13.笑顔の裏の涙
オカアサン。僕を見て。僕を愛して。どうして僕を見てくれないの。僕は、いらない子供なの?どうして僕を、愛してくれないの?
愛してくれないなら、どうして、僕を産んだの…………?
…………久しぶりに、嫌な夢を見た。理由は何だろうか。あぁ、そうか。昨日、買い物をしているらしい母親と少年を見たからだ。仲の良さそうな親子だった。優しい笑顔の母親と、屈託なく笑う少年と。
俺の母親は、俺に優しくないヒトだった。幼い子供が求める優しさを、与えてくれないヒトだった。あのヒトが俺に求めたのは、ただ勇者としてあることだけ。立派な勇者になりなさいと、口癖の様に言っていた。けれど、ただ、それだけなのだ。
抱きしめて欲しかった時も。口付けて欲しかった時も。微笑みかけて欲しかった時も。優しい言葉を与えて欲しかった時も。慰めて欲しかった時も。あの人がくれたのは、『立派な勇者になりなさい。』という言葉。
笑顔で、頷いた。解りました、母上。まるでゼンマイ仕掛けのカラクリの様に、そう答えた。それ以外のことをすると、母親はひどく冷たい目をした。強くて立派な勇者になること。そうしなければ俺は、勇者としてさえも、あの人の視界には入れなかった。
笑顔だった。誰に会う時も、どんな時も。幼い頃の俺は、ただ、笑顔だった。仮面の様に、出来の悪い人形の様に、いつも笑っていた。辛い時も、哀しい時も。どれほど苦しくても、俺は笑顔を捨てることが出来なかった。
母さん。俺は、欲しかった。ただ、それだけだった。俺という存在を認めてくれる優しさが、欲しかった。けれど貴方には、俺はいらない子供だったんだ。弟妹達ばかりに優しい笑みを見せる貴方にとって、俺は、勇者としてしか存在価値のない、子供だったのだろう?
あの頃、笑顔の裏で涙した俺を、一体誰が知っていてるだろう。




