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【ほう。余の値段をつけるとは余裕がありそうだな、小娘。くくく、何なら力の差を分かっておらぬ貴様に、特別に値段を設けてみせようか?】

「間に合っ…………ちなみに参考程度に聞いておきますがおいくらに……」



 あくまでも参考までに、と走るすがら振り返ると、私に向けて3本の長い指が立てられる。


「3万円! ボスドラゴン並みだったんですか……」


 ほっとしたようなガッカリのような気持ちがない交ぜになって立ち止まる私に、魔王が指を2本減らして、ちちち、とそれを横に振った。


【戯言を。ゼロが3つ足らぬわ】

「ひっ」


 桁違いの強さに私の口から悲鳴が上がる。

 無理だ。

 もし、もし仮に勝てたとして私はどうすればいいのだろう。400万の借金なんて即日返済、余った2600万を何に使えばいいのか一般ピープルの矮小な私には到底使用方法等思い浮かばない。

 とりあえず900万弱ずつ分けて貯金はする知恵は付いているがこれで大丈夫だろうか。


「こらヨーコ君! そんな言葉に惑わされるな!」


 室長に腕を取られてその場を引き剥がされた私。どうやら足に根っこでも生えていたらしい。

 ようやく動けるようになって室長と共にその場を離れる事が出来たけれど、先程の3000万が頭から離れない。

 憂いは早々に晴らすべき、期待……ではなく恐る恐る室長へと声をかけた。


「……3000万なんて、嘘ですよね……?」

「勿論だとも!」


 室長が力強く頷くのを見てほっと力が抜ける。


「3000万なんて大金、あるわけがないだろう! 50万は無理でも30万は絞り出させようと画策している所だというのに……!」

「ひっ」


 それでも想定していた6倍の値段が提示され、またしても私の心臓が縮みあがる。周りの人間……というかあちらの世界の金銭感覚が恐ろしい。

 このままだと力が倍増するどころか、プレッシャーに押しつぶされて本来の力が発揮出来なくなる恐れがある。魔王に聞こえない程度に声を抑えて室長に声をかけた。


「ちなみに金銭感覚違っていたりしませんか? 魔王の中で一番強かったりするんですよね?」

「……悔しいが、力の差も金額も相応だ。強いどころかあの魔王は弱小企業……あ、いや、最弱……ではなく、一般的な者だが……それより何故魔王が複数いると知っているのだ?」


