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はじまりはその門から  作者: 四条奏
第ニ章 世界怯防編
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第十二話 2人の約束と神の怒り

 ......あ!


 靴箱のエリアへ俺が入った時、ちょうどそこに(あゆめ)がいた。


 彼女は俺を見るなり帰る足を早め、早々に玄関から出て行こうとする。


「待って!」


 俺が声を上げると一瞬止まってくれたがすぐにいってしまった。


 完全に嫌われてたな。本心ではあったが、まだ出会って数日の男にクラス全員の前で告白まがいのことをされたのだ。本人の気持ちどうこう以前に、恥ずかしかったはずだ。


 俺を避けるのも無理わないだろう。


 でも、このままは嫌だった。ここで諦めたら何かを失う気がした。だからこそ追いかけた。


 校門に差し掛かろうとしたところでようやく追いつく。


「夏川さん、朝はごめん。あれはその――」


「いいの。別に霧谷くんは謝る必要なんてないよ」


 俺の話を遮って話し出した彼女は俯いていた。


「ここじゃ話しずらいし、近くの公園まで歩こう?」


 歩の意外な提案に困惑したが、俺は素直に従った。


 公園に行くまでの道中、横に並んで歩いていたが2人の間で言葉のやり取りはない。


 4月も中旬だと言うのに、なんだか異様に寒く感じられた。


 住宅街の小さな公園には、火が沈みかけても遊ぶ無邪気な少年たちがいる。


 歩は一角のベンチに腰をかけ、俺に座るよう促した。緊張でぎこちない動きになっている俺だが、歩と少しだけ距離を空けて座る。


 少しの沈黙のあと、歩が口を開いた。


「朝のこと。ずっと考えてたの」


 俺が相槌を打つ間もなく話は続く。


「中学生の時私に気持ちを伝えてくれた人は、みんな私の外側しか見てなかった。だからいざ付き合うと『重い』とか言われちゃって......」


 そんなことがあったのか。


 確かに歩は超がつくほど可愛い。外見だけで好きになってしまうのもおかしくはない。


 俺もそうだったから。


「だから、それ以来私男の子と関わりたくなくって。でも、初めて保健室であなたと話した時にちょっと違う気がしたの」


「あなたは顔を真っ赤にしてたけど、私の目を見て話してくれたから。私の話で笑ってくれたから。だから、今日はずっと霧谷くんの...蓮斗くんのことしか頭になかったの!」


 歩は頬をほんのり赤くさせ、俺の目を見てそういった。


 単純に嬉しかった。俺のことを真面目に考えてくれる人なんていなかったから。


 俺にこの気持ちを表現し切れるかはわからない。でも、だからこそ言葉にしたかった。


「夏川さん。俺は初めて保健室で話した時からあなたのことが好きでした。今朝はその...なんと言うか。本当にごめんだけど。でも、俺のこの気持ちは本当なんだ」


 ......


「俺と、付き合ってくれませんか?」


 彼女は俺から顔を逸らすと小さな声で呟き、頷いた。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」


 愛しい。俺の思い描いていたようなシチュエーションではなかったが、そんなことよりも俺を受け入れてくれた1人の女の子が目の前にいることが幸せだった。



 気づくと、俺は歩を抱きしめていた。



「痛いよ...蓮斗くん」


 その声が、その表情が、全てが愛しくて仕方がない。俺は全力で歩を愛そう。どんな困難にぶち当たっても、全部乗り越えて守り続けよう。



 何分抱きしめていただろうか。いつの間にか周りを小学生に囲まれていた。


 ヒューヒューと俺たちを冷やかす彼ら。でも、決して悪い気はしない。中にはデリカシーのないことを言う奴もいたが18時のチャイムとともに全員が帰っていった。


「......帰ろっか」


 歩の家までの間、2人の話は尽きるところを知らなかった。小中学校の頃のこと。高校での友達のこと。先生たちの面白かったこと。


 たくさんの話を重ねて“夏川(あゆめ)”と言う人物像がもっと鮮明に浮かんでくる。


 それもまた嬉しかった。心を開いてくれた彼女に胸はドキドキなりっぱなしだ。


 手を繋ぐことはできなかったが、まだ早いかと我慢した。


 歩の家の前で、別れるのが急激におしくなる。もっと話していたい。もっと歩のことを知りたい。もっと、もっと――


「じゃあ、また明日。学校でね!」


 いまだに現実を受け止めきれない俺であったが、その声につられて言葉が出てくる。


「うん。絶対に。明日学校で!」


 それ以上の言葉なんて必要ない。“約束”。2人の関係を結びつけるその言葉があるだけでいい。俺はただただ幸せだった。



 歩の家からの帰り道。住宅街特有の静けさが俺の心をさらに冷え込ませる。


 さっきまで気持ちが舞い上がっていた分だけ、1人になると寂しくなる。


 家の近くにある大きな公園に人はいない。受験期には見慣れていたはずの光景ですら今の俺を静かな海の底へ沈めるには十分だった。


『意外と男気はあるのですね』


 誰だ⁈ 


 急に話しかけられて周りを見ると、白のワンピースに麦わら帽子というなんとも時期の早い格好をした少女が滑り台の上にいる。


『いいものを見れました。色々とね』


 こいつまさか......俺と歩の会話をずっと聞いてたって言うのかよ!


