「モンスター討伐の秘策」
馬車で老人の隣に腰掛けると馬車が発進した。
「それじゃあオレがリーダーということで皆さんのことを教えて貰いたいのですが」
声をかけると正面のスキンヘッドの男性が舌打ちする。
「俺はジョンソン、ソウルはフレイム。まあ後ろから刺すことのないように宜しくなサタンの息子さん」
「私はバン、ソウルはウィンディ。宜しくお願いしますねサタンのご子息さん」
と先程オレを案内した男性。
「ワシはロイド。ソウルはガイヤ、見ての通り老いぼれだから戦力にはならんだろうが宜しくな」
老人が言う。
敵はドラゴン、先輩はフレイムにウィンディにガイヤか……どう対抗するべきかと思考を張り巡らせる。
……よし、これしかないか。
数分の思考の果てに一つの回答に辿り着き口を開く。
「……皆さんは普段どのようにドラゴンと戦闘をしていますか? 」
「…………」
「…………」
「……滅多に発見することはないがワシの場合はこちらを感知して飛んだドラゴンに対してワシが足止めをして攻撃を防いでいる間に他の遠距離攻撃出来るものが攻撃を仕掛ける。それだけさ、逃げられたらそれで終いさ」
ロイドさんが答える。やっぱりこういうのは先人の意見を参考にするに限る。
そういうことなら……
「それならオレが光の翼で誘導するのでロイドさんが攻撃を防ぎつつジョンソンさんとバンさんで総攻撃を仕掛けてください」
「……それ、ロイドの爺さんの経験まんまじゃねーか」
ジョンソンさんが口にする。随分嫌われた者だが最もな指摘だ。とはいえ学園対抗戦の時と異なりドラゴンには空に逃げるという選択肢があるので先輩方に頼るしかない……あんまり力を見せつけるのも面倒なことになりそうだし。
「まあ良いじゃないか、ガイト君が飛ぶのならドラゴンに逃げられることもないだろうし」
「サタンの息子も大したことねえんだなって」
「結局人やモンスターをヘルソルジャーやビースト化出来る点がサタンがサタンたる所以だったということでしょう」
ロイドさんが宥めると悪意を隠そうともしない二人は笑う。一瞬、窓に視線を移しそこに映る景色を見ながら面倒なことになりそうな予感がした。
~~
数時間後、目的地に着いたようで馬車が停車する。場所荒野で目の前に大きな洞穴を除いては何もなかった。
「探知をしたが中にいるようじゃな」
「それでは、オレがおびき出すので宜しくお願いします」
そう言うと剣を抜いて一人で洞穴へと潜入する。最悪寝ているならオレの勝ちだ、闇のソウルは一度斬ればそこから対象を消し去るまで身体中に広がりやがて塵とする。どれだけ図体がデカかろうと時間が経てば消滅するのだ。最悪相打ちという可能性も考えられるが寝ているのならば斬った瞬間に逃亡すれば勝利は決まる。
眠っていることを祈りながら洞穴を進むと数分ほどで最奥へと辿り着く。暗闇になれた目で見ると信じられないことに大きさは20メートル程はある大きな竜だったがその瞼は閉じられていた。
……呆気ないけどこれで終わりだ。
闇のソウルを纏って斬りかかろうとしたまさにその瞬間、オレの横をヒュンッと何かが通り過ぎドラゴンの足に切り傷を付けた。
ウオオオオオオオオオオオオオオ!
攻撃されていることを認識したドラゴンが雄たけびを上げる。厄介なことにドラゴンが目覚めてしまった。
……いや、それよりも厄介なことは、今は考えている場合じゃない。
オレは光のソウルに切り替え翼を出現させると出口目掛けて飛ぶ。
間一髪、オレの判断の方が早かったようで出口まで駆け抜け安堵した次の瞬間、洞穴が崩れ去り大きなドラゴンが出現した。
「おやおや、あのドラゴン、お怒りの様ですねえ。誘導頼みましたよ」
バンがニヤニヤと笑いながら言う。
……あれについて考えるのは後だ、このままではドラゴンに逃げられてしまうかもしれない。
慌てて洞穴があった場所へ引き返そうとしたその瞬間、グオオオオオオオ! 崖を跳ね除けドラゴンが出現し次の瞬間炎を吐いた。
……光になって避けるか? いやそれに頼った戦いはマズい、ここは翼だけで凌ぎきる!
