「あの日」
寮の内装は相変わらずの赤で変わった様子はなくロビーも閑散としていた。
「あらいらっしゃい」
と来客を察した寮長が出て来たと思ったらすぐオレに気が付いたようだった。
「あらあらマリエッタちゃんお久しぶり」
満面の笑みを浮かべて言う。
彼女にとっては実年齢を明かした今でも年上ということでこの呼び方がしっくりと来ている。
……というか思い起こせば正体を明かして年上だと判明したというのにディーネもガイトも接し方が変わっていない気が……友達だからよね。
「お久しぶりです、寮長。お元気そうで何よりです」
関係ない考えが浮かんだのを振り払うと笑顔で応じる。
「今日はどうしたのかしら」
「寮長にお尋ねしたいことがあって伺いました」
「良いのよ、何でも聞いて」
会話の流れから私が切り出した方が良さそうだったので口にしたけど最悪のケースだと今後のディーネと寮長の関係が危ぶまれてしまう事態にまでなる可能性もあるから今後縁が無さそうな私が話すのが正解ね。
ディーネもそこまで判断したのだろうからと覚悟を決めると息を吸う。
「……前の光の剣士のマリーさんについて教えてください」
そこは自分で聞くのね……それなら私は何のために来たのよ。
意外にも彼女が自分の口で尋ねたので同行した意味がないと悲観的になっていると彼女に手を握り締められる。その手は僅かに震えていたので強く握り返した。
「どうして私に? 」
そう尋ねるもほんの一瞬、寮長は狼狽をして見せた。そんな彼女に対してディーネは先程の話をする。
「……寮長が本当に知らないなら構いません、でも、知っているのならガイトのためにも正直に答えて下さい」
そう言ってディーネは話を締めくくった。
「ガイトちゃんのため……ね」
寮長はポツリと呟くと自室へのドアを開ける。
「そう言われると弱いわ、立ち話もなんだからこちらで話しましょう」
私はディーネと顔を見合わせると案内されるがまま室内へと入った。
彼女の部屋は広く鉄製の本棚には本がぎっしりと詰まっていた。ここにベッドがないのを見るとあそこにある扉の先に寝室があるのだろう。
「座って」
ソファに腰掛けた彼女に着席を促されたので従う。
「それで、マリーのことね……ええ、知っているわ、だって彼女とは親友だったからね」
キッパリと言ってのける、やっぱりガイトのためというのが効いたのかしら?
「……サタンの魂を封印したものは? 」
「全部、マリーの代わりに学園長に届けたわ」
「それなら、残りの物も分かりますよね? 」
「ええ、道端で拾った石よ」
彼女の答えに言葉を失う。
……石? サタンの魂がそんな物に?
「あの日、サタン城の手前で彼女が言ったの、私が負けを悟ったら光のソウルの最後の力で命と引き換えに学園長に協力してもらって集めたここにある指輪とかにサタンの魂を宿すから、光がその合図だって。私は彼女とはバディだったけれど、弱くて、ついていけなかった。それからしばらくして指輪達が光って……彼女は戻って来なかった……でもそれと引き換えにサタンはいなくなった。それで、学園に向かって学園長ともうヘルソルジャーもいないのだから怪しまれないようにとそれぞれの者を元あった場所に戻したわ。これで安全なはずだって……でも戻した物が次々とヘルソルジャーに壊されて……残り一つになっちゃった、犠牲者も沢山出して……こんなことになるのなら、あの時に私が誰にも襲われない海の底とかに処分するように提案をすれば良かった……」
彼女が涙を流す。奇しくも光の剣士と彼女の判断がその後、多くの犠牲を出してしまったのだ。もしかすると彼女は人目につかない所で何度もこうして涙を流していたのかもしれない。
「ヘルソルジャーが人を襲うのを堪えて目立たずに生きていたなんて誰も予想できませんから仕方ありませんよ」
「……うん、それに寮長は今正直にお話してくれました。この話はガイトを救う力になります」
口にして寮長の肩に寄り添いながらディーネは私を見た。
……そう、次は私の番。必ずこの情報を元に総司令からガイトの情報を引き出して見せる。
覚悟を決めて拳を強く握りしめた。




