14.征服
「ヲイ、フーア。」
「何だ?」
「お前、やる気あるのか?」
「何を失礼な。真面目に次の目的地に向けて歩いているだろう?」
「…………そういうなら、お前の手の、そのイカ焼きは何だ?」
「そこの屋台で売ってた。」
「だから、本気で、やる気あるのか?!」
「だから、あると言ってるじゃないか。」
街道でそんな口げんかを繰り広げる、勇者と邪神。通行人達の好奇の視線は、二人には痛くも痒くもなかった。元来目立つことになれている勇者のフーアと、人間の視線などどうでも良い邪神のアズルである。したがって、彼等は目立ちまくっていた。
いや、そもそも、勇者と邪神が並んで歩いている方がおかしいが。その辺はご愛敬である。皆、あの邪神は勇者サマに負けて、その配下に入ったのだと、まぁ、一応間違っていないけれど、ちょっと違う認識を、通行人の方々はしていた。アズルがそれを知ったら、断固として否定しただろう。
彼はフーアに負けたのではなく、叩き起こされて下僕にされたのだ。ちなみに彼は、未だにその下僕という発言には、怒りも露わに反発し続けている。二人の遣り取りを見ていると、下僕と言うよりはお目付役。むしろ口煩い爺やと傍若無人の若君といった感じだが。
「そりゃ、俺だってさっさとやりたいぜ?だけど、道中を楽しむぐらいの余裕はないとな。割に合わない。」
「だから、お前な……。」
「お前も食うか?イカ焼き。」
「いらんわ。」
もう良いとばかりに、邪神が溜め息をついた。てくてくと普通に地面を歩く勇者と、その真横を5㎝ほど浮かび上がって移動する邪神。イカの丸焼きの刺さった串を差し出す勇者に、邪神は顔の前で手を振ってそれを拒絶した。
使命が終わる日は遠そうだ。そんなことを、邪神は思った。いい加減、自分を解放してくれないだろうか。そんなことも、邪神は思った。到底無理なことだと解りつつ、思わざるをえなかったのである。
勇者が使命をまっとうし世界を救済する日は、まだ、遠い…………。




