「2年目の収穫祭」
収穫祭当日、待ち合わせ場所の一階ロビーでジェシーと落ち合う。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
「ああ、一時間は待ったからな」
と言うも実際は五分くらいだ。
「午前中は講義があったんだからそんなわけないでしょ」
「バレたか」
口にしながらパンフレットを取り出す。
「じゃあ、屋台でも見に行くか」
ノープランだが時間は丁度昼時。屋台を回るには丁度良さそうだ……と考えたのだが
「いえ、今のうちに学園内を回りましょう」
と彼女が真逆のことを言う。
「学園内を? 」
「ええ、学食も開放されているとはいえお腹が空いているのは皆同じでしょう? そうなると混む屋台は特に拘りがない限りは後回しにした方が良いわ」
恐るべし状況把握、とはいえ彼女の言うことも最もだ、既に二期生だけでも何人かがオレ達を通り越して屋台のある入口へと向かっているのだから混雑は必至だろう。
「了解」
と納得を示すと学園内の案内に目を通した。
~~
先生たちが用意した学園内の展示品を見て回った後に三期生の模擬戦が繰り広げられている第一修練場へと向かう。
修練場では三期生の模擬戦が繰り広げられている……はずなのだがどういうわけかアローさんが私服の男性と剣を交えている。収穫祭とはいえオレ達は制服が義務付けられているので完全に部外者ということになるのだろうが一体どういうことなのだろう。
「凄い、本職の剣士に一切引けを取らないどころか押してる」
ギャラリーの声が耳に入る。
「何かと思えばアローさん、剣士の人と戦っているみたいね」
「三期生では飛びぬけているとはいえ、私服で警備しているはずの剣士とだなんて凄いことになってるな」
剣士と戦えるだけでも凄いのに試合を見ると同じソウル使いでもアローさんが圧倒的に有利だった。これを見たら三期生で挑戦者は現れないのも頷ける。
「『ネクサスストーム』」
「ならば『エンチャントストーム』」
彼は巨大な嵐に対して更に巨大な嵐で応戦し見事勝利を収めた。
「あんな巨大なソウル、見たことないわ」
「オレもだ、やっぱりアローさんは凄いな」
「貴方も出たいんじゃないの? 」
不意にジェシーがそんなことを言う。
「剣士と戦いたいってのは本当だけど、光の剣士だと外部にバラすのは禁止だからな」
「意外とそこは守るのね」
「最悪、死者が出るとなると我慢せざるを得ないな」
「そうね、ごめんなさい」
重い空気になってしまう、しかしこれは望んだことじゃない。
「なんならジェシーが行ってみたらどうだ」
と話題を振ると彼女も同じだったのかそれに乗ってきた。
「アローさん、僭越ながら一戦お相手願えませんか? 」
やけに上品な物言いで客席からジェシーが声を張り上げる。
突然の乱入宣言になんだなんだとアローさんばかりか皆がこちらを見た。
「君は……良いよ」
後輩からの申し出をアローさんは快く承諾する。
「それじゃあ、行ってくるわね」
とオレに告げるとステージへと降りていった。
~~
「それじゃあ、始めようか」
「ええ」
観客席は乱入者にざわつき、更に後輩と知っている学生らしき生徒達の座っている場所だとその声は一際大きなこととなっているのを意にも介さず二人は模造剣を構え審判の宣言と共に動き出した。
「ふっ! 『クリアランス』」
手加減なし、剣を突き出しアローさんは巨大な斬撃を飛ばす。
「『アイスシールド』」
それに対してジェシーは剣を横に振るとたちまち前方に氷の盾が出現し彼の攻撃を防いだ。
……おいおい、空気を凍らせたのか。流石ジェシー、以前よりパワーアップしている。
彼女の成長に興奮し戦いを見つめる。アローさんはこれでは接近戦は不利と感じたのか彼女と距離を取った。
「やるね、それならば……これで! 『エンチャントストーム』」
