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聖魔の救済者  作者: 港瀬つかさ


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20/52

20.街道

 街道を歩く二人組があった。一人は、短い黄金の髪を持つ少年。その傍らを歩くのは、長い白銀の髪の青年。一枚の絵画のように、一対の彫像のように、当人達がどう思っていようと、周囲の視線を集める二人組である。

 方や、僅か12歳で勇者の称号を得た、天才少年。その蒼玉もかすむと言われる青の双眸と、天使に見立てられる中性的な美貌は、多くの者を魅了する。方や、遙か昔に封じられた、最強の名を冠する邪神。紅玉を溶かし込んだ色よりも尚深い、見事な紅の瞳と、怜悧な刃にも似た鋭く端正な美貌は、見る者に息を呑ませた。共通点など何もない、対立する以外に術のない、二人である。けれど彼等は、こうして共に歩いている。

 本来、邪神は人間達の前に姿を現さない。自分の領域に人間が入ってきた場合は別だが、基本的に彼等は人里近くに姿を現さないし、だいたい、殆どの邪神が既にこの世界に封じられている身である。そんな中でヒトの中に現れる邪神は奇特であるが、そういった場合、彼等はごく当たり前のように神気を隠す。だがしかし、この邪神は、それをしていなかった。

 何ら、気にする事はない。そのように言い切る強さがあるのか、はたまた面倒だったのか。むしろ、単に忘れていただけ、というのが正しいだろう。この邪神の青年にとって、傍らの勇者は鬼門である。無理矢理叩き起こされ下僕宣言をされ−それは却下しているが−、その破天荒ぶりの所為で、邪神は常識の塊と化しているのだ。


「アズル、そんな仏頂面をするなよ。通行人が怯えてる。」

「好きでしているわけではない。……ここは魔力が薄すぎる。」

「それは仕方ないだろう?この付近には魔術学校があるんだから。」


 魔術を使うモノの多くは、使った後に魔力を世界から取り入れる。それが頻繁に行われる為に、この辺り一帯は魔力が薄い。そのように、勇者は笑顔で語った。体内に魔力を取り入れて生きている邪神にしてみれば、かなり死活問題な事である。それを笑顔で言われては困る。

 天使もかくやといわんばかりの晴れやかな微笑を、邪神は見た。否、見慣れたという方が正しい。だがしかし、この微笑はとにかく厄介だった。こういう笑顔を邪神に向けて浮かべる時、この勇者は決まって性格の悪さを発揮する。そしてこの時も、邪神の嫌な予感は当たっていた。


「頑張れv」

「……俺はもう一本向こうの街道にしろと、言わなかったか?」

「いったかもしれないな。でも、そっちだと遠回りだろう?」


 そんな面倒な事になったら可哀想だろう、俺が。ニコニコニッコリ。それこそ誰もが見惚れるような笑顔で、勇者は言った。この外道と、邪神が低い声で毒突く。勇者は、自らの楽の為ならば、傍らの同行者の不調など気にしない。むしろ、そんな事はどうでも良いと、笑顔で言い切るだろう。

 魔力の欠乏でずきずきと痛むこめかみに指を押し当てて、邪神は疲れたように息を吐いた。一瞬視界がかすむのを感じて、本格的にヤバイのではないかと、らしくもなく不安に駆られた。その理由は、ただ一つ。この場で倒れたりした日には、どんな目に合わされるか解らない。ただそれだけであった。


「……なるべく早く、この一帯を抜けるぞ。」

「魔術学校は規模がデカイから、影響を受けない地帯に行くには、きっと2、3日かかると思うぞ?」

「………………。」

「おーい、大丈夫か?」


 あまりの事に思わずその場でよろめいてしまう邪神。本気で視界が真っ暗になった気がしたが、そんな彼の視界には、やはり勇者の笑顔があった。こいつは鬼だ。そんな事を、彼は確信した。



 だがしかし、逃れる術はないのだと彼は知っていたのであった……。


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