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「ジェシー登場」

  前を向けば太陽に照らされきらきらと(きら)めくシルバーヘア、後ろを向けばブロンドヘアと両手に花、前後に花というべき奇妙な状態で引っ張られるままに廊下を歩く。


「それでジェシー()に何の用なの?」

「挨拶をしようと思って」

「なるほど、トーナメント初戦は貴方と戦うのね」

「うっ……」


  言葉に詰まるがそれは肯定を意味している。


「やっぱりね、だってそうでしょ? 代表である人がわざわざ待ち伏せてまで朝早くに会いに来るなんて対戦相手になったくらいしかないでしょう? それも初戦で、決勝ならここまで急ぐ必要もないでしょうからね」


  何ということだろう、発言は最低限に留めたつもりなのにあっという間に情報が抜き出されてしまった。この洞察力は武器屋で働いて身に着けたものだろうか? どこに落ち度があったかとディーネを見るも彼女もただただ面食らったという様子だ。

  かくなる上はこちらも何か情報を抜き出すしかない。対抗心を燃やすオレにディーネが囁く。


「……ガイトも彼女から『ジェシー君』って引き出した」


  そうだ、オレも彼女からジェシーが男であるという情報を抜き出したのだ。焦って何か更に口走ってしまうところだった。ディーネに微笑む。

  さて、この情報を元に更に何か情報を吊り上げるとしよう。


「ジェシー君って……モテるでしょ? 」

「そういう話は聞かないわね」


  ということは、異性は苦手もしくは興味がそんなにないということか。フウトレベルがもう一人となると手強そうだ。


「彼のクラスでの評判は? 」

「評判? えーっとそれは……氷のようで暖かい、かしら」


  ……分からん。

  しかし、冷静になって考えると対戦相手とバラしてしまったオレに彼女が情報を渡してくれるわけがないというごく当たり前の結論に辿り着く。彼女がオレの名前を知っていたりと情報戦はクラス内で代表を決めるために戦っていた時から既に始まっていたのだろう。そして当たり前でないことが一つあったことにも気が付く。


「そういえば、名前聞いてなかった、名前は? 」


  そう、ここまで会話をしている彼女の名前を知らないのだ。


「………………」


  ……なぜそこで黙る。自分の名前が嫌いなのだろうか?

  疑問に思うも手掛かりは彼女しかない、オレ達は黙って彼女の後をついて行った。


 ~~

「ここでいいわね」


  辿り着いたのは三階の奥の角の教室前、建物で影になっていて涼しいが何もないときは人が寄り付かなそうな場所だ。彼は一人が好きなのだろうか?


「彼は中に? 」

「いえ、中にはいないわ。ここ鍵がかかっていて入れないもの」


  そう言いながら片手でガタガタと揺らして見せるも確かに鍵がかかっていて一向に扉は開かない。

  ……どういうことだ、それならどうしてここに連れてきたんだ? 他には通路も人が入れそうな場所もない……もしや、口封じ? オレを当日までこの部屋まで閉じ込めておけばとかそういうやつ?

  嫌な予感が汗となり体から湧き出てきたので彼女に繋がれた手を放し剣に手をかける。すると彼女はワンテンポ遅れて口を開く。


「そう、気が付いたようね」


  彼女が不敵に笑い口にする。影にいるとはいえ夏だというのに体が妙に寒気を覚える。


「ご明察、私がジェシーよ。初めまして……ではないけれど」

「え? 」


  目の前の女性が探していた人物だったという衝撃の事実に剣とディーネの手を放しバンザイしたい衝動に駆られる。


「でも、ほら、ジェシーっていうのは……」

「……ガイトと同じ孤児院の男の子の名前」

「そうなのよね、私の名前は周りの同名者の性別でイメージが固定されちゃうのよね」


  額に手を当てる彼女。一応この話自体ウソの可能性も疑っているのだけれど、この落ち込みっぷりは嘘ではなさそうだ……と考えているとディーネが言う。


「……どこかで見たと思ったら入学試験の時、隣で凄い剣裁きをしていた人」


  どうやら一気にそれらしくなった。


「じゃあ、どうしてウソまで着いてオレ達をこんな人気(ひとけ)のないところに」

「それは……ウソをついたことはごめんなさい。貴方達と話し合いがしたくて」

「話し合い? 」

「ええ、彼女も交えて三人で」


  眉を(ひそ)める。三人で話し合い、と言われてもピンとくるものがない。


「疑ったことと名前の件、悪かったよ」

「良いのよ、私も紛らわしかったし勘違いを利用して楽しませてもらったから」


  先ほどの反応とは裏腹に笑顔で微笑む、しかし次の瞬間には今度は真剣な表情で言う。


「それで、本題なんだけど、武器屋で働いていた件秘密にしておいてくれないかしら」

「「へ? 」」


  思わずディーネと顔を見合わせる。


「……そういえば、学園にいる間どこかで働くのは原則禁止と規則に書いてあった」


  なるほど、そういうことか。それなら人前では話せない。規則で禁止なら一発で彼女を退学にする権利がオレ達に握られているといっても過言ではないのだ、恥ずかしながら黙っていれば当分気が付かなかったけど……


「事情は分かったけど、禁止と分かってどうして働いているんだ」

「それは……少しでも学費の足しにしようと、私の家そんなにお金ないし」

「それなら事情を話せば分かってくれるんじゃ? 」

「リスクが高すぎるわ、本来裏方の仕事で……それに休日に武器屋に来る生徒なんていないと思っていたから。お願い、次のクラス戦負けろって言うなら負けるから」

「そういわれてもなあ……オレ、本気のジェシーさんと戦いたいし」


  頭をかく。わざと負けるといわれてもソウルありの本気の試合を望んでいるわけで……と困惑する。どうやら彼女も他の条件は考えていなかったみたいだ。少し心外だ。


「じゃあ……」

「じゃあ、あの日会わなかったことにするから、今度伝説の剣士の剣が入ったら取り置きしておいてもらえるかな」


  ちょっと見てられなかったので咄嗟に考えた条件を口にする。


「ディーネも何か気に入ったのあったらそれを取り置きしてもらうのでどう? 」

「……ガイトがそれでいいなら構わない」

「それでいいの? 」


  彼女が上目遣いでこちらを見る。


「それでいいよ」


  と答える、武器屋の店主さんには悪い気もするけれど知り合いだから分かってくれるだろう。ダメならダメで別に構わないし。


「それじゃあ、そういうことだから。対抗戦、お互い頑張ろう」


  彼女の肩に手をポンと置くと同時に教室へと向かった。

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