アローさんが剣を振り先程のような巨大な嵐を出現させる。先程剣士でも対処が出来なかった嵐だ。しかし、ジェシーは一切怯む素振りを見せない。
「『アイスエイジ』」
勢いよく剣を振ると驚くことに嵐さえも凍らせてしまった。見事な数メートルの氷の彫刻と化した嵐を見て誰もがジェシーの勝ちを確信した時だった。
「見事だ、でも『ツインカムエンチャント』」
アローさんの声とともに二発目の嵐が放たれる。
「くっ」
ジェシーが慌てて剣を振るもソウルが尽きたようで何も起こらずその嵐はたちまち氷の彫刻を砕きその欠片がジェシーに突き刺さる映像が流れた。
~~
「……負けたわ」
ジェシーがトボトボと戻ってくる。
「惜しかったな。あの台風を凍らせたまでは良かったんだけど、二発目があるなんてな」
「そうよ、二発目なんてズルいわよ、私のソウルは限界だったのに」
「でもあそこまでアローさんを追い詰めたんだ。剣士の目に止まったはずだ」
「だといいけれど、やっぱり悔しいわ」
悔しがる彼女を更に励ましていると「おーい」と声をかけられる先程の剣士の男性だった。
「君、凄いじゃないか。あのアロー君をあそこまで追い詰めるなんて、君と戦えるのを楽しみにしているよ」
まさかの直接の誉め言葉、これはジェシーも相当嬉しかったのだろうか固まってしまう。
「あ、ありがとうございます」
やがてそう言葉を出すと彼はニッコリと微笑んでアローさんの所に戻って行く。
「良かったな」
と言うと彼女は満足そうに頷いた。
~~
昼時の時刻を終えたので屋台へと向かうとジェシーの読み通り人はまばらとなっていた。
「そういえば、後輩が何を出すとか知っているか? 」
「聞いてないわね」
と彼女が答える。
「見てのお楽しみってことか」
少なくとも、ここにフレイムの屋台もあるということは悲しいことにフランベは受け継がれなかったようだ、その代わりに何を選んだのか……
期待を込めてフレイムの屋台を覗き込むとそこには、ビーフシ・チューの姿が! どうやら後輩達のクラスは皆料理上手のようだ。他の屋台を見るとガイアはチーズをかけたパ・スタ、ウィンディは川魚のタマ・ネギスープ、ブリザードはフローズンソ・ーダのようだ。
「びっっくりするほど平和ね」
「そうだな、オレ達ってもしかして反面教師として紹介されたのかもな」
ジェシーに同意を示すもよくよく考えれば反則スレスレオレ達ではなくブリザードとウィンディではないかという気がしてくる。
「言わないで、私もやり過ぎたと反省してるのだから」
ジェシーが額に手を当てるのを見て負の連鎖は断ち切れたようだと安堵のため息を漏らす。
「それよりどう、どうせなら全部食べたいと思わない? 」
「そりゃ食べられるなら食べたいけど」
全部食べるには量が多過ぎるから……と言い終える前に「契約成立」と微笑んだ彼女は「パスタとビーフシチューをお願い」とだけ残して屋台へと走っていった。
「お待たせ」
ジェシーがスープとジュースをオレが既に料理を置いた机に置く。
「じゃあ、半分……いえ三分の二は譲るわ」
契約ってそういうことか。
「でも、スープとジュースは別で良いんじゃないか? 」
「それだと、寮別なのに不公平でしょ。一応対抗戦なんだから」
意外なところで後輩想いのようだなあと感心しながらスープを三分の二ほど飲んだ。
~~
「今日は楽しかったわ」
食後、色々と回り片付けとなったときに彼女が口にする。
「オレもだよ」
と答えると彼女は微笑む。
「それは良かったわ、修学旅行の自由時間はサタンの城に行くと聞いたからこうして回れて良かったわ」
「おいおい、サタンの城って言っても戦いに行くんじゃないんだぞ、そんな死にに行くような言い方」
そう口にすると彼女がふと黙る。
……何だ、何かマズいことを言ってしまったのか?
悩んでいると突然彼女が笑い出した。
「そうね。それじゃあ、また」
彼女は笑いながら教室へと歩いて行った。




