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「敗北の理由」

 馬車がノーブル学園を目指して進む。馬車は二台のためチーム毎に乗ろうと言うことで車内ではウォルバーストさん、シェスティンさんと向き合う形でオレ、ヴィルゲルさん、アントーンさんが座っている。正確にはオレ以外は眠っているという方が正しいかもしれない。朝が早かったから当然なのだろう、かくいうオレが眠っていないのには理由があった。それは実際の剣を使用するため今眠っているウォルバーストさんが腰につけている剣を奪ってしまおう……というものではなく去年のクラス対抗戦についてだ。

 以前、ウォルバーストさんは去年の雪辱を晴らすと言った。それはつまり前回は敗北したということに他ならないだろう。でもオレにはウォルバーストさんとアローさんがいたチームが負けるということが信じられないことだ。ノーブル学園にはそれほど強い選手がいるのか。それを確かめたいのだ。

 ……シェスティンさんの口から。

 正直、ウォルバーストさんやアローさんに敗北の理由を尋ねるのは気が引けた。だからこうして何とか以前も選手として出場したであろうかつ辛口な彼女が真っ先に目覚めることを祈りながら待っているのであった。


「……んっ」


 願いも空しく目覚めたのはアントーンさんだった。彼は目をパチパチさせた後に辺りを見回して状況を把握しようとしている。

 この際、選手目線でなくてもウォルバーストさんでないならOKだ。いやむしろ冷静に分析をしているであろうアントーンさんで良かったのかもしれない。


「アントーンさん」


 そう判断を下すと意を決して声をかける。


「ああ……起きていたのか。凄いな君は」

「いえ、眠れなかっただけですよ。それよりもお聞きしたいことがあるのですが」

「……なんだね」


 声を潜めたオレに対して彼は眉を(ひそ)める。


「あの、どうして去年の対抗戦は負けてしまったのですか? アローさんにウォルバーストさんもいたのに」

「ああ……」


 事情を把握したのかウォルバーストさんを一瞥するアントーンさん。


「去年は二人が同じチームだったのだが、敗退してしまってな。無論、三期生の先輩方も強かった。だがしかし、二人の敗退は痛かったのだろう」

「お二人がチームだったのに負けてしまったのですか? 」

「そうだ、確か迷路だったか。彼等はモンスターを倒しながら順調にゴールを目指していたのだが惜しくも先を越されてしまってな」

「お二人共迷路は不利かもしれませんね」


 頭を掻く。迷路となると一番有利なのはガイアのソウル持ちの選手だろう。二人が苦戦するのも納得がいった。


「そういえば、引っかかることがあってな」

「引っかかることですか? 」

「ああ、確かあの時は……」

「実力だ」


 突如声がして慌てて振り向くと声の主はやはりウォルバーストさんだった。


「ウォルバーストさん、どうして」


 あまりのタイミングの良さに声が裏返ってしまった。


「何か様子がおかしかったからな。ちょっと様子を窺っていたってわけだ」


 どうやら狸寝入りだったようだ。数時間起きていたオレが言うのも何だけれど探るためだけに数時間狸寝入りをしていたというのかこの人は……


「おみそれしました」

「まあ、試合に集中できないような深刻な悩みとかでなくて良かった。とにかく、去年の敗北は俺達の実力不足だ。アントーンが覚えた違和感も気のせいだ」

「……申し訳ございません」

「いえいえ、オレの方こそ変なことを尋ねてしまい申し訳ございませんでした」


 ウォルバーストさんに謝罪するアントーンさんに謝罪をする。それを見てウォルバーストさんが笑った。


「今回は迷路が来ようとバッチリと対策はしてあるから心配するな。前回みたいにはならないさ」


 オレの胸を叩き彼は力強くそう言うのであった。

 カタカタカタカタ

 青空の下、馬車はオレ達を乗せてノーブル学園への道をひたすら進んでいった。

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