「お説教」
翌日、新学期当日の朝、目覚めて朝食を取ろうとドアに手をかけた時だった。コンコン、とドアがノックされる。
こんな朝早くに誰だろう、と眠気故にまだ回らない頭で考えるもなかなか出てこない。そうこうしているうちにもう一度コンコンとノックがされた。
「ガイト君、今いいかしら? 」
メイソン先生の声だ。一瞬で脳が覚醒する。覚悟していたお説教だろう。昨夜は寝ていたようだったけれどまあそうなるとお説教は今の時間になるのは当然か、朝から説教とは気が滅入るけれど仕方ないか。いやしかし先生にしても今この職場に行く前の時間の説教は時間外労働では? 先生も大変だなあ。
とその原因を作った人物が同情をしてみる。
「先生でしたか、只今開けさせていただきます」
居留守を使おうにもこの時間では寮の出入り口も空いておらず誤魔化せようがないので観念して開けることにした。
ドアを開くと昨日とは違い健康な様子の彼女の姿があった。思えば先ほどの声も昨日とは違い美しく迫力を取り戻した声だった。
立ち話で注目されるのも嫌なので「お入りください」と右へと避けると彼女は中へと入ってくれた。
「元気になったようで何よりです」
「誰かさんのおかげでぐっすりと眠れたかしらね」
皮肉めいた返しに冷や汗をかく。相当怒っているようだ。数時間単位になるかもしれないと覚悟をする。
「さてガイト君、どうして私が来たのかお分かりかしら? 」
「はい、すみませんでした。先生の反対を押し切ってまで進んだのに、オレがしっかりしていれば……」
オレがしっかりしていればカルロスさんは死なずに済んだ。未熟さ故に先生の同期を死なせてしまった。そのことを詫びようとすると先生は「はあ……」と額に手を当てた。
「どうやら分かっていないようね」
分かっていない? 聞き間違えだろうか? 何が分かっていないのだろう、力の使い方か?
気になり彼女を見つめると彼女は意外なことを口にした。
「カルロス君のことは本当に残念に思うわ。だけど別に貴方の実力不足を攻めに来たわけじゃないの、むしろその逆よ。昨日も話したけれど貴方はまだ学生、それも一期生なの」
「でも、オレは光の剣士で……」
「そうよ、貴方は伝説のソウルの持ち主、貴方に期待している人は大勢いるわ、でもそれだけ皆心配もしているのよ。昨日の出来事を思い返してみなさい」
「昨日の出来事……」
ジェシー達は考えるなといったけれど馬車の中でも、寮に帰ってからもカルロスさんを死なせてしまったことについて考えていた。でもそれではないという。それなら先生は何を言いたいんだ?
考えるも答えは見つからず時間だけが流れていった。
「分からないようだから私から言うわ」
朝日に照らされながら先生が切り出す。
「寮長が来たでしょう? 他の先生達を連れて」
「ええ……」
「私は最初から寮長に頼る気もなく他の先生達を連れて行く気もなかったわ。外出しようとすると止められるから事情を説明しただけなの」
「それって……」
「ええ。私も先程聞いて驚いたのだけど、全部寮長がやったの。それに他の先生達も嫌な顔一つせずに向かったそうよ。分かる? 一期生の貴方達が心配で大勢の人が動いたの。それだけは忘れないで。そのことを伝えに来たの」
先生は「それじゃあこれで」と踵を返し出口へと向かう。内容も時間も意外な説教だった、でも納得できないことが一つあり引き下がることは出来なかった。オレはそれを思いきりぶつけるべく口を開く。
「じゃあ、今度からヘルソルジャーが出現して救援要請が来たら無視しろってことですか? 」
ヘルソルジャーは他にもいる。だというのに一体相手に大勢の剣士が命を奪われることを知ってしまった今、それを見過ごすことはできない。それに話していないけれどヘルソルジャーを人間に戻すことが出来るのはオレだけなんだ。引き下がるわけにはいかない。
彼女はもう一度首を横に振った。
「まだ分かっていないようね。別に救援要請に従うなと言っているわけじゃないわ。良いわよ、従いたいなら好きにしなさい。でもその時は万全を期して私達教師数人もついていくって話よ」
扉がバタンと閉まる。
要するに先生は一人で抱え込まずに皆を頼れと伝えたかったわけだ。相変わらず伝え方が回りくどく不器用だなと小さく笑う。少し気が楽になった。
グウウ
待っていましたとばかりに腹が鳴る。そういえば、昨日から何も食べていなかった。
「朝ご飯食べに行くか」
ポツリと呟くとドアを開き食堂へと向かった。




