。
「失礼、やらなきゃこっちがやられていたんで」
そう言って男の剣を奪い取ると今度はロッカーに行きそこの剣も引き抜く。
「先生、この剣を使って敵の探知をお願いします、こっちからも仕掛けないと」
オレ達と異なり模造剣を持っていない先生に剣を渡す。
「分かった、ガイアの我々は攻撃の時に足場を壊してしまうからな。これくらいしか力に慣れそうにないからね」
確かに、地面から岩を出すとそれだけで学園が壊れてしまう。自分たちの身に危険が及んだ時以外に攻撃はしにくい。
先生が剣を地面に突き刺す姿を見ながら納得を示す。
「見えた、恐らくこの階は教室にそれぞれ二人ずつで四人。学園長室前に一人、学園長室に二人だ。」
「学園長室に二人か……恐らくバーンか、オレを探すのを諦めたのか。それとも何かあるのか? ディーネ、どう思う? 」
「……ごめん、分からない。それよりガイト、大丈夫? 」
何を心配しているのだろう? 考えて血まみれだったことを思い出した。
「ああ、覚悟の上だからな。大丈夫だ。とりあえずウィンディとブリザードの救出に向かおう。ありがとうございました。お気をつけて」
挨拶を済ませると教室を後にした。
~~
「……次は私が後列から」と口にしたディーネを抑えて更に二人をしとめてフウトとジェシーを救出し学園長室目指して階段を上る。
「びっくりしたわよ、突然入ってきてグサッて」
「ああ。だが、剣士としてはガイトが正しい」
「他人事みたいに言ってるけどこれから経験するかもしれない、引き返すなら今のうちだぞ」
上着で血を拭う。とりあえず見た目は分からないけれど視界はマシになった。
「誰が引き返すものですか」
「そうだな、君だけにやらせるわけにはいかない」
「……うん」
「分かった」
ひたすら学園長室までの道を進む。敵は後二人、学園長が指輪を渡すまでに辿り着けるか。
もし、ここで指輪が取られたらウォルバーストさんは何のために……
苦しくなる胸を抑えながら足を動かすとそこに倒れている二人の姿があった。制服を見るにウチの学園の生徒のようだ。
急いで駆け寄ると二人の素性が判明する、ライオとルーカスだ。二人が血まみれで倒れているのだ。
「どうしてこんなとこに……何やってたんだ」
「悪い、バーンがいたからさ……俺達がやらねえとってライオとよ……二人で挑んだけど……負けちまった」
腹を抉られ火傷の跡があるルーカスが苦しそうに口にする。ライオも同じ状態だが息がない。恐らくオレ達がブリザードかウィンディの救出に向かっているときに二人で抜け出してバーンに挑んだのだろう。
「もういい、気持ちは伝わった。傷が開くからそれ以上は言うな、強くなって見返すためにも今は生きるために最善を尽くしてくれ。二人がバーンを足止めしてくれたから、皆を助けることが出来た。本当にありがとう」
ルーカスの口元に笑みが浮かぶ。了承したと受け取ったオレは彼を抱えると保健室まで飛んだ。
「あら、いらっしゃ……どうしたのその子」
どういうことか医務室は制圧されていなかったようだ。先生が呑気にそんな反応をする。
「彼を頼みます、恐らく炎を纏った剣で斬られました」
「頼むって何が何だか……ガイト君はどこに行くの」
「こんなことをした張本人を殺しに行きます」
言い切ると返事を待たずに医務室を後にした。




