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第60話 ブチギレ

「それは通らない」



 瞬間、モモコちゃんが桃色のヘヴフレアを展開。弾丸を全て空中で溶かすと、爆炎の中へシロウさんとアオヤ君が突っ込んだ。



「キータさん!」

「任せて」



 言われ、炎の向こう側の影に、2本の矢を放つ。矢じりにタールを塗りつけたそれは激しく燃えて先頭に立っていた2体に突き刺さる。だが、それを読んでいたのか、黒い翼の男はすぐに炎を消した。……聖なる炎を、どうやって?



「テメーらは、絶対にここから生かして帰せねぇ」

「物騒だな。お前らは、自分の名前を名乗ったりはしねぇのか?」



 言いながら、爪を構える悪魔に斬りかかり、全体重を乗せた重たい一撃で叩き潰すと、剣についた血を別の悪魔の目に飛ばして視界を奪った。そして、アオヤ君が追撃の攻撃を放つ。ストライクの最終形態、レベル5のブラッドストライクに風のアトムを加えた新時代のスキルだ。



「スキル、ベヴブロク……」

「なにッ!?」



 赤い口の悪魔が、スキルを唱えて剣を持ち、アオヤ君の攻撃を弾いた!こいつら、スキルを覚えたのか!?



「レヴァス。貴様らを終らせる、悪魔の名前だ」



 弾かれた一瞬を縫って、悪魔の弾丸がアオヤ君の腕を貫く。血が出て、ホーリーランスが宙を舞う。それを見たモモコちゃんは炎を顕現させたが。



「落ち着いて」



 ヒールを掛けて、更にポーションの液体を込めた爆弾を放り投げる。ヒールボム。ヒマリの回復スキルとラインを繋いだポーションを込めてある。全体に回復をしてしまうが、相手はまだ効果を理解していない。もう一度くらいは、使えそうだ。



「ラインを繋ぐ!モモコちゃん、準備を!」



 今度は、ミレイの風を込めた氷を付与した矢を放ち、誘爆を起こす準備を始める。それを隠すように、シロウさんは大袈裟に剣を振って場をかき乱した。



「屈辱だ。俺たち悪魔が、貴様ら人間の作り出したスキルなんてモンに頼らなきゃならねぇなんてよ」

「おまけに、数の有利まで持ってんだもんなぁ。どうだ?たった4人に、世界中の仲間ぁブチ殺される気分ってのはよ。誇り高ぇ悪魔どもも、テメェの価値ってモンを思い知ったんじゃねぇのか?」

「黙れェ!この外道がァ!!」

「キータァ!」

「ヘヴブレイブ!!」



 キレて、レヴァスは剣を振りかざし、バフを受けた圧倒的なスピードとパワーでシロウさんに迫る。しかし、俺の放った矢を防いだせいで思うように動けず、勢いを殺して迫り合いの膠着状態となった。だが、その波動と剣圧によって、誰も近寄ることか出来ない。何かの拍子で触れてしまえば、そいつの体が吹き飛んてしまう。



 ただ、俺の意識はレヴァスよりも、あの黒い翼の男に向いていた。シロウさんではなく、武器を失ったアオヤ君を兵士を使って冷静に追い詰めている。あの言葉にも、一切動じていない。



 不気味だ。ひょっとすると、悪魔じゃないのか?それに、さっきから絶妙に戦場のバランスをコントロールしている。まるで、クモの巣の上で迫るようにジリジリと追い詰められているようだ。おかげで、モモコちゃんが迂闊に攻撃する事ができない。



 ……戦力は、およそ五分。ならば、劣っているのは俺だ。あいつは、戦術家として俺の格上なんだ。腕の内も見せていないし、消耗し続ければいずれ仕掛けられて一網打尽にされてしまう。もしかすると、どさくさに紛れて用意しているミレイの矢だって、看破されているかもしれない。



「……そうか」



 あるじゃないか。こんなに簡単に、あいつの正体を探る方法が。



「モモコちゃん、ヘヴフレアで防壁を張ってくれる?」

「わかりました!何か、意味があるんですよね!?」



 言って、準備していたスキルを横薙ぎに唱えて、地面から噴き出す火柱を展開させた。炎が視界を塞ぐ瞬間、あの男は間違いなく俺を見た。



「矢が来るぞ!全員、引け!」



 叫んだ瞬間、一斉に二人から離れて固まり、防御態勢になった。しかし、そのうちの一体をシロウさんは腕を掴んで引っ張り上げ、まず一体。脳天から真っ二つに斬り裂いた。



「シロウさん、ソードオフを!」

「オーライ」



 すぐさま、乾いた音が鳴り響く。そして、その音に被せるように、俺は炎の壁の横からダガーナイフを()()()()()



「なるほどな」



 それを見たシロウさんは、斬り裂いた悪魔の体を蹴り上げて目隠しをし、更にその影から自分のナイフを同じように投げつける。すると、予想通りに悪魔はその攻撃を防いだ。



 ただのナイフを、防いだのだ。



「……名乗らねぇワケだ」



 蹴り上げた死体は、時間が巻き戻ったかのように血を吸い上げて、空中で体を元通りに再生させた。そして、そのまま空中で一回転。スタンプのように叩きつけられた剣は、シロウさんの義手を叩き割って砕く。



 エンゼルプレグは、復活の天使の儀式。つまり、その術式は再生だ。ヤツは、モモコちゃんの炎を消したんじゃない。尽きたそばから、蘇らせていたんだ。



 スキルでは成す事のできない、圧倒的な能力。その為の供物を、俺たちは知っていた。



「テメェが……ッ!!」



 瞬間、こめかみで青い筋がブチギレたのが分かった。岩の地面に足がめり込んで、熱気が周囲の空気を蒸発させて、向こう側を揺らすように陽炎が立っている。睨み付ける表情は、もはやこの世のものでは無い。



「な、なに!?」



 次の刃を右手で掴み、血を蒸発させながら、砕けた義手の手首を悪魔の顔面に突き刺す。宝具でもないそれが顔面に深くめり込んで、しかしダメージはないから動き続けるが、やがて首だけが歪にブヂブヂィ!と音を立てて千切れ、しばらくしてから、頭の無い肉体が膝をついて倒れた。



 それを見た悪魔は、不死身であるにも関わらず、明らかに彼を恐れた。その光景が異常であることに気がついたのは、きっと俺だけだ。



「シロウさん……」



 俺は、勘違いしていた。クロウに見せた感情なんて、まだ生易しいモノだったんだ。復讐する気にならないなんて、そんなの俺たちを安心させるためのハッタリだって。どうして、考えなかったんだろう。



「お前が気が付くのを待っていたぞッ!前衛、突撃しろッ!!」

「……キータ」



 振り向かずに、呟く。何を言われるのかは、もう分かっていた。きっと、シャチョー戦まで隠しておくはずだった。



「奥義、使うぞ」



 そして、シロウさんはホーリーセイバーを拾い上げて、先端を地面につけたまま脱力し、アオヤ君の前に立ち塞がった。

こんなんも書いたので、よかったらどうぞ。


アオハル・オブ・ザ・サイコ

https://book1.adouzi.eu.org/n8436ha/

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― 新着の感想 ―
[一言] ……本当、手段を選ばない……。 成る程、死んだ側から蘇生を繰り返せば死なないし、その代償は既に払っている……。 合理的だけど、合理的すぎて薄寒い物を感じますね。 あ、人間も同じか。 …
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