「折れない剣」
消え去ったウォルバーストさんを追うように風の吹くままに視線を動かし空を見上げる。清々しいまでの青空だった。つい数分前までオレ達はこの空のように晴れやかに団欒していたのだと懐かしむ。もうあの頃には戻れない、浸ってもいられない。オレにはまだやることが残っているのだから……
「…………2時の方向だ」
「ありがとうございます」
探知してくれたアントーンさんに礼を言うと光の翼を出現させるとヴィルゲルさんの剣を残してヘルナイツを目掛けて飛び立つ。探すこと数分、遂にヘルナイツの姿を捕らえた。背を向けている形なので不意打ちが出来るかもしれないがそれでは意味がない。
「見つけたぞ」
ピタリと歩みを止めたヘルナイツが振り返る。
「追ってくるとは愚かな、あの男に免じて指輪共々見逃してやったというのに何だ貴様は」
「オレは、ウォルバーストさんのチームメイトのガイトだ! 」
「敵討ちという訳か……ならばいつでもかかってくるがいい」
「それじゃ、意味がないんだ」
「何? 」
「出せよ、ウォルバーストさんの時みたいに」
「良かろう、死に様くらいは決めさせてやる『エターナルダーク』」
ヘルナイツが剣を高く掲げると先ほど見たような闇のソウルの巨大な剣が出現するのを見て託された剣を両手で握る。
「貴様の戦法は知っている、その距離で良いのか? 」
「十分だ、行くぞ! 『ライトニングスラッシュ』」
瞬間、最高速度でヘルナイツへと向かう。
狙いは剣だ、今回ばかりは真っ向勝負でないと意味がない。真っ向からへし折ってやる!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」
「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! どういうことだ、先程よりも力が……だが、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ヘルナイツが力を籠め思わず押し返されそうになるのを歯を食いしばりあらん限りの力を込めて剣を握り耐える。
しばらく五分五分の状態が続いた後、終わりを告げるようにピシピシッとヘルナイツの剣が悲鳴を上げる。
「な、なに、何故……剣が……まさか、あの時の衝突で……」
「そうだ、オレ達はチームだからな。仲間が作ってくれた勝機を見逃すわけがないだろ」
「だが、その剣も先程の戦闘でダメージを……」
「ウォルバーストさんの剣が! 折れるわけないだろ! 知らないのか? ソウルの戦いはソウルが強い方が勝つんだ……よ! 」
ヘルナイツの剣のヒビが大きくなってきたのでトドメとばかりに押し切るとバキンとへし折れる、これでもうヘルナイツの身を守るのは何もない。がら空きの彼を前に剣を構える。
こいつのせいでウォルバーストさんは……光のソウルを纏わずに刺してしまえ。
悪魔が囁く。しかし、悪いのはサタンであってこの人も被害者だ、それはできない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
光り輝く剣を突き刺す、直後オレは彼の記憶の中へと招かれる。
~~
大勢の戦士がオレを前に地に伏して涙を流している。
『行け、ここは引き受ける』
振り向くとそこにはヘルナイツと魔獣の大群が押し寄せている。
『でも隊長、それなら私が代わりに! 』
一人の兵士が口にすると続くように数人が自分が引き付けると口にする。
『ならぬ! お主は今いくつだ』
視線が合った兵士が背筋を伸ばす。
『今年で二十三になります』
『まだ若いではないか。ここは年老いたオレが引き受ける』
『でも、隊長の方は私達なんかよりも何倍もサタンと戦うための力になります、やはり私が……』
『それは違う! 』
一喝すると頬を緩める。
『力など関係ない。よく食べ、よく遊び、よく眠れ。その権利は若いお主達が優先されるべきなのだ』
そう口にすると足が動きヘルナイツの大群へと突っ込んでいく。
『必ず援軍を連れて助けに来ますから! ケネット隊長! 』
一人の兵士の声が背後から響いた。
~~
記憶から帰ってきたオレは思わず剣を落とす。何という偶然、いや運命のいたずらか。この人こそがウォルバーストさんの憧れていたケネットさんだった。彼は尊敬する人物の手で眠りについたということになる。
「道理で強いわけだ。ウォルバーストさん、やりましたよ……オレ達で」
顔を上げどこまでも広い青空を見つめるとそう呟いた。




