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「守る人守られる人」

 夕方、市場での戦闘訓練とひたすら屋根伝の移動をし解放されたオレは寮までの道を歩く。


「流石に一日中みっちり動き回るのは効くなあ……」


 すれ違う人を尻目に大通りで真っ赤な空を見上げて呟く。ソウル禁止での高速で屋根から屋根へ飛び移るのをひたすら行うというのはかなり良い運動になり足はガタガタだった。


「あら、ガイトじゃない」


 声をかけられ振り返るとそこにはジェシーの姿があった。


「おう、昨日はありがとうな」

「お安い御用よ、私にも良い思い出になったから」


 ニッコリと微笑み彼女は口にする。ヘルソルジャーとの戦いが良い思い出になったとは頼もしいものだ。


「何してたんだ? バイトか? 」

「ええ、そんなところ」

「そんなところ? 」

「ちょっと隣町にね。武器屋の敵情視察(てきじょうしさつ)してきたの」

「敵情視察って……」


 彼女の行動力に感心する、敵情視察ってそれはもうバイトの範囲を超えているのではなかろうか? そもそも武器を売るのにそこまでする必要があるのだろうか?

 次々と疑問が浮かぶ。でもジェシーが言うのだからあるのだろう、と彼女の顔を見ると(たく)しい言動とは裏腹に彼女は(はかな)げな表情を浮かべていた。


「どうした? 」

「いや、あのね……私、あのお店で働きたいと思って」

「働いてるじゃないか」

「そうではなくて……卒業後の話」

「卒業後に……ああそういうことか」

「そうなのよ、ほら、私修学旅行で皆に迷惑かけてしまったてしょ? あれでね……人を守るはずの剣士が気を(つか)われて守られるというのはおかしいと思って……」

「まあ……そうだな」


 正直、サタンの息子だと発覚してルドラ学園以外の剣士の先輩達と一緒の現場になった時にチームワークが上手くいくのだろうか、なんて考えていたオレは彼女の意見に同意する。


「それでね……お爺さんさえ良ければ私に卒業後正式に働かせて頂けないか伺ったら許可を頂いたの……私に(つと)まると思う? 」


 ……務まると思うってそこまで決めておいてオレに聞くことなのか?

 と言いたくなるのを堪えて彼女が店員になった姿を想像する。

 ルドラ学園三期生ブリザード寮一かつお姫様で逞しいジェシーが店員……


「良いんじゃないか……ああ、ピッタリだ」


 返答を聞いた彼女は満面の笑みを浮かべ両手を握る。


「本当!? それは良かったわ」

「でも、店員でも前みたいに襲われるリスクは変わってないんじゃないか? 」

「それは心配いらないわ、もしそうなったら頼もしい光の剣士さんが救いに来てくれるでしょう? 」

「な」


 彼女の考えに仰天する。確かに店員が拐われるのは剣士が(さら)われるのとはまた事情が違ってくる。とはいえ堂々とそれを人に言うだろうか?

 ……やっぱりジェシーは逞しいな。うん。


「それに……ほら剣士には剣士以外に迎える人が必要でしょ? 」

「それってどういう……」

「それじゃあ、私はこれで! 」


 彼女は答えずに一目散に寮のある方向へと駆けて行く。

 恥ずかしくなるならばもっと前のタイミングではないだろうか? どうも彼女は分からない、しかし……


「やっぱり痛いなあ……」


 先ほどまで彼女が立っていた場所に向けて呟く。

 サタンの息子であるオレを受け入れて共に戦ってくれる人は剣士に多い方が良い、なんなら受け入れてくれる人だけでパーティーを組むことを考えたら、ジェシーには剣士になって欲しかった……というのが本音だったからだ。

 とはいえ、それをあんなに嬉しそうに進路を語った彼女に言うことは出来なかった。


「まあ仕方ないな……」


 自分に言い聞かせる様にもう一度呟くと寮へと向かった。

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