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「誘拐」

 土産(みやげ)も買って一段落したオレ達は集合場所のホテルへと向かう。時間はなんとまだ二十分はあるので勿体ないけれど珍しくも十分早く辿り着くことになっている。


「ガイト君が集合時間を守るばかりか十分も早く着くなんて、雪でも降るんじゃないかしら」


 マリエッタが大げさに右(てのひら)を上にして確かめる仕草をする。


「こんな常夏の場所で降るわけないだろ、そんなに心配ならどっかで時間潰すか? 」

「……やめといた方が良いと思う」

「そうね、雪の方がマシよ」

「何でそんなに雪に(こだわ)る。まあ旅先位は心配かけないでおかないと、探しに出た先生が迷子になったりしそうだからな」


 冗談を口にしながら歩いた時だった。

 ドサッと音が聞こえた気がした。


「なんか今聞こえたか? 」

「鳴っていたわね」

「……うん、何の音だろう」


 音がしたのは丁度右方向にある細道だ、人混みをかき分け通りへと入る。そして眼前に広がる光景に言葉を失った。ルドラ学園の生徒らしき女性二人が水色の服を赤く染め倒れているのだ。


「しっかりしろ! なにがあった! ? 」


 ワンテンポ遅れて二人に声をかけ手前の女性の肩を(さす)る。彼女の息はなかった。


「ダメだ、もう死んでいる」

「こっちは息があるみたい」

「……しっかりして」


 ディーネとマリエッタがもう一人の女性を摩る、すると彼女の(まぶた)が動いた。


「ジェシーさんが、ジェシーさんが(さら)われて……目の前でジュリアが、あああああああああああああ! 」


 ジュリアというのは息を引き取っている女性の名前だろう。

 しかし、なんだってジェシーが……いや、今はそんなことを考えている場合はない!

 周囲を見回す。どちらの出口も人通りが多く人一人を攫って目立たずに出ることなんて不可能に近い、加えてここは細道、そうなると逃走経路は……


「上か! 」


 間に合うかもしれない。

 模造剣を抜き光の翼を出現させ地面を蹴る。屋根の高さまで上昇し周囲を見渡すと……いた、背後に人一人を抱えている三人組の男の姿が見えた。ジェシーは無抵抗なところを見ると気を失っているようだ。


「……見つかった? 」


 二人が不安気に見上げているのが視界に入る。

 二人を連れて行けば心強い、でも街中ということを考えるとどちらのソウルも大事(おおごと)になってしまう。一人で行くのが良さそうだ。


「二人はその子を頼む、ホテルに行ってこのことを伝えてくれ! 」


 二人にそう告げると三人組目掛けて突き進んだ。


 ~~

 目的の人物まで残り三メートルまで迫った。相手は卑劣(ひれつ)な誘拐犯だ、このまま背後から全員仕留めさせてもらう!

 これ幸いと距離を詰める、しかしそう上手くはいかなかった。虫の知らせか勘か、一人の男が振り返ったのだ。


「なんだ、貴様! 」


 男の声に合わせて後の二人もこちらを見た。


「お前らで足止めしろ」


 そうリーダー格らしき仮面をつけた男が命令すると残り二人の仮面の男が通せんぼをする。


「落ちろ! 『クリアランス』」


 一人の男が斬撃を飛ばす。

 ……ウィンディか、無視をして背後から狙われると面倒だ。やるしかない。


「くそ」

「ははっよく見るとお前のそれ、真剣じゃないじゃないか! お遊びならよそでやんな! 」


 笑いながら斬撃を飛ばす男とそれを聞いて腹を抱える男。


「上等だ、舐めるな! 」


 叫ぶと斬撃を交わしてそのまま男の懐に入り剣を突き刺す。


「ぐえっ! 」


 模造剣でも直撃するとダメージは相当なものだ、男は(うめ)きながら腹を抑えようと真剣を落とす。すかさず剣を拾い男に突き刺すと勢いよく血しぶきが上がった。


「てめえ! 『フレイムスラッシュ』」


 炎を剣に宿し男が斬りかかる。避けるのが面倒だが避けられないわけではない。空中で一回転し剣と炎を(かわ)すとそのまま男の腹を真っ二つに切り裂く。

 ……これで二人に邪魔されることはない。

 再び追跡を再開する、男もそれに気が付いたようでふと立ち止まった。


「動くんじゃねえ! 」


 男が怒鳴りつける。


「動いたらこの女を殺すぞ」

「誘拐したかったんじゃないのか? 」

「うるせえ! 」


 男は意識を失ったジェシーを屋根から突き落としこちらに向かってくる。


「ジェシー」

「かかった、死ねえ! 『エアスラッシュ』」


 オレがジェシーに向かっていくのを見るや否や男がオレとジェシーの間に斬撃を飛ばす。

 こいつもウィンディ……バカめ隠密(おんみつ)行動だとしたら一番多いだろうと想定済みだ。


「死ぬのは、お前だ! 」


 方向を変えて男へと向かう。


「仲間を見捨てるなんて! 」


 説教するかのような一言が男の遺言になった。無論、見捨てたつもりはない。切り捨てた後このスピードで助けに回れば間に合うという判断だ。計画通りに急降下し地面を目指す。

 ……何!?

 しかし予想とは異なる目の前の光景に目を疑う。そこはただの観光地の風景が広がっているだけだ落下しているはずのジェシーの姿がなかった。


「ジェシーはどこだ……」


 思わず呟くと近くで悲鳴が上がる。


「なんだ」


 とそこを見ると女性がオレを見て腰を抜かしていたのだ。それに釣られて人々がオレを見る。そこまでしてようやく血塗れなことに気が付く。


「くそ! 」


 慌てて空に上がり周囲を見下ろす。やはりジェシーの姿はない。こうなると考えられることは一つだ。まだ男達には仲間がいたんだ。しかし、この状況じゃ下に降りて探すことは到底出来ない。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおお! 絶対にお前らをぶっ殺してやるからな! 」


 声の限り叫びまだ見ぬ誘拐犯(ゆうかいはん)復讐(ふくしゅう)(ちか)った。

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