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「魔を呼ぶ指輪」

「な、なんだァ人かァ? 」

「空いているのと間違えたのだろうか? 」

「馬車が何台も並んでいるのに? 」

「一人となると強盗にしては、なかなか豪胆だぜ」


 突如現れた人物に対して皆が各々の反応を示す中たった今男が口にした一言を反芻する。今彼はサタンと口にした、ということはあの男は恐らくヘルソルジャーなのだろう。そして彼の目的は……以前のヘルソルジャーとなったリラさんが語っていたことを考えるとどこかにサタンの力を封印したという何かがあるということだ。それは一体……


「指輪! いやでもどうして……やはり別の」

「指輪がどうかしたのか? 」

「いえ……」


 咄嗟に誤魔化す。彼等に話したら十中八九戦闘になることが予見されたからだ。ヘルソルジャーとの戦いは命懸けだ。後方にはアローさん達、先生達、三期生達と幾つもの馬車がある。そんな所で戦闘を始めるくらいならばあと何個封じ込められたアイテムがあるのかは分からないけれどここで丁度見える森の中へと投げてしまってお引き取りを願った方が被害が少ない。皆の目も男に向いていて絶好の機会だ。

 指に手をかけたその時だった。


「渡したらダメよ! 」


 突如先生が目の前を横切り男に斬りかかる。流石というべき状況判断だけど今回に限っては恨めしい。


「交渉決裂かあ~仕方ないな~」

 男は冷たく言い放つとどういうわけか森の中へと入り込んだ。


「取り敢えずこれで体制を立て直せるわね。安心なさい、今どの馬車も停車しているけれど一人ずつこうして教師が付いているから」

「先生、どうして」

「言ったでしょ? 今度は私達も戦うって」

「なら、オレも戦います、ヘルソルジャーとの戦いは光のソウルがないと」


 馬車から出ようとドアに手をかけると彼女は剣を横に振りそれを制した。


「確かに貴方がいるなら有利なことには変わりはないけれど、貴方達は昨日の戦いで消耗しているわ。ここは私達に任せなさい」

「その理屈ならボク達は加勢しても構いませんよね」

「残念だけれど活躍できなかったからね」

「体力なら自信がありますよ」

「代表として良いところをみせないと」


 後方の馬車から降りてきたアローさん達四人が声をかける。


「分かったわ、ただし後方支援に徹してもらうわよ」


 既に降りてきてしまったのだから仕方ないとばかりにそう口にすると御者を見る。


「出してください。何が起きても止まらないで」

「は、はい」


 直後、馬車は猛スピードで駆け出し先生達の姿は見えなくなった。


「ガイト、ヘルソルジャーとはどういうことだ? 」


 気が付くと四人の視線が集中していた。


 ~~

 観念したオレはリラさんのことを隠してヘルソルジャーとの戦闘の件を四人に話し終える。


「なるほど、サタンと共に滅んだと聞いていたが、まさか生きていたとはなあ」

「そればかりかサタンも復活の危機だなんて、恐ろしいことになっていたのね」

「にしてもすげえ経験してたんだなァ……って幾ら先生とアローとはいえ光の剣士無しで大丈夫なのかよォ」

「そこは恐らく問題ないだろう。ヘルソルジャーに対して有利に戦えるがいなければ敗れないということはない、と講義で聴いたからな」

「これにサタンの力が入っているのか」


 ウォルバーストさんが指輪をまじまじと見つめる。


「本当に見た目は普通の指輪なのに不思議よね」


 実際、オレにも信じ難い話だ以前説明を受けたときはなんのことだか分からなかった。


「あ」


 そういえば上着のポケットに拾っておいた壊されたネックレスを入れたままだったのを思い出し取り出す。ネックレスはトップ部分が破壊されているだけでそれ以外は原型を留めていた。


「これが前に破壊されたネックレスなのですが、別に変ったところもありませんね」

「とにかく、これを守り抜けば良いということだな」

「ええ、幸い敵は先生方が引き受けてくれたし後はこのまま無事に……」


 無事につけばいい……シェスティンさんがそう言いかけた時だった。ヒヒーン! 再び馬が急停車をする。


「な、なんだァ」

「まさか……」


 先生の言葉を受けて停車しないはずの馬車が急停車するなんてよっぽどの事情があったに違いない。窓から身を乗り出す、するとそこには巨大な頭が三つあり生物の上で腕を組んでいる巨漢の男の姿があった。

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