19.血脈が継ぐもの
其は尊き子供。其は選ばれし神聖なる血脈の子供。其はこの世界を救いし者。其は尊き血脈に連なりし者。
其を人々は、勇者と呼ぶ。
「…………俺は兎より鳥の方が好きなんだが。」
「自分で仕留めておいて何を言うんだ、お前は。」
「仕方ないだろう?肉が尽きたんだから。それにしても、これだけ鬱そうとした森だってのに、鳥の一匹見当たらないのは妙だな。」
「……お前が殺気をみなぎらせているから、逃げてるだけだ。」
「お前の所為かもしれないぞ?」
ニヤリと笑った勇者を見て、邪神は肩を竦めた。どちらにせよ、食事の必要ない彼には、どうでも良い事である。慣れた手付きで勇者は兎を捌いている。呆れたくなる程慣れすぎていた。邪神は少しだけ、哀しくなった。
何故ならば、この勇者は由緒正しい家柄の人間なのである。オメガという、預言を司る神殿がある。少年の祖父は、そこの神殿長を勤めている。その事実を考えれば、サバイバルに長じる理由が分からない。或いは、神殿を抜け出していたのではないかと、少しばかり疑いの念を抱いてしまう邪神であった。
黄金色の髪と、蒼玉の瞳。白い肌に、中性的とさえ取れる端正な美貌。その美しささえ、血脈として与えられたのだろうか。汚れなく、聖域と錯覚してしまいそうな程の、美貌。それが、フーアという少年の真実を、覆い隠している。
本性は最悪な外道だというのに。口にはしないが心の中でぼやく邪神が一名。いや、彼が困っているのは、勇者の外道っぷりにではない。勿論それも大変迷惑な事だと思っているのだが、彼の切実な悩みは、常識が染みついてしまっている自分自身だった。
ちらり。熾した火で兎を丸焼きにしている少年。天使の微笑を浮かべながら、さっさと焼けろよーと言っている。世界は、選ぶ勇者を間違えた。たとえ血脈が正しくても、これはちっとも正しくない。そんな事を、アズルは思った。
今更、そんな事を言っても無駄だと、知っていたのだが…………。




