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「夏休み」

 寮に戻った翌朝、寮長が定期的に掃除をしてくれたためにそのままだった部屋を後にして食堂へと向かう。ディーネは以前と変わらず食堂の前に立っていた。


「……おはよう」

「おはよう、懐かしいなこういうの」

「……そうだね」

「半年くらいしか経ってないのに凄い久しぶりに思える、不思議だ……」


 そこまで言ってその原因に気が付く。


「そうか、マリエッタだ。二期生の時は基本三人でこうしていたのだから二人で待ち合わせるっていうのはそれこそ数年ぶりのはずだな」

「……そのことなんだけど」


 彼女が目を逸らす。

 そっか、ディーネは結構仲良かったからな。

 無神経だったかと反省して言葉を探す。


「分かってるよ。騎士団に戻ったんだろ? よし、オレがマリエッタの分まで騒いでみせるよ。あんなにうるさく出来るかは分からないけど」


 キッパリと言い切ったその時だった。


「誰がうるさいって? 」


 背後から聞こえるはずもない声が響く。


「おかしいな、オレにも幻聴が聞こえる」

「……そうじゃなくて、後ろ」

「後ろ? 」


 恐る恐る振り返るとそこにはマリエッタの姿があった。


「何でここに? 騎士団に戻ったんじゃ」

「残念だったわね、それと口の利き方に気を付けなさい。私は今日からこの学園の臨時教師なのよ」

「臨時教師? なんでそんなことに」

「ガイヤの教師の枠が一つ空いていたでしょ? そこを今までは学園長が埋めていたのだけれど厳しくなったということで、先日までこの学園に潜入していた私に白羽の矢が立ったということよ」


 なるほど、道理で今までは赤い制服なのに今は茶色のを着ていたのにはそういう理由があったという訳か。


「でもそれなら何でガイヤじゃなくてこの寮なんだ? 」

「それは……ほら……向こうの寮が空いてなかったからよ」


 珍しく目が泳がせるマリエッタ、これはチャンスと見た。

 すかさず追撃をしようと口を開いたとき。


「……早く食べに行こう」


 ディーネに急かされるという横槍が入る、残念だがオレも腹が減っている。ここは退散するとしよう。


「そうだな、行くとするか」

「待ちなさい、私も行くわよ」

「おや、先生とご一緒しても宜しいのですか? 」

「何よもう、改まって、良いに決まってるじゃない」


 と慌てて追いかけてくる彼女を見て何だかんだ、こっちの(にぎ)やかの方が良いな、と思った。


 ~~

 食堂に入ると帰省中の生徒も多いため人はまばらで暇をしていた寮長と目が合う。


「おはよう皆、そして改めてお帰りなさい、ガイトちゃん」

「おはようございます、ありがとうございます」


 挨拶を交わして料理を受け取る、その時異変に気が付いた。


「これ、多くないですか」


 オレに差し出された料理はざっとみても通常の1.5倍はあった。


「良いのよ、ガイトちゃんは半年位食べていなかったのだからこれくらい、といっても夏休み期間中位だけどね」

「ありがとうございます」


 食べきれるか不安になりながらもお礼を言い受け取る。

 まあ、いざとなったらさっき笑ってた二人に分ければ良いか。

 そう考えると空いている席に着いた。


 ~~

 食事が終わりしばしの休憩、勿論話題は決まっている。夏休みのことだ。


「それで、夏休みはどうするんだ? あと数日あるけど海でも行くか? 」


 オレが尋ねると二人が顔を見合わせる。

 何だ、何かマズいことでも言ったのか? いやとっくに二人で何度も海に行っていたとか?

 推測をしていると食堂の扉が開いた。来たのはメイソン先生だった。いつもオレ達より早かった気がするのだが今日は夏休みだからかそうではないようだ、なんて考えながら呑気に見つめていると意外にも彼女は料理には見向きもせず一目散にこちらに向かってくる。


「ここにいたのねガイト君、見つかってよかったわ」

「おはようございます、どうかしましたか? 」

「昨日言いそびれたのだけど今日から夏休み終了までの間補修を受けて頂きます」


 若干の気まずさを感じさせる表情で先生は言う。

 そうか補習か……補習だって!?


「ちょっと待ってくださいということは夏休みは……」

「ええ、残念ながらね。秋からは騎士団に入るための試験対策、夏までの訓練を経験するのは今しかないの」

「夏までの訓練とは? 」

「ならず者を想定した市街での戦闘対策ね」

「それなら光の翼で……」

「まあ、そうだけれどやっておいた方が良いでしょう。今後の会話のネタにもなるでしょうし、それじゃあご飯を食べたら正門で待ってるわ」


 そういうと先生は食堂を去って行った。こうしてオレの最後の夏休みはあっさりと消えることになった。

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