「光の剣士との再会」
ノーブル美術館は美術館の中では展示物もそれなりに多いためになかなか大きな建物で光の剣士の模造剣はその最上階の部屋に存在する幾つもの松明に照らされながら輝きを放っていた。外が薄暗くなる中、鎧を身に纏った私は剣とのにらめっこを開始する。この勤務について二日、光の剣士はおろか泥棒も現れず正規の職員ではないためバディもおらず一人でこうしているだけで朝を迎えていた。そのため、昼の間は宿舎で眠っていて対応できないのだけれど逃亡中の彼がこんな大きな美術館にお金を払って現れることは出来ないだろうし問題はないだろう。
「かといって夜に来る保証もないのだけれどね」
自嘲気味に呟いたその時、上の天窓から射す月光が一瞬遮られる。
……気のせいかしら?
念のためにと剣には手を出さずに胸につけてあるクリスタルが埋め込まれているペンダントで探知をすると何も引っかからない。
……気のせいね。
油断したその時だった。
パリィン!
大きな音が響きガラスの破片が雨のように降り注ぐ。
……迂闊だった、でも問題はない。天窓と私とでは距離があるため当たる心配はないしガイアの探知に引っかからずに侵入できるソウルの持ち主は一人しかいないのだから。
ガラスを光の翼を広げた男がゆっくりと舞い降りる。
「久しぶりだな、マリエッタ」
「ええ、会いたかったわよ。ガイト」
意外にも見た目を気にするタイプだったのか彼の風貌はシャツにズボンと簡素な服装とはいえ髪は学園の時と変わらない髪型で逃亡犯というには綺麗すぎる見た目だった。
「剣の護衛がマリエッタだなんてな。さっき見かけたときは驚いたよ」
「私もつい先日、情報を掴んでね。頼もしいでしょ」
「ああ」
「貴方ほどじゃないといえばないわね。貴方がいると心強いわ。私の宿舎で昼は匿えるから一緒にこの剣を守りましょう」
そう提案すると彼はゆっくりと剣を引き抜く。その剣は脱獄の時に首尾よく取り戻したのだろう、彼の愛用している剣だった。
……剣も取り返したなんて流石ガイトね。
感心している私に彼は信じられない事を告げる。
「いや、オレはこの剣を壊しに来た」
「…………え? 」
「壊しに来たって言ったんだ。護衛がそんなので良いのか? 」
そう口にしながら彼は模造剣目掛けて飛ぶ。
「くっ! 『サモンロック』」
剣を引き部いて地面に突き刺すと模造剣手前の床から岩を出現させて彼の進撃を阻む。
「やるな、そう簡単には取らせてくれないか」
彼はニヤリと笑うとこちらに向き直った。
「どういうことなのよ、剣を破壊するって……」
「どういうって、サタンの息子なんだから当然だろ? 」
「そんなの当然じゃないでしょ! 別に息子だからって貴方までヘルナイツ側に回る必要なんてないじゃない」
彼に向かって本心を叫ぶ。すると彼は目を逸らして言う。
「でも、他の街は? 国は? どこかがオレをサタンの息子だ脅威だと言えばオレはそこにはいられない」
「それなら……」
言葉に詰まる、ここが彼を説得出来る最後のチャンスの気がした。でもそんなに時間はない。だから私は直ぐに頭に浮かんだ言葉を口にする。
「一緒に逃げましょう、どこでも。私達を知らない人の所まで、そうすれば問題ないでしょ? 」
何を言っているのだろう私は……でも、言ってしまったのだから仕方がないし解決法はそれしかない。
何故か顔が熱くなる私に対して彼は冷ややかに言う。
「それは無理だ。オレはサタンを、父さんを復活させると決めたからな」
……復活させるなんて一体どうしちゃったのよ。
胸が痛んだ。唇を嚙み締める。
「分かったわよ、それなら私はそんなこと絶対にさせない! ここで貴方を捕まえて見せる! 」
彼が剣を構える。
「そういえば、ソウル有りで試合をしたことは無かったな。相手になってやるよ」
彼が試合のように私から数メートル離れた地点に立つ。
「ええ、見せて上げるわ」
覚悟を決めると片手で真上に支えている松明を手にする。
「御覧の通り、ここは床にカーペットが敷いてあるから、これが落ちたら試合開始の合図よ」
「負けてもそれで人を呼ぼうって魂胆か? 」
「貴方が勝った場合、人が来るよりも早く逃げ切れるでしょ」
「それもそうだな」
彼のその答えを了承と捉えると松明を高く放り投げる。そして剣を両手で構えて彼を見つめる、その横で宙に投げられた火が踊り綺麗な弧を描くと、カーペットに落ちた。




