「裏切者」
皆が割れた指輪と張本人ヴィリバルト先生に視線を移す。
「まさか……」
確信はなかった、ただヘルソルジャーの記憶に出て来たサタンを崇拝している人物らしいというだけで、そこから改心したかもしれない可能性もあった。だが、それが誤りであったと目の前の光景が物語っている。
「どういうことなのですヴィリバルト先生」
学園長が声を荒げる。
「見ての通りですよ、私はずっとサタン様に忠誠を誓って来た、この時を待っていたのですよ。こうしてサタン様のお役に立てる時をね! 」
「でも、貴方はガイアの歴史の教師で」
「そうですよ、私はずっと伝えて来ました。サタン様の素晴らしい偉業を、それにヘルソルジャーにならない方が都合が良いこともありますからねえ」
……やられた、彼はあえてヘルソルジャーにならなかったのだ。そしてソウルが闇でない以上勤勉な教師を疑うなんてことは出来ない、というかサタン側からすればいつ裏切るかも分からない忠誠心のみのハイリスクな戦法、想像できるはずもない。
畜生、完全にやられた……
「先生が……そんな」
皆が口々に呟く。
正直、オレは皆と違ってヴィリバルト先生とはほとんど思い入れがない、だからこんなにしてやられた悔しさに包まれているかもしれない。
……とにかく、今動けるのはオレしかいない。とにかく今逃すわけにはいかない!
剣を構え光らせる。
……これで彼はもうソウルを使って逃げることはできない、存分に仕留めさせてもらう!
仕掛けようとしたその時だった、彼と目が合ったかと思うとニヤリと笑った。
「それでは、行きましょうかガイト君」
「は? 」
思いもよらぬところで勧誘される。オレが光の剣士だからだろうか?
「何のつもりか知らないけどそんな誘いにノコノコ乗るわけがないだろ」
「ははははは、貴方はまだ気がついていないようですね。ああそうか、学園長に貴方に光の剣士について何も教えていないよう教師は皆釘を刺されましたからねえ」
「何の話だ」
訳が分からずそう返しながら一瞬学園長を見る。どういう訳か彼は狼狽していた。
「やめなさい、ヴィリバルト先生」
「教えて差し上げますよ、貴方が知りたかった光の剣士のことを……光の剣士はね、貴方のようにただの映像しか映すことの出来ない模造剣でソウルを翼にしたりはしなかったのですよ、分かりやすく言えば実戦用のクリスタル無しでソウルで自身の身体に影響を及ぼすことは出来なかった……ですかねえ。心当たりはありませんか? そんな戦法を取った者達の」
クリスタル無しにソウルを発動して戦う、そんな戦法を取る相手……思い浮かんだのは自前の大剣にクリスタル無しでソウルを纏わせたヘルソルジャーだった。
……でも、それは
唾を飲み込む、その様子を見て彼はニヤリとした。
「気が付いたようですね、他には……君は孤児でしたね。ご両親が誰かとか考えませんでした? 特に父親とかを。極め付けは……見てしまったのですよ。貴方がバーン君を消し去る所を、皆さん奇妙に思えませんでした? あの火事の中バーンさんの死体が骨すらも見つからなかったことを。それにサタン様はね、男の子を……おやもう時間が無いようですね」
迫る学園長を見て笑う。そして高らかに宣言する。
「ガイト君、君は偉大なるサタン様、ジョン・ドゥの息子なのですよ」
「………………は? 嘘だ、オレがそんな……嘘をつくな! 」
……でたらめを言いやがって、その口にいますぐ剣を突っ込んで黙らせてやる!
剣を握ると彼目掛けて駆け出す。
「そうだ、ガイト兄ちゃんはそんなんじゃないやい! 」
パウリーがメアリーさんの制止を振り切り彼に向かい突撃しながらヴィリバルト先生に叫ぶ。
「それなら証拠をお見せしましょう! 」
そういうと彼は剣を投げる、その剣の先には……メアリーさんとパウリーを除く孤児院の皆の姿があった。
「っ……間に合え! 」
咄嗟の行動に驚きながらも剣を追う、メアリーさんが子供達の盾になろうと背中を向けたのが視界に入る。
……でもそれじゃあ、メアリーさんが死んでしまう。
「うおおお! 」
間一髪、オレは剣を振りはたき落とす事に成功した。
「何のつもりだ」
尋ねるオレに対し捨て身の一撃が失敗に終わって丸腰であろうはずの彼は再び不敵に笑う。
「お見事、それならこれはどう……かな! 」
そう言って上着の裾から何かを投げた、それは驚くことに短剣でその剣の進む先にはパウリーがいた。
……ダメだ、ここからじゃ間に合わない。
「逃げろパウリー」
「ガイト兄ちゃ……」
オレの叫びも虚しくパウリーの喉に剣が突き刺さる。
「あ、ああ……」
「パウリー……」
……何でパウリーが……何も関係がないんだぞ……あの野郎殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!
剣を握りヴィリバルト目掛けて走る。
「アハハハハ憎いでしょう? それならばどうぞ、その憎しみを私にぶつけなさい」
丸腰のヴィリバルトが両手を広げた。
「上等だ! これであの世に送ってやる! 」
剣を突き刺す、気が付くとその剣は禍々しいオーラを纏っていた。
「あのお方の力で葬られるなんて……ああ、幸せだ」
その言葉を残してヴィリバルトは塵となって消え去った。
「うわあああああああ」
子供達の泣き声でハッと我に返る、皆がオレを見ていた。闇のソウルでヴィリバルトを消し去ることを皆が……
総司令が手を上げる。
「連行する相手を、変えねばならんな」
「はい」
オレを捕まえようと歩み寄る総司令に対して頷くとディーネがオレと総司令の間に入った。
「……待って、ガイトが捕まる必要はない」
「そうよ、サタンの息子だったらなんなの」
「おかしいですよ、総司令、やめてください! 」
皆が反対してくれる、でもオレに逆らう気はなかった。オレはサタンの息子として総司令に連行された。




