12.きらめく
柔らかな日差しが輝いている。まるで全てを包み込む様に。その優しさに抗う様に少年は、睨み付ける様な眼差しをしていた。全てを、滅ぼし尽くしてしまいそうな程の瞳で。
煌めきの中で勇者は、ただ、暗い瞳をしていた。
幼い子供。そう判じるには、彼はあまりにも達観しすぎていた。20歳に手が届かないだろう少年勇者の、双眸。その時のその眼差しを、誰が知るだろうか。彼の傍らに立つ邪神だけが、それを見た。
漆黒の、炎。全てを滅ぼす獄炎。癒されることのない暗い傷跡。そのようなものが、そこにあった。望まれて生まれてきた、祝福されて生まれてきた、勇者に。有り得るわけがない程の暗さが、確かにそこにあったのだ。
けれど、それは。邪神が声をかけようとした瞬間に、消える。まるで煌めきの中に溶け込む様に、それは消えた。次にそこにあったのは、常と同じ飄々とした表情で。全ては自らの目の錯覚であったのかと、邪神は思った。
だが、違う。他の誰でなく、彼自身がそれを否定した。自らが見た勇者の影は、確かにそこにあるのだ。今は姿を隠していても、巧妙に隠されていても、確かにそこにあるのだと、彼は悟ってしまった。
これは、歪な人間だ。そのようにだけ、彼は思った。勇者としてではなく、人間として、歪。しかし、だからこそ面白いと、彼は思う。或いは、見捨てておけぬと、思ったのかもしれない。
どうしたと、邪神に問いかける表情がある。街中である所為か、それは何処までも慈愛に満ちていた。彼本来の気質を覆い隠すかの様に。それを見て、邪神は悟る。この勇者は、己を偽ることに慣れすぎているのだと。歪であるが故に、影を、あまりにも巧妙に隠しているのだと。
その様に腹を立てる心の意味を、邪神はまだ、知らない…………。




