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「突破」

 張り詰めた空気の中、必死に打開策を考える。敵はたった二人、誰が死んでも恨みなしの突撃……は却下だ、そうなると一人で何かしなければいけないのだがまとまった場所にいるならともかく教室の最前列と最後列とバラバラだ。そして最前列では剣を持っていない先生が敵の近くにいるため実質人質状態だ。それに二人のソウルが分からない。特にオレが今から取ろうとしているロッカーの非常用の本物の剣を取りに行くのを阻むであろう最後列の男だ。距離は数メートルとはいえウィンディだとしたら遠距離攻撃を受けてしまう。

 ……そううまい考えは浮かばないな。どうしたものか

 参りました、と両手を挙げかけたその時、


「いつまでこうしていればいいのかしら。バーン君が戻ってくれまで待てというの? このあとやることが沢山あるのだけれど……言っておくけどね、貴方一人くらいなら一人で十分相手に出来るのよ? 」

「だがここには二人いるんだぜ」


 男がニヤニヤと笑うと先生は何も言わなくなった。

 しびれを切らした先生の暴走……のように見えるがこれは実質オレへのメッセージだろう。彼女は恐らく目の前の男は引き受けるからバーンが来る前に後列の男を何とかしろと伝えてきたのだ。

 ……了解しました。

 口は出せないので心で応じると一気に目の前のロッカー目掛けて走り出す。


「「なっ……」」


 男二人が驚きの声を上げる。


「畜生、隠れてやがったか。何が狙いか知らねえがさせるか! 」


 言葉と共に目の前の男の剣が風を纏う。

 ……ウィンディか! 想定済みだ!

 瞼を閉じると模造剣を引きぬき力を込める。瞬間、剣が眩い光を放った。


「何だ、目が……目が……」

「クソっ、なんてこった、光の剣士はそこに座ってるやつじゃねえのかよ」


 どうやら前列の男は光源から離れすぎていて影響がなかったようだ。だが、


「よそ見をするなんて随分と余裕ね……ハアっ! 」


 直後、鈍い音が響き渡る。どうやら先生が敵を倒したようだ。瞼を開くとそこには剣を落として必死に目を抑えている男の姿。


「隙あり」


 すかさず剝き出しの腹に模造剣を叩きこむ。本物の剣と異なり殺傷力はないが腹部に受けるとかなりのダメージになることは実証済みだ。


「ぐふっ……」


 男は声を上げると同時に動かなくなった。


 ~~

「……とこんな感じでいいかしら」


 同じく非常用の縄で男二人をぐるぐるに縛り猿轡(さるぐつわ)を噛ませ終えた先生がパンパンと両手をはらう。

 何というかここまで抵抗できないようにされると憐れみも覚えるが元は襲撃者だ。命があるだけマシと考えてもらうしかない。


「さてと、それじゃあ……バーン君を迎え撃ちましょうか」

「いえ、ここに奪ったのを含めて四本の剣があります。他のクラスの救出に向かうべきかと」

「貴方達が? 」

「はい、オレと誰かで二本持って救出に向かうので先生と誰かでバーンを迎え撃ってください」


 先生が目を見開く。


「反対よ、危険が多いわ。それに人を殺すことになるかもしれない、人によってはそれが出来なくて道を断たれるものもいるの……貴方に出来る? 」

「出来ますよ、やらなければこちらがやられますし」


 剣を力強く握りしめる。

 でも、先生の言う通り人を殺すというのはいざその時になると戸惑うかもしれない。その決断を一期生の時から強いるというのは酷だ。


「解放はオレだけで行きます。先生はできれば他二名の生徒と共に剣を使って皆を守ってください」

「どうしても行くのね」

「はい」


 どのみちもうバーンは生かしては置けない。ここでも失敗したとなると次に何をしでかすか分からないからだ。そして先生だと優しいから生かしてしまうかもしれない。それならばオレの手で直接葬るしかない。


「……なら、私も行く」


 後列に座っていた一人の生徒が立ちあがる。ディーネだった。


「無理だ、バディだからってこんな時まで付き合う必要はない」

「……行く」

「殺せるときに殺さないとダメなんだぞ」

「……それでも行く」

「剣を取ったからって安心はできないこちらの剣を奪おうと首を絞めてくるかもしれない。やめた方が良い」

「……それでも行く」


 オレの言葉を無視してとうとう彼女は目の前まで来た。腹部に一発喰らわせて気絶させようと拳を握る。


「……そんな辛いこと、ガイト一人に背負わせられない」


 彼女の言葉と自分の拳が震えていることに気が付いたのはほぼ同時だった。確かに、一人だとダメでもオレが躊躇ったらディーネが死ぬというのが視覚的にも明らかならやれるかもしれない。


「分かった、ただしオレはディーネが危険な状況でも助けない。代わりにディーネは絶対に助けるな。それで良いな」

「……うん」


 ちょっと冷たい言い方だっただろうか、と後悔するも彼女は即座に了承した。とにかくここを乗り切れば謝罪の機会は幾らでもある。

 そうだ、二人でここを生き残ればいい……

 今度はしっかりと剣を握った。

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