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「ヘルソルジャー登場」

 馬車に揺れられること数時間、陽が沈みかけたころに荒野で馬車は停止した。


「ここで待っていてくれ」


 カルロスさんは御者に合図を送ると立ち上がる。


「すまないがここからは歩くことになる。敵がどこにいるか分からないとはいえ帰りの足を確保しておきたくてね、皆この辺りからは歩いているはずだ」


 彼の言うことは確かで窓から見渡すと夕陽により赤く染められた馬達の姿が目に入った。恐らく彼らはいつも敵の場所が分かれば目標までの距離を決めてこうしているのだろう。

 うっかり馬が全滅したら徒歩で帰宅か、確かにそれは御免だな。

 馬車を降りようと立ち上がろうとして大事なことに気が付いた。オレ達は模造剣しか持っていないのだ。幾ら遠くから見ていればいいとはいえそれでは心許ない。


「あの、剣が模造剣しかないのですが……」


 もしこれでそれでいいだろうと返されたら帰ろうと心に決めながら言葉を発する。ところが有難いことにそうはならなかった。


「ああ、うっかりしていた。すまない」


 彼は額に手を当て謝罪の言葉を述べるとオレ達が座っている椅子を指差した。


「その椅子を持ち上げてみてくれ、荷物入れになっている。中に非常用の剣と防具が入っている」


 言われるがまま立ち上がり座っていた部分に手をかけてみると軽々と持ち上がり中から赤と青に金色で縁取られている二本の剣と銀色に輝く防具が二セット入っていた。


「何よこの剣」

「ああ、滅多にお目にかかれない品物ばかり。流石は騎士団といったところだ」


 ジェシー達の方にも二人分が入っていたようだ。防具を身に着け模造剣を抜き代わりに剣をベルトに差し込むと外に出る。


「ちょっと身体に合うのかわからないのが申し訳ないが……」


 再び謝罪の言葉を述べると同時に彼は歩きだす。

「行こう、せっかくだから安全を考えて陽が昇っているうちに目的地に着きたい」

 彼の言う通り明るいうちに着いた方が安全だろう。オレ達は頷くと彼の後に続く。。

 岩で視界の悪い荒野を進み坂を上ると見晴らしのいい場所へとたどり着いた。彼はそこで立ち止まる。


「着いた、君達はここで待機だ。敵の住処はあそこだ」


 10メートル程先に見える洞窟を指差す。


「住処ってヘルソルジャーって眠るのかしら」

「騒ぎを起こしたくないのか昼間は息を潜めているんだ。見ての通り少し距離があるがそこは心配ない、先輩達が誘導する、君たちはここで息を潜めて観察して射程内に入ったらガイト君がソウルを使用してくれればいい。万が一の時は私が守る」


 オレ達の目を見て彼がキッパリと口にする。本当に頼もしい、この分ならば本当に何も心配はないだろう。


「ん? 」


 ふと、彼が背を向けている洞窟周辺に動く人影の姿が見えた。


「カルロスさん、あれは……」


 ヘルソルジャーかと目を凝らす。


「ああ、心配いらない。先輩達はあの洞窟付近で襲撃の準備をしていて……」


 言葉を切る、当然だ。オレ達の視界にはおぞましい光景が広がっていたのだ。動いているのは彼の言う通り先輩の剣士だろう。しかし彼は辺り一面真っ赤に染まっている。次の瞬間、彼は倒れてしまった。


「くっ……」

「な、なに……が……」

「どういう……こと……」

「……うそ……」


 動揺するオレ達の前でカルロスさんが剣を抜き地面に突き刺した。


「待っていてくれ、今事態を把握する『サーチ』」


 ガイアのソウルである彼はそう口にすると目を閉じた、行動から察するにこうすると地面を伝って情報が把握できるのだろう。


「…………全滅だ」


 数分の沈黙の後、涙のしずくが地面に落ちた。

 先輩を一度に失うということはよくあることなのだろうか?

 目に涙を浮かべる彼を見て考える。

 剣士はこのような悲しみとも戦わなければならないのか

 仲の良かった人がある日突然いなくなる、それが下手すると日常なのかもしれない世界に愕然とする。しかし感傷に浸っている場合でもなかった。


「カルロスさん、敵は……」

「調べている……だが見つからない」


 彼も分かっていたようだ。悲しみながらもしっかりと敵を探していたのだ。剣士の仕事に圧倒される。

 でも、隠れ家にいないとはどういうことだろう?


「精度は落ちるが範囲を広げる」

「ならオレ達は……」

「ああ、ボク達は周囲を固めよう」


 黙ってみているわけにはいかず念のために剣を抜き振り返ったその時だった。


「あら、賢明な判断ね」


 突如目の前に現れた女性が口にする。彼女はボサボサの茶色の髪を(なび)かせ所々肌が見えるボロボロの服を身に纏い手には血塗られた剣を持っていた。

 民間人か? いや、あの剣にオレ達にこの自信満々な態度は違う。敵だ!


「でも、ちょーっと遅かったかしら? 」


 オレが判断を下すと同時に彼女が高速でこちらを目掛けて跳び上がった。

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