 冗談でも言って自分の気を持たせようと思って言っただけなのに、更なる辛い現実をつきつけられてしまった。

 どうやら向こうの闇社会も発達しているらしい。まぁ、無数にいる社畜を纏めるのに魔王(ボス)1人より複数いた方が色々と効率はいいのかもしれない。

 だからこそこっちの世界にアッサリと姿を現せる事が出来たのだろう。大企業……大魔王(仮)に比べて力が劣るという点と親しみやすいという点で。


【―――ふん。30万とは、余も甘く見られたものだな。まぁよい、ならば本気で相手をする必要はあるまい。その分だけの働きをしてやろう、存分に味わうがいい】


 と言ってニヤリと余裕ありげに腕を振り、黒い蛇をこちらに仕向けてきた。どうやら意に介さず敵の力を殺ぐ事に成功したようだ。

 室長の背中に来た蛇を叩き落とし、次を捜していると後ろから肩を押され前につんのめる。

 後ろでは宮さんが蛇の頭を吹っ飛ばしている所だった。


「ありがとうございます宮さん」

「庸子、あの蛇は俺達に任せろ。お前はあの光ってるやつをなんとかしてくれ」


 雅人を背負いながらも上がる足に、思わず滾ってしまう。

 今はそれどころじゃないと邪念を振り払い、夜空に浮かぶ黄色に眩しく光った独鈷杵を見据え、バットを構える。


「分かりました。すみません、宮さん。雅人はどこか安全な所に放っておいてください」

「そうしたいのは山々だが、どこに置いても見つかりそうなんだよな、あの蛇に」

「ほんとすみません……」


 よいしょと抱え直す宮さんに再び謝る。

 その大きな背中で、ぬくぬくと眠っている雅人に少し苛立ちを覚えたのだった。



【ほら、どうした小娘。逃げ回るだけでは余は倒せぬぞ?】



 誰もいない公園へと舞台を移し、ブランコの柱の上に立っている魔王が、下々を見下ろしながら愉快そうに呟いた。

 伸縮自由な蛇に、プラス雑魚をポコポコと召喚してくるので、宮さんon雅人と佐久間さんはとても手が足りなそう。うねる蛇に捕まらないようにするのが精一杯で、ほったらかしの雑魚はみるみる増えていっていた。

 特技:受け身な非力な室長は、公園で拾った木の棒を手に一生懸命振り回しているだけだし、私はというと、降って来る独鈷杵を避けるのが精一杯で、これをどう処理するか決めあぐねている。

 なので直接魔王に交渉してみる事にした。


「あの、すみません。提案があるんですがいいでしょうか?」

【言ってみろ】

「魔法使うの止めにして、肉弾戦にしませんか?」

【否】


 バッサリ切り捨てる魔王。

 しかし一応ちゃんと聞いてくれる心の広さ(?)があるので筆舌に尽くし難い。ここが椅子に踏ん反り返っているだけの大社長……間違った、大魔王(仮)ではない、人間に一番近い所にいる魔王という事か。

 落ちてくる攻撃を避けながら、滑り台の下に避難している室長を迎えに行った。


「室長」

「ヨーコ君! 意外とここは安全だぞ!」

「魔王の弱点か何かないんですか?」


 走り続けて十数分。命からがら故の逃亡で、既に体力と集中力の底がこちらをチラ見していた。

 出来る事なら早く必殺技でも奥義でも出して一瞬で終わりたい。


「我々は向こうでも魔王には長年苦しめられているが……これといった弱点が分からんのだ」


 絶体絶命というやつだ。詰んだかもしれない。

 ただの会社員である私が勝てる相手ではないじゃないか。

 魔法少女であって、限りなく魔法が使えないのだから。


「……最悪、魔王が地面に降りて来てくれれば、ドラゴン・ロケットくらいならかませたのに」

「頭から突っ込む技だな!?」

「詳しくなりましたね、室長」


 タックルと相違ないあの技なら、文字通り当って砕けられる。

 一瞬でも魔王を引きずり降ろせる技はないのだろうか。

 考えていると、室長が閃いたように手を叩いて滑り台の柱から手を離し、私の腕を取って降って来る独鈷杵から逃げる。


「―――ヨーコ君。これは博打だが、いい案が浮かんだ」

「何ですか?」


 ちらりと魔王を見れば、視界の端でふふんと顎を上げた。

 “楽しませてみろ”と妖しく光るグリーンの瞳が雄弁に語るのが分かり、私のやる気が焚きつけられる。



 室長の作戦はこうだ。


 今使える魔力は全体の3分の2、それの9割を使って一瞬以上魔王周辺の動きを封じる。ここら辺の謙虚さにで涙が出そうだ。

 そして(まだ身体が拘束されていると信じて)落ちてきた魔王に、肉弾戦を持ちこむのだ。ここで身体強化で1割程使用。

 その後の事は考えていないと室長は胸を張った。



 ……限りなく恐ろしい作戦だ。

 もしかして室長の中で、私の頭は内臓を貫通する事になっているのだろうか?


