「独りぼっちの安息日」
学園対抗戦の代表者が決まって夏休み初日、朝食を済ませて寮へ戻る。
「……ごめん、今日は対抗戦選手の懇親会があるから」
先程のディーネの謝罪を思い出す。オレ達の時にはなかったけれど謝ることでもないだろう、マリエッタも何やら用事があるとのことなのでオレはオレで久しぶりの一人の安息日をエンジョイさせてもらおう。
なんて大それた決意をするもやることはいつもと変わらない、午前は孤児院に行って飯時になったら撤退、昼食を済ませると午後はぶらぶらと買い物だ。
「そんなわけで早速やって来ました懐かしき孤児院」
訪れるのは一週間振り、平常運転だ。
「さて、愛しき皆よ元気にしてたか~」
軽口を叩きながら入口へと向かう、しかし扉はいつものように開かなかった。
「留守か? 」
数歩下がると柱に張り紙があることに気が付く。
『本日はお出かけするので留守にしています』
子供の書いた字のようだった、何故メアリーさんが書かなかったのか疑問だけど対して意味はないのだろう。
「まいったな、いきなり予定が一つ無くなったぞ。寮の修練場へと行くか」
頭を掻きながら決めると寮へと戻った。
~~
午前中は動かない的に対して剣の練習を済ませると昼食を食べようと街へ繰り出す。今日はせっかく一人だからガッツリと肉系の店に向かうか。
決定するとともに店へと向かう、その道中店で食料を購入している集団を見かけた。ディーネ達だった。慌てて隠れる。
ディーネ、ジェシー、フウト、イワン、ヘルガさん、ヴィルゲルさん、アローさん、アントーンさんと見知った八人とクラス対抗戦で見たレベッカという一人の赤髪ショートヘアの一期生の九人だ。
……三期生は去年と同じか。
懐かしさに包まれる。
談笑している彼らを見てふと、もしディーネではなくあそこに入っていたらどうだったろうかと考える。
「でも、去年のチームを超えるなんて、無理だからな。それにオレは光の剣士だ」
その言葉とともに未練を断ち切ると店へと向かった。
~~
食事を済ませると鉢合わせるのも気まずいので買い物はやめて寮の自室へと戻る。こうなったら残りの自由時間はたっぷりと光のソウルの発展法に費やすとしよう。
「光、光といえば明るい。明るいといえば眩しい、目くらまし……はもうできるからな」
こんな調子で約一年新しい戦い方が浮かんでいない。学園長も以前の光の剣士の戦い方は君の考えを固定させてしまうのは良くないとかで教えてくれないしで完全に停滞している。
「他のソウルみたいに纏った光でダメージ与えられたら良いのになんでできないんだよ~」
そしてもはや恒例と言うべきだが、こうして愚痴をこぼしてはベッドに横になる。
「かといって毎回怒って闇のソウルを出すか? 人前だと説明に時間がかかりそうだから嫌だなあ」
闇のソウルに関してはあれ以降出していない。人前で見られたら面倒だからだ。人前で使えないのを戦力に数えるというのも出来ない。
「今回も成果なしか……ふあ~あ」
横になったせいだろうか? 睡魔に襲われ次第に瞼が重くなっていった。
「ガイトちゃん! ガイトちゃん! 」
寮長が部屋をノックする音で目覚める、どれだけ眠っていたのかと窓を見るとまだ日が差し込んでいるのでそれほど時間が経ったわけではなさそうだ……なんて呑気にしている時間はない、慌てて起き上がると扉を開く。
「何かあったんですか? 」
「ロビーでディーネちゃんが呼んでいるわよ」
「ディーネが? 」
何かまた襲撃されたとかだと考えていたのでホッとする。
「分かりました、すぐ向かいます」
と言うとロビーへと向かった。
~~
ロビーではディーネが一人で立っていた。寮の門限までまだ時間はあるだろうに随分と早いお帰りだ、しかも一人で帰ってくるなんて懇親会でこれだとマズいのではないだろうかと不安になる。
「よお、どうしたんだ? 」
「……今時間ある? 」
「ああ」
「……良かった、時間かかっちゃったけどガイトを迎えに来た」
「オレを? どうして? 」
彼女はオレの質問に対して「……来て」とだけ答えると手を握って歩き出した。
歩くこと十数分、着いたのは孤児院だった。
「孤児院? 今日は出かけてるみたいで誰もいないぞ? 」
「……来て」
相変わらず答えずに彼女はオレを引っ張って進む。ディーネに限って闇討ちとかはないだろうと大人しディーネは何も答えずに扉を開ける。すると先程とは異なり扉はあっさりとオレ達を中に通し色々と料理が並べられたテーブルと派手な内装が視界に入る。
「おお、主役の登場だぜェ」
「え? 」
オレが主役? 何のことだ? ディーネを見る。
「……ガイト、今日誕生日でしょ? 」
「ああ……」
と間の抜けた返答、そうだ、今日はオレの誕生日だった。
「「ガイトお兄ちゃん誕生日おめでとう」」
と子供達、その様子を見て騙されていたのだということに気が付く。
「おめでとう。皆で何かをしようって時にガイト君が誕生日だと聞いてね、それなら皆でお祝いしよう、てことになったんだ。一期生の彼女には悪いけど」
アローさんの視線の先にはレベッカがいた。
「いえ、私も光の剣士の育った場所にお招きいただき光栄です」
「お前が代表じゃねえって聞いてよォ、びっくりしたぜェ……あの子どんだけ強えんだよォ」
ヴィルゲルさんがディーネを見ながら耳元で囁く。
「久しぶりにこうして顔が見れて嬉しいぞ」
「そうだね、って私は結構寮で会っているけどね」
アントーンさんと異なりヘルガさんはペロっと舌を出す。
「……おめでとう、俺から言われて嬉しいかはわからないけど」
「少なくとも、貴方が作った料理は喜ぶわよ、おめでとう」
イワンを励ますジェシー。
「ガイト、君の誕生日嬉しいよ、おめでとう」
「おめでとう、ガイト君」
フウトとマリエッタが言う。
「皆、ありがとう」
「……予定ならお昼前に呼ぶつもりだったんだけど遅くなった。ごめん」
「良いんだよ、最高の誕生日だ。ありがとう」
昼食は済ませたけれどこれならまだ何杯も食べられそうだ。
こうしてオレは最高の誕生日を過ごした。




