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「帰還」

 まだ目が覚めないケネットさんを担いで空を飛びヴィルゲルさん達の元へと戻る。上空からみて驚いたが崖の所へは橋が出来上がっていた。


「その橋は」

「ああ、待っているだけというのは我慢できなくてな」

「簡単なやつだが橋を作ったんだよォ、アロー達の馬車が通れるようになァ」

「そうですね、このままでは皆通れませんから」

「それよりどうやらやったんだなァ」

「ええ」

「しかし、その男性は一体」


 アントーンさんがケネットさんを見て口にする。


「光のソウルでヘルナイツになった人を戻せると聞いたのでこうして連れてきました」


 この状況ではリラさんの時みたいに誤魔化すわけにはいかないと嘘をつく。


「おい、それってェ……大丈夫なのかァ? 」

「恐らく、彼が目覚めないと分かりませんが……」


 言い終えぬうちにシェスティンさんがケネットさんに剣を向ける。


「もし、彼がまだヘルナイツだったらその時は、ワタシにやらせてちょうだい」

「……はい」

「ウォルバースト君、何か言ってた? 」

「最高のチームだったと」

「……そう」

「それなら、もっと頼ってくれても良かったのによォ」

「もう、逃げたくなかったそうです」


 口にすると突然シェスティンさんが膝をついた。


「シェスティンさん! 大丈夫ですか? 」

「ええ、ごめんなさい。風にあたってくるわ」

 一人で森の奥へと消える彼女を見送る。

「長い付き合いだったのでしょうね」

「まさか同期がなァ」

「それも、突然の戦闘だ。無理はない。しかし、そんな時間もないかもしれんな」

「どういう意味ですか? 」

「馬車が来る」


 程なくしてカラカラという音が響いたかと思うと数台の馬車がこちらへと向かってくるのが視界に入る。窓から顔を覗かせているのはメイソン先生だ。何故かこの場にいるオレ達を見て急遽馬車を止めると飛び出してくる。


「貴方達、どうしてこんな場所に」

「もう一人ヘルナイツが出てきて、それでウォルバーストさんが……」

「そう……」


 皆まで言わずとも彼女は察した様子だ。


「私達の方は皆無事よ、ヘルナイツがこちらに攻撃する気配もなく急に去って妙だなとは考えたけれど……こういうことだったなんて」


 皆、無事か……良かった。


「とにかく、馬車に乗りなさい。帰るわよ」

「はい」


 ああ、今度こそ帰るんだ。

 オレ達はシェスティンさんを連れ五人で馬車へと乗り込んだ。


 ~~

 誰一人、言葉を発さないままオレ達は寮へと帰還した。辺りが闇に包まれる中寮長がオレ達を迎えようとこちらに来る。


「ヘルナイツと戦ったと聞いてから皆が無事で良かっ……」


 言葉を切る。当然だ、学園で会議があるという先生達と別の寮の生徒は馬車に残り降りたのはオレ達二人だけなのだから。それでも僅かな希望に(すが)るように彼女は尋ねる。


「ウォルバースト君は…………先生と一緒に学園に向かったのよね? 」


 答えたくなかった。だから、オレは代わりに彼から受け継いだ剣を見せる。


「そう…………二人共辛かったね……ご飯出来てるから食べて行って」

「行きましょ」


 ヘルガさんに促されて門から寮への道を進む。


「寮長、二年も一緒にいたから……ね? 」


 そう言うヘルガさんも目に涙をためている。それに彼女も気が付いたようで慌てて指で拭った。


「って、そういうアタシも泣いてる。ごめんね、頼りなくて」

「いえ、頼りなくなんてありませんよ。オレなんて、涙も出てこないんです」


 そう、オレは今まで泣いていなかった。

 それともあれだけ世話になったウォルバーストさんはどうでもいい人間だったのか? そんなに冷酷な人間なのか?

 自己嫌悪に(さいな)まれながらロビーを通った時だった。


「そんなことないよ」


 ヘルガさんがニッコリと笑う。


「まだ整理がついていないだけかもしれないし泣かないからって悲しんでいないわけじゃないってこと。ガイト君は馬車でもずっとすごい顔してたよ、それはガイト君が悲しんでいる証だとアタシは思うな」

「ヘルガさん」

「だから、自分を責める必要はないよ……それじゃあ、また」


 そう言い残してヘルガさんは食堂ではなく女子寮へと去っていく。涙を後輩のオレに見せたくなかったのだろう。と少し進むと彼女が去った後に柱の裏側から出てくる人物がいた。


「……ガイト」


 ディーネだった。


「待っていたのか? 」

「……うん、帰ってきて良かった……どうしたの? すごい顔してる」

「そんなにか? 」


 オレの問いに彼女は頷く。


「……何かあったの? 」


 と尋ねる彼女が剣を見てハッとする。


「……その剣、嘘」

「嘘じゃない。ウォルバーストさんはもういない……信じられないだろう? オレも今でも良く分からないんだ。でもヘルナイツの闇のソウルでどんどん消えて行って……最高のチームだったって……オレもそう思うよ。それで、最後はこの剣をオレに託して……」


 不意にディーネがオレに抱き着いてくる。


「ディーネ……急にどうしたんだ」

「……だってガイトが……泣いてるから」


 泣いてる? オレが?

 半信半疑で目元を触れるとまだ暖かい液体が冷えた指先に触れた。

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