「修学旅行の行先」
夏休みが終わり初回のHR、修学旅行という単語が耳に入る。そういえば、学園対抗戦の後なのでそろそろ色々と準備をしておかないといけない時期だ。
「我が学園は例年ラガンダラへ向かいます」
ラガンダラといえばあの人、光の剣士とサタンが闘ったことで有名なサタンの城がある場所だ。
「ですが、サタンの城へは向かいません」
「どうしてですか」
思わず立ち上がる。
……ラガンダラまで行ってサタンの城に行かずに帰るなんてレストランに入って何も注文せずに出ていくようなものじゃないか!
「約半日かけて移動して立ち入り禁止で見上げるだけで帰るというのもどうかという意見もあってね。代わりに公開されている内部の構造とかを学んだ方が良いってことになったのよ」
「そうですか」
先生を責めた所でどうにもならない、大人しく席に着いた。
〜〜
「学園長、これはどういうことですか! 」
休み時間に学園長室に向かい机をバンと鳴らし彼を問い詰める。
「どうと言われても……地味に街からは遠いからその時間を使って街を見て回りたいという意見も多くてね、それにここにこの前取ったアンケートがあるのだが……」
彼が分厚い紙を取り出す。
アンケート? そういえば前に取っていた気がする。ラガンダラで何をしたいかみたいな質問でオレはデカデカとサタンの城へ行きたいと書いたはずだ。
「サタンの城に向かいたいというのは君だけしかいなかった」
「ひ、一人……」
衝撃の事実に驚愕する。
「勿論メイソン先生も君が大人しく引き下がるとは考えていなかった。もしかしたら学園長の所に直談判なんてこともあり得るとか言っていたが本当にそうなるとはな」
学園長が笑う。
……オレの行動はとっくに見透かされていたのか。
「でも、事前に予測していたということは何か案があるのですか? 」
期待を込めて尋ねると彼は頷き一枚の紙を取り出すと机に置く。
「ここに街からサタンの城までの地図がある、そして三時間ほどの自由時間を設けてある」
「まさか……」
「君の光の翼はかなり速く移動が可能と聞く、行って帰って来るには十分だろう」
予想通りの返答が帰ってくる、自由時間に行って帰って来いと言うのだ。
とはいえ、オレにとってはサタンの城の見学は修学旅行において何よりも果たしたいことだ、拒否する理由はない。
「了解しました、それでは自由時間に向かわせて頂きます」
「楽しんで来なさい」
まだ先のことなのに彼は笑ってそう答えた。
〜〜
学園長室を出ると何故かマリエッタが立っていた。
「仕方ないわよ、サタンの城は軍の総司令が直接赴いて定期的に監視することもある位重要な場所のようだから」
「そんなに重要なのか……何かが眠ってたりするのか? 」
「それは分からないけれど入ったまま帰って来ない人とかもいるみたいよ、サタンの霊が残ってるなんて噂もあるわ」
サタンの霊、興味深い話だ。
「ん? そういやわざわざここまで励ましてくれるために来てくれたのか? 」
「え」
どういう訳かマリエッタが固まる。
照れているのか? 普段は演技とはいえ腕を絡めたりしてくる彼女が?
「まあ、そういうことよ……」
マジか……
意外と攻められるのが弱かったりするのか、今度何か仕掛けてみるか、いや、二人きりの今がチャンスか。
でも、何をしたら良い……無念、浮かばない。
そうこうしているうちに講義の始まりを告げる鐘がなる。
残念、逆襲の機会は次にお預けだ。
悔しがっているとマリエッタに手を掴まれる。
「もうこんな時間? のんびりしている時間はないわ、行きましょう! 」
「そうだった、マズいぞ遅刻だ! 」
我に返り彼女に引っ張られながらも教室へと戻った。
先生にはドヤされたけれどサタンの城へ向かえることになったので良しとすることにした。




