「結婚式」
「ウィンディの方、お願いします」
捨て身の一撃も防がれ氷の彫刻と化したヘルソルジャーをジェシーが蹴り飛ばす。
「行くわよ、アロー君」
「はい」
アローさんとシェスティンさんが風を出現させて彫刻の落下の衝撃を殺し綺麗に着地させた。
「……ガイト、剣を。マリエッタと二人で、初めての……共同作業だから」
あのヘルソルジャーは祝い物か……
とはいえ、ヘルソルジャーを人間に戻さなければならない。皆が見守る中マリエッタと立ち上がると気まずいのか彼女も何も言わずにオレの出した剣を握った。
「「『インバリード』せーの」」
抑揚のない声を出して合図で光の剣を刺す。
瞬間、彼の記憶が流れ込んできた。
〜〜
そこは街だった。あちこちの街に火が回り建物が燃え盛っており死体が転がっている。それを見張り台から見下ろしていた。
「凄い! サタン様は本当に凄い! 」
男が笑う、どこかで見た気がする男性だがイマイチ思い出せない。
「ああ、これで恋人がいる浮かれ野郎共も全滅だ」
乗り移っているオレの口が勝手に動く。
「ああ、あの方こそこの世界の革命者だ! 行こうぜ! 」
「おう! 」
オレが乗り移っている身体は男に手を引かれるがままどこかへ向かって走り出した。
〜〜
気がつくとオレは式場に戻っていた。
「今の、見たか? 」
マリエッタに尋ねるも彼女は不思議そうに首を横に振る。例え複数で同じ剣を握っていたとしてもこの記憶はオレにしか見えないようだ。
あの男性は誰だったのだろうか? どこかで見たような……
思い出そうとしたところで周囲から拍手が巻き起こる。
うっかりしていたが結婚式の最中だったのだ、それも偽りの……だがそれを知らない者達に囲まれて本気で祝福されている。目標であるヘルソルジャーを誘き出すというのは成功した今真実を話さなければいけないのだけど反応が怖い。
「ガイトお兄ちゃん」
何かうまいことはないかと考えていると聴き慣れた声がして振り返る、するとそこには孤児院の子供達やヴィルゲルさん達の姿があった。
「皆、どうして」
「……私が連れてきた、ガイトには沢山の人がいるのに祝福されないのはおかしい、寮長がいないのは今パーティーのために寮でご馳走を作っている」
ディーネが答える。
「誰からその話を? 」
「……メイソン先生」
「やっぱりか? 」
「学園長室を通りかかったら貴方とマリエッタさんが結婚すると耳にしてね。皆が知らなかったようだったので伝えたわ、何故ひっそりとやろうとしたかは分からないけれど、皆気持ちは一緒だったみたいよ」
先生に視線を向けると彼女が自慢げに答える。
……余計な事をおおおおおおおおお!
上下関係など忘れ思わず叫びそうになるのを堪える。
せめて先生には作戦を話しておくべきだった、更に先生を責めたところでこの状況はどうにもならない。
……誠心誠意謝罪をしよう、そうすればもしかしたら許してくれるかもしれない。
思い立って声を出そうとした時だった。
「はい、これ。せっかくの結婚式に押しかけといて何もないというのも失礼だから」
そう言って先生がラッピングされた箱を手渡す。
「マリエッタさんを大切にしなさいよ」
その言葉を皮切りに先生達から人々が祝いの言葉を述べ始める。
「私からはこれ、幸せになりなさいよ」
「ガイト君おめでとう」
「幸せにね」
とシェスティンさん、シラさん、マリレーナさん。
「すげえよオ、やることやってたんだなア」
「その言い方は失礼だ、おめでとう」
「幸せにね」
とヴィルゲルさん、アントーンさん、マリレーナさん。
「いや本当すごいよ、おめでとう」
「二人がそんな仲だったなんてね、幸せになりなさいよ」
「……二人とも、おめでとう」
イワン、ジェシー、ディーネ。
「まさか結婚なんてね、早いものね……」
「ガイトお兄ちゃんおめでとおおおおおお! 」
と最後に涙ぐんだメアリーさんと子供達が言う。助けを求めて事情を知っているアローさんを見るも彼は苦笑いを浮かべるだけだった。
……もう、この手しかない。
覚悟を決めてマリエッタの顔を見て囁く。
「マリエッタ、こうなったら仕方ない。結婚しよう」
「え」
「こうなったら仕方ないだろ! 今更ウソでしたなんて言えるか」
「え、でも私まだ新米で結婚とかそういうのはまだまだ……」
そこから彼女はブツブツと何やら聞き取れない単語をひたすら呟き始めた。
もはや収拾が着かないこの状況で唯一の味方とも言えるマリエッタが壊れた。もう終わりだ、このまま行くとこまで行ってしまおう。
覚悟を決め方針のマリエッタの唇目掛けて顔を近づけたその時だった。
「おや、ガイト君。作戦は終了したのにまだ続行するのですか? 」
学園長のさらりとした一言に会場が凍り付いた。
「「「「ガイトォォォ! 」」」
マリエッタが壊れた今、全ての怒りの矛先がオレに向かってきた。
〜〜
皆に作戦を伝い終えて謝罪すること一時間。
「本当にすみませんでした」
「全く、紛らわしいわよ」
と責任を感じているのか気まずそうに先生が言う。
「理由が理由だからあまり怒れないわね」
「……うん、不可抗力」
「それでは指輪を再び保管しましょうか」
「私がやります」
学園長の申し出にヴィリバルト先生が答えてマリエッタの指から指輪を取る。
その姿を見て、ハッと気が付いた、あの顔はさっき記憶で見た顔だ。
……そうなるとまずい!
「オレがやります! 」
「ひゃっはー! 」
オレの叫びも虚しくヴィリバルト先生はニヤリと笑うと手にした指輪を宙に投げ、剣で一刀両断した。




