「絶対はない」
総司令に送られて寮に着く。日が沈み辺りは暗くなっていた。
「それではガイト君、また」
「はい、またお会いしましょう」
闇を照らしながら小さくなっていく馬車を見送ると寮へ移動する。薄暗くひっそりとしたロビーにポツンと二人が立っている。ディーネとマリエッタだ。
「……おかえり」
「ただいま、遅くなったのに待っててくれたのか? 明日任務だろ? 」
「だから私一人で良いって説得していたのに聞かなくてね。この時間まで何も報告が無いならまず安心とも言ったのよ? 」
「悪かったなディーネ、マリエッタ、ありがとう。合格出来たのも2人のお陰だ。ゆっくり休んで、ディーネは明日に備えてくれ」
「……分かった」
「ちょっと待って、合格って何よ」
マリエッタの質問にキョトンとする。
「合格は合格だろ? 試験に受かったんだよ」
「ウソでしょ……結果出るのは本来は数週間後なのに……」
言われてみるとあの二人は一応そんな事を話していた気がする。
「それなら総司令のお陰かな? 」
「総司令? 新しい総司令に会ったの? 私もまだなのに! どんな人なの! ? 」
興奮した彼女がオレの首をぶんぶんと振る。
「そう聞かれてもオレも何がなんだか……」
「あらあらガイトちゃんお帰りなさい、今夕食を作るわね」
「ありがとうございます、それじゃあまた明日、おやすみ」
天の助けとばかりに寮長の好意に甘え食堂に入る、すると流石のマリエッタもディーネの休息を優先させたようで「おやすみ」と答えると退散をした。
〜〜
翌朝、ディーネの試験当日。何となく目が覚めて二度寝をしようと試みるもこれまでディーネに見送られて来たので恩返しも兼ねて見送りに向かうことにした。
早朝のロビーには既に寮長、マリエッタ、ディーネと三人の人物がいた。朝早いつもりだったけどまだまだだったようだと反省しながら合流する。
「……ガイト、来てくれたんだ」
とディーネが大袈裟にオレの両手を掴む。
「いつも見送られてばかりで悪いからな、ディーネなら出来るさ」
「……ありがとう」
「ディーネ、いざとなったら逃げてでも生きて帰るのよ」
「……うん」
「頑張ってねディーネちゃん」
「……はい」
こうしてディーネはオレ達に見送られて任務へと向かった。
「そういやディーネの任務って何なんだ」
「聞いてないわ、多分ディーネも今頃知らされてるんじゃないかしら」
「知らないのにあんな大袈裟に見送っていたのか? 」
「……七人よ」
「何が? 」
「私がいた半年間で命を落とした同僚の数、多いか少ないかは貴方次第だけれど」
「でもディーネはまだ学生で見学みたいなものだろ? 」
「絶対はないのよ、彼女は貴方みたいに……光になって躱すなんて……そんな滅茶苦茶な真似は出来ないし」
こういう時オレの戦術を知ってるマリエッタとはなんかやりにくいが彼女の不安は理解出来た。
……絶対はない、か。
彼女の言葉が引っかかるもオレに出来ることはない。二度寝をしようと部屋へと向かった。
〜〜
マリエッタは考え過ぎだ、確かに任務中に死んでしまった人は気の毒だと思う、でも幾ら剣士育成の学園に通っているとはいえまだ学生が命を落とすなんてなったら騎士団も一大事なのでディーネは丁重に扱われるはずだ。彼女のソウルを見ても高台の後方辺りから支援が妥当だろう。
……大丈夫、絶対に大丈夫だ。
自分に言い聞かせる、これで何度目だろう。二度寝する筈が気が付いたら日が上り始めて廊下も騒がしくなっていた。
「学園に行くか」
ベッドから身体を起こす、その瞬間に名案が浮かんだ。
……そうだ、そんなに心配なら上空から見ていれば良い。騎士団本部にいけば場所も分かるだろう。となると必要なのは剣。
考えたら善は急げ、即座に行動を開始する。
「うおおおおいってえええ! 身体が! 激痛が! 痛い! 」
部屋のドアの前に立つと大声で叫びを上げる。すると
「おい大丈夫か! 今、寮長を呼んでくる」
と廊下でオレの悲鳴を聞いた誰かが慌てて駆け出す音がした。何のことはないただのズル休みだ、しかしズル休みだからこそ一応教師という立場のマリエッタの力は借りられない。
「ちょっとガイトちゃん大丈夫? 」
慌てて寮長が鍵を開けて中へと入ってくる、それを見て咄嗟に横になり腹を抑えた。
「大丈夫じゃありません、ううう腹痛が痛い! 昨日転んで腹を打ったせいかも……今日は学園に行けそうもありません」
「大変! それならお医者さんに診て貰わないと。どうする、来てもらおうかしら」
「昨日も診てもらって異常はなかったので大丈夫です、それより剣を。オレの剣を持ってきてください、剣があれば元気を貰える気がします」
医者の登場と思わぬ展開になりそうだったので気迫で慌てて軌道修正を試みると寮長は慌てて剣を取りに向かった。どうやら作戦は成功したらしい。
「オレの演技力も捨てたもんじゃないな」
自画自賛していると再び寮長がやってくる、両手には希望通りの剣が握られていた。
「ありがとうございます、これで少しは痛みが和らぎます」
「お大事にね、あんまり無理しちゃダメよ」
「……? 」
意味深なことを言って扉を閉める寮長を見送る。そこから足音が聞こえなくなるのを待つと立ち上がり窓を開けた。
「よし、それじゃあ行きますか……とその前に書置き書置き……『昼飯を食べるために外出します』と」
一旦机に戻り書置きを机の上に残すとベランダへと向かい光の翼を広げ騎士団本部目掛けて飛び立った。




