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「サタン城へ」

「ディーネ、ありがとう。助かったわ」


 彼女に抱き着く。ぐしょ濡れの身体からほんの少し熱が伝わった。


「……私じゃない。マリエッタの作戦のお陰で間に合った」


 ディーネが答える。


「それならガイトのお陰ね」

「……え? 」

「何でもないわよ」


 二度も言うのは恥ずかしいので言葉を(にご)すとビチャビチャと雨の中を進む足音が聞こえる。


「貴方達、何しているの? 」


 シェスティンがこちらに駆け寄ってくる。


「見ての通り、ヘルソルジャーの襲撃よ」

「みたいね。でもこんな街中でなんて大胆なヘルソルジャーもいたものね……え? 」

 

 シェスティンが固まる。それも当然だろう。ヘルソルジャーの正体がヘルソルジャーと戦っている騎士団の総司令だったのだから。


「一体これはどういうことかしら? 」


 言われてシェスティン視点で状況を把握する。彼女からすればここに来たら総司令が血と岩(まみ)れで倒れていてその前には剣士と学園の生徒が一人ずつ、二人は話題のガイトの友達。

 ……怪しまれても仕方ないわね。


「病室で襲撃されたのよ。嘘だと思うのなら壊された部屋を見てみなさい、ガイアの私でもフレイムのディーネでも出来ない壊され方をしているから」

 これ以上何かを言われる前に先手をと説明をすると彼女は病院の廊下(ろうか)が見通せるようになってしまった燃えてるわけでも岩が突き刺さったりもしているわけでもない部屋の跡地を見つめる。


「なるほど……ね、まさか総司令がヘルソルジャーだったなんて……前代未聞(ぜんだいみもん)の事態よ」

「話が早くて助かるわ。それじゃあ、サタン城まで向かいましょう」

「待ちなさい」


 ディーネの手を引いて立ち去ろうとする私を彼女が引き留める。


「急がないと、総司令がヘルソルジャーだったってことはサタン城にいるかもしれないのよ。魂を封印した最後の剣はガイトに持っていかれたし急がないと」

「だから待ちなさいって言ってるの! 」


 頭を小突かれる。


「何よ、まだ説明が足りないって言うの? 急がなきゃいけないのは分かるでしょ? 」

「その逆よ、急ぐ必要はないわ、ガイト君の移動手段は? 」

「移動手段って……光の翼でしょ? 」

「この雨で? 」


 言われて気が付く、この土砂降りの雨の中飛んではずぶ濡れになるばかりか視界も悪く飛んでいくというのは不可能に近い。


「それなら馬車よ」

「ずぶ濡れの剣士が展示品の模造剣を抱えてサタン城もしくは近くまでって? 少なくとも展示品は有名よ? 」

「そもそも剣を壊していけばいいじゃない、あれ自体は必要ないでしょ? 」

「それもないわよ、彼は彼で弱い立場だと思うわ。だって息子と証明するものはないもの。復活したばかりのサタンの所に馬車か光の翼か知らないけれど近付いて行ったらやられる可能性もある。その点復活した場にいたのならサタンからも信頼されるでしょ? 」

「剣を壊してから向かうことも出来ないってわけね」

「そう、彼に残された手段は雨が止むのを待つしかない。ところがこの雨は数日続くそうよ。その間に戦力を整えサタン城近くのてラガンダラに移動して……少なくとも貴方達が身体を洗って眠る時間位はあるはずよ」


 言われて二人で互いを見つめ合う。お互いにずぶ濡れに加えて所々泥と血で汚れていて(ひど)い格好だった。


「そうね、この格好じゃガイトに笑われるかも」

「……うん」

「そういうわけだから、私は報告に向かうけど一応病院で見てもらってからは夕方までは休みなさい。その頃には迎えに行けると思うから」


 彼女はそう言うと去って行った。

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