モノローグ 過去編1
「嵐隊長――――! ……はっ!」
私は跳ね起きて目を覚ましました。また、うなされていたようです。
隊長のことが忘れられず、眠りに落ちるたびに悪夢に苛まれます。
ここは宇宙船の中で薄暗い自室には誰もおらず、優しく声をかけて起こしてくれる人はもういません……悲しい。
私は枕元の3Dフォトフレームを手に取り、微笑む隊長を見ては昔を思い出します。
今こうしていられるのも、隊長が私達を助けてくれたからです。
……もう十年前のことですが、一度足りとも忘れたことはありません。
私達姉妹は優しい父と母に見守られ、貧しくも温かい家庭の中で、楽しい日々を過ごしていました。
――それが突然奪われました。
逃げてきた反政府ゲリラが街を占拠し、日常は一夜にして地獄に変わりました。
当時十歳だった私は、何が起きているのか分からないまま、怪我を負ったルナをリジーと一緒に抱きしめ、ただ泣き叫ぶことしかできませんでした。
私達を守ろうとしてくれた父と母は銃で撃たれ、その場に倒れ伏したままになり、もう動きません…………。
「へっへへへ、旨そうなガキがいるじゃねーか」
「おいおい、ヤるのはいいが殺すなよ。他の奴らにも回さんとな」
両親を撃った男達が舌なめずりをしながら、私達に近づいてきます。
気持ち悪い顔を見て、私は恐くて怖くてしかたなかった。
リジーは肩を震わせて怯え、ルナは苦しそうに呻いています。
そして男達の手が伸びてくる。私は目をつむって叫ぶしかありません。
「誰か助けて!」
「神拳」
「ぐほっ!」
何が起きたのだろう?
恐る恐る目を開けてみると、私達の前に戦闘服を着た、男の人が立っていました。
手を出そうとしてきた男達は倒れ、体がピクピクと動いてました。
首が変な方向に曲がっていたので、もうすぐ死ぬでしょう。
両親の仇なので、いい気味だと私は思いました。でも危機が去ったわけではありません。
「どうした⁈ うっ!」
「てめえがやったのか⁈ ぶっ殺してやる!」
仲間のゲリラが駆けつけてきて、助けてくれた男の人は囲まれてしまいます。
大人数が現れて私は絶望しかけますが、それはいらぬ心配でした。
「神影走」
「消えた! ぐわっ!」
「クソッ! これでも食らいやがれ‼」
ゲリラは銃を乱射しますが、男の人に当たることはありません。
動きが早すぎて、どこにいるかさえわかりませんでした。
「折神」
「ぎゃああああああ!」
銃が突然壊れて暴発しました。そして男の人はあっという間に、次々とゲリラを倒していきます。
何をしているのかサッパリわかりませんでしたが、
「き、貴様! エスパーか⁈」
一人残った指揮官が震えながら、必死の形相で叫びました。
男の人は答えず、淡々と近寄っていきます。
「く、来るな! コイツらがどうなってもいいのか⁈」
軍帽を被った指揮官が、私達に拳銃を向けてきました。
この卑怯者! 私は激しく怒ると同時に、申し訳なく思ってしまいます。
ここで男の人が言いました。
「分かった、分かった。まあ落ち着けよ」
両手を上にゆっくりと上げていくのですが、宙に弾が浮かんでいるのが見えました。
「神鉄砲」
いきなり指揮官は倒れ、穴の開いた額からは血が流れていました。
浮いていた弾が命中したようです。見えなかったのはもちろん、音が全くしませんでした。
男の人は私に声をかけてきます。
「大丈夫か? むっ! 怪我をしてるな、治療しよう」
「は、はい」
私はルナを任せます。男の人は医療キットを取り出して、治療をしてくれました。
ルナは目を覚ましませんが、少し落ち着いたように見えました。
しかし男の人は険しい表情です。
「……傷が深い、血が足りん。応急処置はしたが早く医者に診せんと……この子の血液型は分かるか?」
「は、はい! B型です」
「よし、ならば俺の血をやろう」
男の人は輸血用チューブを取り出して、自分の腕に針を差しました。
血が流れてくると、反対側の針ををルナの腕に刺してテープで止めました。
輸血しながら男の人はルナを抱きかかえます。
「これから、急いで野戦病院にいくぞ」
「はい、ついて行きます! えっ⁈」
走るのかと思ったら、私とリジーの体が光に包まれて浮かび上がりました。
「神風船、舌を噛まないようにな」
「えええええ!」
男の人は風のように走りだし、浮いた私達も引っ張られるように運ばれていきます。
ただただ驚くしかありません。超能力という不思議な力を知ったのはこの時でした。
あっという間に白い天幕がある場所にきて、ルナはすぐにお医者さんに診てもらい、私達もボランティアの人達に保護されました。
いつの間にか男の人の姿は消えてました。聞いてみると、他の人達の救助に向かったそうです。
「助けていただいた、お礼を言わないと」
そう思っていましたが、なかなか会えませんでした。
彼がたった一人でゲリラを倒して回っていたからです。これでみんなの安全が守られました。本当に強くて凄い方です。
ようやく会えたのは合同葬儀の時で、犠牲になった人は数知れず、その中には私達の両親も含まれていました。
「うえええん!」
リジーとルナは大声で泣いていました。私も涙を流します。
遺体を集めて運んでくれたのも彼です。命を助けてもらい、仇も討ってくれたので感謝しかありません。
お別れが済んで、彼が立ち去ろうとしたので、私は近づいて声をかけます。
「あの! ありがとうございました!」
「ん? ああ、気にするな。俺は仕事をしただけだ。生きるのは大変かもしれんが、命があるなら頑張れ」
「はい! あの、お名前は?」
「天馬嵐だ。じゃあな」
彼は私に背を向け、手をふって去っていきました。
私は見送りながら、彼の名前を何度もつぶやいていました。妹達も同じです。
命の恩人を忘れないように。
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