「ペガサスを探せ」
一回戦後行、ノーブル学園の入場にルドラ学園の二期生以上の生徒は騒然とした。選手の編成が三期生が四人に一期生が一人と極端な編成だったからだ。
三期生四人は開始と同時に攻撃を放ちワームを撃破、判定でノーブル学園の勝利となった。
「さあ、奇策により見事一回戦の勝利を収めたノーブル学園に対しルドラ学園は後がなくなりました。一体どうなってしまうのか」
とヴィリバルト先生が煽るとマリエッタが目を細めた。
「あの人、ルドラ学園の教師よね? 」
「そうなんだけど、解説は公平にってやつじゃないか」
なんて彼女を宥めたものの気持ちは理解できる、ルドラ学園の五人の戦い方は素晴らしかった。ただ先行だったために初見のワームに対し作戦に時間を取られてしまったのが敗因だ。ノーブル学園は彼らの戦いぶりを見ながらゆっくりとワームへの対策を立てることが出来たのだから……それに編成も極端だった。ヴィリバルト先生の言う通り作戦勝ちだ。
「でもまだ終わったわけじゃない、三期生は四人しかいないんだ。次の編成は二期生四人しかあり得ない。二回戦は勝てる」
「そうね」
このままだとサタンの魂を封印している指輪がノーブル学園に渡ってしまう。去年と同じように運んでいる所を狙われたら……
「頼んだぞ、皆」
拳を握り締めると思わず呟いた。
~~
「只今より二回戦を開始します」
ワームを片付けて数分で二回戦の開始が宣言される。
「でも、二回戦はダンジョン系のはずなのに移動しなくていいのかな」
「去年は違ったの? 」
「ああ、去年はスタジアムをギャラリーも含めて移動したんだが」
周囲を見回すが誰も移動する様子はない。
一体どうなっているのかと首をかしげると同時に周囲もざわついてきた。そんな中司会が更に混乱することを口にする。
「それでは選手の入場です」
二回戦の選手八人が入場する。ルドラ学園からはディーネ、ジェシー、アローさん、アントーンさんの四人だ。
「あ、ディーネ。おーい、ここ! ここ! 」
マリエッタが大きく手を振る。
「恥ずかしいからやめろって」
「でも探しているみたいだったから」
言われてみると確かに首をキョロキョロしていた気がする。マリエッタを探していたのか。
「これで二回戦は貰ったわね」
彼女が勝ち誇る。何をやるかも分からないのにどんな根拠があるのか不明だが、「そうあって欲しいな」と答えた直後、
「二回戦は恒例のダンジョン! ルールは簡単! ペガサスを発見しこの会場に連れてくること! そしてその舞台は……この森全てです! 」
と司会が宣言をする。
「この森全てって……かなり広いぞ」
ここまで来るのに五十分、街から入口までの三十分を引いても馬車で二十分の距離だ、更に一方向だけでなく周囲にも森は広がっている。一体どれだけ広いフィールドなのか、その中から見つけろと言うのは至難の業だろう。
「待って、それじゃ私達観戦出来ないじゃない」
「確かに、オレ達ここで待っているだけか、なら……」
立ち上がり光の翼で飛ぼうとしたところ腕を掴まれる。
「悪い、連れてこうか? 」
「そうじゃなくて、飛んでいると向こうから文句言われるかもしれないわよ」
「いちゃもんつけられて反則負けとかになっても面倒か」
空を飛ぶのを断念し着席するとどういうわけか地面が揺れたかと思うと席ごと空へと近づきディーネ達がどんどん小さくなる。
「これは……」
「学園長か、席ごと岩で持ち上げたのか」
「規格外なことするのね」
これで大分見やすくはなった。それにしても本当に広い森だ、この中からペガサスと言えど探すのは一苦労だろう。本物の剣を使用するとのことだが、周りに剣士が見張っているということなので大丈夫だろう。
「それでは、試合開始」
合図とともに八人が一斉に走り出した。
~~
一斉に飛び出した八人、しかしルドラ学園の四人はノーブル学園の四人と異なりスタジアムの通路から出てこず姿が見えない。
「恐らく作戦会議ね」
「作戦会議、でも話し合っている間に見つけられでもしたら」
「アローさんに何か秘策でもあるんじゃない? 」
そういわれるとそんな気がする。前回も離れ業でゴール目前まで行ったのだ、立ち止まった時間すらプラスに出来る奇策があるのかもしれない。
程なくして四人が遅れて出てくると四方に散らばった。
「え、探知しないでバラバラになるの! ? 」
マリエッタが驚く、ノーブル学園の方に視線を向けると彼らは剣を地面に刺し探知している一人を囲むように三人が一つに固まっていた。何もかもが対照的だ。
……が、しばらくしてどういうわけかノーブル学園の探知していた生徒はお手上げとばかりに手を上げた。その様子を見てアローさんの狙いに気が付く。
「そうか、ただでさえ見張りで剣士達がいる中アローさん達も走り回るからペガサスの探知が出来ないんだ」
「なるほどね、ガイアは地面にかかる重さで探知をするから走り回られたらどれが目標のペガサスか分からないという訳ね」
「これで実質一手先を行ったことになる。流石アローさんだ」
「そうね」とマリエッタが同意した直後だった。丁度敷地を仕切る壁の付近でドン! と激しい音とともに空で爆発が起こり会場がざわつく。
「なんだ、敵か!? 」
「落ち着いて、あの方向からしてディーネよ」
剣に手をかけたオレをマリエッタが宥める。言われてみればあの方向はディーネが走って行った方向だ。それに彼女は最近あのように球体にソウルを凝縮して放つ術を先生から習っていた。剣から手を放し同意を示す。
「恐らく、何かの合図ね。ペガサスを見つけたか……」
マリエッタの言う通りだ。これが一番可能性としてはあり得る。しかし、アローさんに限っては違う気もする。
「……もしくは何も見つけられていないか」
「え? 」
「オレもそう思ったけど、アローさんだからさ。その逆を付いてくるんじゃないかって」
口にすると彼女が閃いたと両手を鳴らす。
「そうよ! 相手のチームからすれば見つけられたと急いで向かうだろうから妨害が出来る。それだけじゃない、監視役の剣士も向かうからこの場で一つの方向に移動していないのはペガサスだけ、探知も容易になるわ」
マリエッタが補足をするように言う。そこまで考えていなかったけど
「そういうことだろう」
と頷いた。
それから数分後、森の上空からこちらに近付いてくる姿があった。
「あれって……」
「ああ、まさか」
目を凝らすとそれはペガサスとその背中に乗ったジェシーだった。あれなら発見した後に横取りをしようと攻撃を仕掛けたりすると命を落としかねず相手としても何もできない。
アローさんの妨害が功を成してゆっくりと探索をし終えたお陰か無事ゴールであるスタジアムにペガサスに乗ったジェシーが現れ二回戦はオレ達ルドラ学園の勝利で幕を閉じた。




