「野外演習」
「本日より野外での演習を始めます」
二期生になって数週間、先生が宣言をしてから三十分、馬車に揺られオレ達は緑豊かな森へとやってきた。
「皆さん集まったようですね、それでは説明をします」
先生が説明を集める、説明によると場所はフレイムにとって森に火をつけたら惨事になるため戦いにくい森林、ここで小さなモンスターを最低限の炎と剣で倒せるようになるのが最終目標ということだ。
「まずは第一段階として木登りをして貰います」
先生がそう口にするとともにサッと木を登る。
「そして第二段階は木から木へ素早く的確に渡ること」
言い終えると同時に彼女が木を移動する。
「第三段階は動かない獲物を素早く最低限のソウルを纏った剣で仕留めること」
彼女が木から飛び降りたかと思うとソウルで剣に僅かな炎を灯し目の前に置いてある布が巻かれた的に剣を入れる。すると的だけが燃え尽きる映像が目の前に映った。
「最終段階はこれを動く的でやっていただきます。この森は学園で管理しているのでモンスターの類は出現しません、安心して練習してください、今日の目標は第一段階の木登り。はい、それでは練習開始! 」
先生が両手をパンと鳴らすと生徒達が散らばった。だが、オレは動かずに先生に尋ねる。
「先生、光の翼の使用はOKでしょうか? 」
「……! 」
先生が目を見開いて凄まじい形相でオレを見る。
「……冗談です」
光の翼で木登りも木を渡るのもひとっ飛びでソウルもフレイムではないのでこの演習は全て関係ありません、というのはやはりダメだったようだ。
慌ててディーネと木に向かおうすると「冗談よ」と彼女が声をかける。
「光のソウルの燃費とかは分からないけれどソウルも無限という訳ではないわ。使いすぎると無くなってしまう、その時のための逃走手段としても出来るようになっておいた方が良いわよ」
「了解です、待たせて悪かったな。行こうぜ」
今の所はソウルが使えなくなるなんてことはなかったけれどそう言われると備えておいた方が良さそうだ。ディーネに声をかけると木登りへと向かった。
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早い者勝ちと各バディが木を取り合い、手前の木はほとんど無くなってしまったので森の奥に入ると一回り大きな大木しか残っておらず見上げる。
「デカいなあ、悪い、これしかなかった」
「……大丈夫」
「助かる。じゃあ、まず木登りのやり方としては」
ここに来るまでの先生の説明を思い浮かべる、まずは手で掴める枝や凹凸を見つけるということだ。
……ないぞ、少なくとも手の届きそうな範囲には。
凹凸は見つからずジャンプでギリギリ届きそうな高さにある枝を見つめる。
「やってみるか、そら! 」
思い切り飛び上がり手を伸ばすと枝に手が触れる。
届いた!
そのまま両手でガッシリと枝を掴む、とりあえずは一段落だ。あとはこのまま両手の力だけで体全体を持ち上げて枝の上で体制を立て直す……なんてことが出来る太さでもないか。それなら!
「とりゃ! 」
体全体を動かし大きく上下に揺れるとその勢いを利用して木の真上に来る前に手を放して身体を回転させて調整をし着地をする。
「出来た! 」
「よし、次はディーネだ」
真下のディーネに声をかける。
「……ガイトみたいには出来ない」
学園の代表だからというプレッシャーからか酷く落ち込んだ様子のディーネ、正直オレももう一度は出来る気がしないまぐれみたいなものなのだからそこまで落ち込む必要はないと思うのだが……
「よし、じゃあこうしよう」
枝の上から飛び降り彼女の元へと行くと模造剣を抜くと丁度枝とオレ達との中間より少し下を目掛けて振りぬいた。
「いってええええええ」
あくまで剣と比べると脆い構造の模造剣のため容赦のないフィードバックが腕を襲い腕が痺れる。だが目的は達成した。オレが剣を当てた場所に僅かな凹みが出来上がっている。
「なければ作ればいいんだ。ここを足場にして登ろう」
「……良いの? 」
「良いだろ、実戦だとしてもモンスターを逃がしたりするよりはこっちのが良い……はずだ。他の木にもこんなことをした跡が一切ないのが癪だけど仕方ない……さ! 」
喋りながら跡に足をかけて枝まで登る。
「次はディーネだ」
「……やってみる」
不安気な表情とは裏腹に彼女は難なく木を登った。
「出来たじゃないか」
「……うん、ありがとう」
「じゃあ、一足先に飛び移る練習もしてみるか」
「……大丈夫? 」
「いざとなれば光の翼があるからな」
自信満々に答えいざ飛び移ろうとしたその時だった。
「貴方達、探したわよ! ここで何をしているの」
突如先生が現れる。
「御覧の通りようやく木が登れたので今から飛び移ってみようかなというところですが」
「この木を……登ったの? 」
先生が驚いた様子だ。
「ええ、傷はつけましたけど」
「そうなの、この剣は飛び移る時のもので登るとかは想定していなかったのだけれど」
「そうなんですか? 」
「そうよ、でも流石は貴方達ね。無事なら良かったわ。陽が沈む頃にはスタート地点に集合ね」
彼女はそう言うと足早に去って行った。
「誰も登ったことがないだって、やったなディーネ」
「……うん」
頬をつくと彼女は嬉しそうに微笑んだ。