『私はいつでもあなたと共にいますしあなたを見ています。なんせあなたの管理者けん契約者なのですから』


 見た目とは反して怖いことを言うのは平常運転らしい。


「お前。何しに現れたんだ?」


 軽くいった俺に対し、時空の神セレネは手をひらひらとさせながら答える。


『いえ。喜ばしいのはもうひとつの方ですよ? ”朝間夏樹“と言えば理解してもらえますかね』


 心の奥を鷲掴みにされたような気がした。忘れていたこと。俺が受け入れたくなかった最悪の事実。


『もう見つけれたのですよ? 喜ばしいことではないですか! あなたは最愛の女を守れ、私は敵が1人減―――』


「喋るな! なんで俺が人殺しなんてしないといけないんだよ。なんで俺が歩の友人を...殺さないといけねぇんだよ」


 激昂する俺に向かって、彼女は平たい声だった。


『それがあなたの“使命”ですからね』


 使命? 人を殺すことが使命だと?


「ふざけんな! 俺はみんなが平和に暮らすために戦ったんだ。お前らの命令を受ければはいそうですかとなんでもやると思うな!」


 もう対話なんてできない。話したくない。


 ここでセレネを倒す。たとえ倒せなかったとしても、神使書の内容を変えさせる。


 誰かが誰かを殺すのが使命だなんて言う奴は、神様であっても許されない。況してやこの世界に誰かが傷ついて嬉しいやつなんて放って置けない。


 瞬間、俺の手に光る何かが浮かび上がってくる。


 俺の怒りに呼応したのは、紛れもなく俺の剣だった。


 異世界以外で剣を持つなんて初めてだが、使い慣れたこれなら戦えるはず!


『もうすでに“(リンク)”を使いこなしているのですね。感心です。ですが、我ら殿上界の神に剣を向けることは許されませんよ』


 そんなことは関係ない。お前らに許される必要なんてどこにもないのだから。


 走り出す。敵が神であっても、一撃をお見舞いできればそれでなんとかなる。


栄華を極むる天下の門セントラル・グロリアス・ゲート。迷える子羊に救済を。無知な子供に制裁を』


 セレネの頭上に現れた底知れぬ穴から、一本の杖が舞い降りた。


 魔術師が持ってそうな、光り輝く木製の杖。


  セレネが何かを詠唱した途端俺の世界が180度反転した。


 背中から地面に落ちる。砂地に打ち付けられた俺に、地面をのたうち回る暇さえなく次の攻撃が繰り出される。


 今度は横向きに吹き飛ばされ、ブランコの支柱に強打する。金属製のパイプがぐにゃりと曲がり、衝撃の強さを物語った。



 ただ、飛ばされている間にひとつのことに気がつけた。それは、この攻撃がセレネの杖を振った方向に放たれると言うことだ。


 だからなんだと言う話だが、ぶつかる方向が察知できれば受け身を取るのも楽になる。


 そう思っていた時期が俺にもあった。


 セレネが杖を振る。上...下...左...上...右...しあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁ⁈


 セレネが杖を振ってから俺に攻撃が反映されるまでの時間はほんの数秒。


 その間俺は杖の軌道を見続けたが、見れば見るほど絶望感が増すだけ。


 おもちゃのように宙を舞った俺が次にぶつかるのは雑木林。この公園の真ん中にある散策路的な場所だ。もちろん、普通の枝では俺の体を受け止めることなんてできるわけもない。


 大小さまざまな枝にあたり、学ランがひしゃげ、全身に傷がつく。ようやく木の幹に当たるが、痛みは想像を超えていた。


 ようやく浮遊感がなくなった俺の体からは血が滴れ、息もまともにできなかった。


 何度も血の混じった咳をし、身体中が痙攣している。


『まだ息があるのですね。まあ、この程度で死なれては私が困るのですが』


 浮薄な表情に軽薄な声。これが神様の力ってやつか。


 ここで負けたら...もう道はない。誰も幸せになれない。立ち上がるんだ。一矢報いないと...


「俺は...こんなところで......負けるわけにはいかない。約束したんだ。明日学校で会うって」


 かすり傷でもいい。こいつの考え方を変えさせる何かがあればそれでいいんだ。


勇者の領域ブレイブ・サンクチュアリ‼︎』


 全てがスローモーションに見えた。セレネが目を驚かせ、回避しようとしている横っ腹に俺の手にまだ掴めていた剣を全力で振り払う。


 剣先が少し掠っただけだった。だが、セレネはこの世のものとは思えないほど甲高い奇声をあげ、切られた部位から崩壊を始める。


『やってくれましたね......まさかこの短期間でここまで成長しているとは思いませんでした。でも好都合です。私の(やしろ)を破壊できるほどの実力があるとは―――』


 そのあとセレネが何を言っているかはわからなかった。ただ、崩れゆく彼女は気味が悪いほどの満面の笑みを浮かべている。


「やったのか? 俺が神様に勝ったのか」


 俺が喜べたのも束の間。セレネが聞き取ることのできない言語で詠唱を始める。


『◎△$♪×¥●&%#*=€Σ/:%+;?!』


 詠唱が終わるとセレネの崩壊は一気に加速し、数秒で紙屑に変わった。


「帰らなきゃ...いてて。こりゃ結構きついな」


 立ちあがろうとしたその時、嫌な浮遊感が再び俺を襲う。


 雑木林を一瞬で抜けた俺は、理解が追いつかないまま空を飛ばされた。


 近くにセレネはいない。まさかあの詠唱が引き起こしてやがんのかよ⁈


 首根っこを中心に引っ張られている俺の体が向かったのは学校だった。


 工事のために白い幕で覆われた正門へと突っ込む。


 金属の柱が崩れ去る轟音と共に、夜とは思えないほど眩しい光が俺の視界を覆い尽くした。


 ......ごめん歩。約束、果たせそうにないや。




 そこで俺の現世での意識は途絶えた。


 ◆◆◆

第2章2話になります!


歩との恋が実ったと思ったら、セレネと戦って敗北してしまう蓮斗。この先どうなってしまうのでしょうか⁈


またお読みいただけることを願いつつ、第2話を締めさせていただきます。作者の四条がお送りしました。

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