「手抜き試合」
「マリエッタ = ラドミローです、宜しくお願い致します」
転入生と全生徒の前で紹介された後に教室へと戻る。設備自体は私の学園とそれほど変わらず、懐かしさを感じながら再びフレイムの皆への自己紹介を済ませた。
「それでは、HRは以上です」
メイソン先生のその言葉を合図にわあっと生徒が私に集まり矢継ぎ早に質問をしてくる。
「ラムサール学園はどんなところなの? 」
「どうして転入してきたの? 」
「転入してくるってことはマリエッタちゃん強いの? 」
正直、光の剣士が誰なのかを知りたかったけれど、これは潜入捜査。変に浮いたりしてしまうことは避けなければいけない。
仕方がないわね、一応この中では私が一番のお姉さんなわけだし……
観念して愛想笑いを浮かべて一つ一つの質問に答えると次の講義の時間になった。
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チャンスが巡ってきたのは昼休みだった。学食に大勢の生徒達が向かい残った数人の生徒が大体の質問を終えようやくこちらが質問するターンが回ってくる。
「ねえ、光の剣士って本当にいるの? 」
あくまで自然に、噂話程度の認識を装い尋ねる。
「あー光の剣士ね、いるよ」
「ガイト様ね」
ガイト……どっかで聞いた気がするけれどどこだったっけ?
これまでのことを振り返ろうとした時だった。一人の女生徒が立ちあがる。
「ほら、今立ちあがったあの方よ」
「え? 」
言われて驚く、彼は昨日散々道案内をお願いした男性だったからだ。
……人って見かけによらないのね。
「あの子が、あっ私達も学食に向かいましょうか」
今この瞬間にもヘルナイツが仕掛けてくるかもしれない、護衛対象が明らかになったため私は急いで彼を追うように生徒と共に学食へ向かった。
~~
昼休みが終わり、午後の実技の講義が始まる。彼を見ると相方は女性のよう、彼女がディーネって子かしら? 彼の実力を見るのにも護衛をするにもあそこのポジションは譲って貰った方がやりやすいわね。
彼等の元へと歩み寄る。
「先日はどうも」
「ああ、昨日はオレも悪かったよ、何か決まりらしくて言い出せなくて」
「ねえ、ガイト君、私と一試合して頂けないかしら」
「オレと? 」
「噂の光の剣士と戦ってみたくて」
「そっか、良いよ」
「ちょっと、実技だけれどあくまでソウルの講義であって試合とかではないのよ」
話がまとまりかけたところにメイソン先生が慌てて私達の間に割り込んできた。
……今回は無理そうね、出しゃばり過ぎたかしら。
諦めかけたその時、光の剣士が先生の肩に手を置く。
「まあまあ、先生、今回だけは大目に見てくださいよ」
「貴方の『今回だけ』は何回あるのかしら……まあいいわ、ただしケガをしないようにね」
驚くことに呆れはしているようでも先生は彼の一言で潔く引き下がった。
……流石、光の剣士の前には教師も従うしかないようね。
感心しているといつの間にか散らばっていたはずの人々が周りに集まっていることに気が付く。
「お、転入生とガイトか、どっちが勝つんだ? 」
「勿論ガイト様よ」
「いやいや、転入生だぞ? もしかするとガイトより強いかもしれねえ」
……なかなか賑やかになってきたようね。でも、安心なさい、今回の目的はあくまで光の剣士の実力の調査、すぐ勝負が決まるようなことはしないわ。
模造剣を抜き構えると彼がこのタイミングで口を開いた。
「インバリ……ソウルの無効化は使わないからな。遠慮しないでソウルを使っていいぞ」
その言葉を聞いて失策に気が付く。わざわざ断るということは同等の条件での勝負を狙っているのかもしれない、でも私はソウルをガイアではなくフレイムと偽ってここにいるためソウルは使えない。ということは、私が開始と同時にソウルで攻撃してくると読んでもう一つの光の翼で試合開始早々試合終了成果ゼロ、なんてことも考えられる。
……それなら。
「お心遣いありがとう、でもそれはフェアじゃないわ。私もソウルは使わないで行かせてもらうわ」
「いや、使ってもらった方が助かるんだが……」
「良いから始めましょう」
彼がオレには光の翼がある、と言い出す前に催促をする。残念だけれど今回は光の翼は見送って剣の腕だけでも拝見させてもらうわ。
「それでは、試合開始」
「行くわよ! 」
宣言とともに駆け出す。向こうは一切動かない。
……もしかして、調整したつもりだけれど早すぎたかしら、なら少し速度を緩めて……
おかしな話だけれど相手が防ぐことを願いながら剣に振る、すると願いが通じたのか彼はそれを見事に防いでみた。
……やるわね、それならこれはどう?
次々と攻撃を繰り出すも全てが防がれる。
「なかなかやるじゃない、私の攻撃をここまで防ぐなんて」
「何とかな、でも防ぐので精一杯だ」
鍔迫り合いを演じながら情報を得る、どうやら彼はこれが全力のよう。
そう、実力はきっちり二期生並……ってところね。それなら、これで終わりね。
剣を引くと間髪入れずに先程より速く剣を振る。先ほどのが防ぐので精一杯と口にした彼には到底防げないような一撃、これで勝負は決まったように思えた
……のだけれど
カン!
素早く差し込まれた剣により私の一撃は防がれてしまう。
……え、どういうこと?
戸惑う私の脳内にギャラリーの声が響き渡る。
「やるな、マリエッタさん。あのガイトと剣技で互角なんて」
「あそこまでやれるならガイトみたいにアローさんにも勝てるんじゃないか? 」
……噓、そんなに剣技が得意なの?
アローという名前も光の剣士の名前と同様に学園で耳にしたことはある、かなりの実力者という話だった。
ということは、もしかして…………彼も手加減をしているということ? 学園を首席で卒業した私に対して年下の彼が?
「クッ……」
もちろん、彼が私が年上で首席なんてことは知らないということは分かっている。それでも、惨めさからつい身体に力が入り彼の懐に入り込むと脇腹目掛けて横一線に剣を全力で振ってしまった。
……まずい、これでは腹部とはいえ思いきり剣が入ってしまう。
焦って止めようとするももう剣は止まらない、まだ二期生の彼に対して私の最高の一撃が向かっていく。
……ああ、直撃だ。
鈍い音からの苦痛に呻く彼、それを聞いた生徒達の悲鳴、次々に悪夢のような光景が浮かび思わず目を閉じる。
……でも、そうはならなかった。
カァン!
再び剣がぶつかり合う音が響き渡る、目を開けると彼は一歩後ろに下がって私の攻撃を受け止めていた。
……嘘、私の最高の一撃を止めたというの?
勝手なもので今度は動揺し目を瞑りたくなったその時だった。
「うおっ」
彼の足が崩れ力が弱まった結果彼の剣があらぬ方向に飛んでいく。
「勝者、マリエッタ! 」
何が何だか分からず呆然と立ち尽くしているとうちに先生が宣言をする。
「すげえ、あの転入生勝ちやがった」
「あ~ん、ガイト様が負けた」
生徒達がワーッと歓声を上げる。
……私、勝ったの?
「やられた、最後の攻撃が速すぎて変な体制で防いだから……やるな、転入生」
彼は悔しそうにそう口にした。
……待って、最後の一撃、貴方は本当は防げたの? 手を抜いたの?
尋ねようとするも言葉にならない。そうこうしているうちに私は生徒達に囲まれて彼が見えなくなった。