瞬時に加速して炎を躱す、しかし誘き出すためにその場から離れずにその場で待機をする。それを数回繰り返すと遂に我慢できなくなったのかドラゴンが翼を大きく上下させオレ目掛けて飛んできた。
……かかった! あとはこのまま三人のところへ!
ドラゴンの炎を避けながら三人の元へ向かい着地する。
「『サモンロック』」
それを見てロイドさんがソウルで盾代わりの岩を出した。
目測でもドラゴンとの十分、今なら二人がソウルで攻撃してもオレ達が巻き込まれる心配はない。
「二人ともお願いします」
合図とばかりに目の前の二人に声をかける……しかし二人は動かなかった。
「なあ……何か聞こえるか? 」
「聞こえませんねえ」
……何を言ってるんだこの二人は? まさか。
「はよせい! もう壁がもたんぞ」
ロイドさんが急かすも二人は動く気配がない。それを見た確信した、二人はドラゴンを倒す気はないのだ。
……こんな時でも動かないのか、クソ!
光の翼を出現させると右手でロイドさんを抱え左手で二人目掛けて突進する。逃げる手筈があったのだろう。吹き飛びながら二人はしかめ面を浮かべた。
「何すんだテメエ、上官を突き飛ばして何考えてんだ」
そんなことを言うので追撃で更にぶん殴りたい衝動に抑えるも今はそんなことをしている場合ではないしディーネが繋いでくれた剣士の道をこんなことで途絶えさせるわけには行かないと堪え代わりに叫ぶ。
「二人は馬車に戻って下さい。攻撃しないなら邪魔です」
伝えるだけ伝えると宙に舞う。
「ロイドさん、次行きましょう」
「次って別の作戦があるのか? 」
「ええ……今からドラゴンの翼を斬って落とします、ロイドさんは落下地点を見極めてそこに尖った岩を出現させてください」
作戦を説明するとロイドさんを下ろして再び空高く飛ぶ。
……あまりやりたくなかったけれどこうなったなら仕方ない。
「こっちだ」
挑発だと分かったのかドラゴンはオレの声に答えるように炎を吐く。オレはそれを躱すとドラゴンの翼目掛けて進む。そして衝突する寸前
……ここだ。
闇のソウルに切り替えて翼を斬った。
「ぐおっ」
翼が無くなり重力に引っ張られ落下が始まるも再び光の翼を出現させ空へと舞い上がる。対モンスター用に考えていたソウルの切り替えは上手くいった。既にドラゴンの翼は闇のソウルにより消滅し始めている。時期にバランスを崩して落下が始まるだろう。
……その前に、出来るだけ切って消滅を速める。
「 『ダークセイバー』うおおおおおおおおおおおおおおお! 」
ソウルを切り替え二回、三回と斬る。その度に刻まれた闇が増えて良きドラゴンの身体が次々に無くなって行く。十回ほど切ったところで地上が視界に入る。ロイドさんがやってくれたようで串刺しにすべく尖った岩がドラゴンの落下を待ち構えていた。
……ここまででいいだろう。
ドラゴンから離れ結末を見守る。数秒後、ドラゴンは串刺しにされ所々が消滅したドラゴンは暴れるも岩を壊すことが出来ずにそのまま消滅する。それを見届けるとオレはロイドさんの所へと戻った。彼は微笑みと共に迎えてくれる。
「どうやらやったようじゃの、まさか二つのソウルを使い分けるとは思ってもみなかったぞ。これは文句なしの合格じゃ」
「ロイドさんこそ、ドラゴンが暴れても壊れない岩を出せるなんてまだまだいけるじゃないですか」
そう返すとともに彼の肩を軽く叩いた。