 しかし、先程肉弾戦に勧誘した所断られた訳だし、魔法使うより苦手だという可能性は無きにしもあらず。

 今の所これ以外案は浮かばない。

 いい加減逃げ惑うだけでは終りも見えないし、ブランコの上から引きずり降ろせるだけで状況は変わるかもしれない。


「分かりました。やらないよりマシですね」

「その呪文はだな、“応えて☆総ての法則(ちから)よ☆私の(ため)に止まり―――」

「行ってきます室長」

「ヨーコくーん……」


 親指を立て、人差し指を魔王に向けてキャピキャピが増えた台詞を言い出す室長を木陰に押し込み、ブランコの柱の上で暇そうに佇む魔王の元へ走った。

 走り様、見上げればにやりと笑う魔王と目が合う。


【して、何か良き企みは思いついたのか?】

「“ステイ”“アナボリックステロイド”」


 言えば魔王の目が見開き、公園中を這い回っていた蛇が止まる。空にあった光る独鈷杵も消えた。

 本当に成功したのかと自分で驚きながらも、地面に着地したての魔王目がけて走る。

 そしてブランコ前にある柵に乗り上げ、ぐっと力を入れて魔王の腹目がけて飛び込めば、初めてのドラゴン・ロケットが完成した。

 ちょっと近距離で強引な気もするが、筋力増強のお陰で威力はドラゴン顔負けな筈。そこを重点的に評価して貰おう。


 頭に堅い鎧の感触がして、その持ち主から呻く声が耳に届いた―――が。


【―――成程。これなら肉弾戦も悪くはない、な】


 それだけで、効果とは別問題だった。

 その余裕の声にぞわっとしたものが背筋を走り、勢いに乗せられるがまま腹に腕を回し足を払ってバランスを崩させるものの、次の瞬間気持ち悪い浮遊感に襲われた。

 室長らの声が遠くに聞こえ、何が起きたのかと目を凝らすと、直ぐ足下にゆらゆら揺らめく明かりを灯す街灯が見えた。


「っ」


 悲鳴を上げそうになるのを堪えて目の前の物を掴む。すると頭上で低く笑う声が落ちて来る。

 嫌な予感に顔を上げれば、やはりというか魔王が私を見下ろしていた。

 街灯の上、魔王に捕まったようだ。

 他の皆は無事かと辺りを見回すと、3人……雅人も合わせて4人一緒に蛇に拘束されている姿が目に入る。


【まだあの男の身体を知らないくせに、その魔力量は褒めてやろう】

「……ありがとうございま、す……っ!?」


 魔王の腰にしがみ付く私の腰に回している手に力が込められ、思っていたよりも人間くさい体躯に、嫌な汗が流れる。

 思わず右手に持っていた高山さんで身体を押し返すも、魔王の手に掴まれていとも簡単に捻り潰されてしまった。一応言っておくと高山さんは金属バットだ。


「高山さんっ!!」


 ぐねぐねに曲がった高山さんが、無残な姿になって地面へと消えてゆく。

 慌てて手を伸ばすも、指の隙間から高山さんが小さくなっていくのを見ているしかできない。


「何するんですか! 私の大切な相棒(ひと)なのに!」


 高山さんを追おうと分厚い身体を拳で殴っても、逆にその手を取られて空に離され、ふいに顔が近づけられる。

 その人間とは美の次元が違う顔に、身体を逸らして逃げた。


 ―――だけどそれがいけない。


 白髭とジャージの襟の隙間から首筋を舐められた。


「ぅ、ひぃっ!」

【あの棒で叩いた方が、まだ賢かったな?】


 そして駄目出しをされる。

 完全に私は舐められている。

 恐らく落ちてきたのも演技なのだろう、まぁ成功するとは思ってなかったし。

 そういう事にノッてきそうだったから室長の案に乗った訳だが。


 人の形をした魔王に、バットを振り下ろせないと室長は気づいてくれたのだと思う。

 甘えた結果がこれで本当に申し訳ない。高山さんも無残な姿になってしまい、本当に後悔ばかりだ。

 こんな事なら最初からフルボッコにした方が、いや、せめて浮気をせずドロップキックをかませば……!


 悔しさに歯をギリギリ噛み締めながら舐められた首を魔王のマントに擦りつけていると、直ぐ側で魔王の吐く息が私の顔にかかった。


【―――それにしても。折角余が直々に力を与えてやったというのに、なんと使えない人間か】


 魔王は言った。

 近くにあるグリーンの瞳は下の4人の方へ向けられている。


「……なんの事ですか?」

【昔の女の動揺も誘えぬとは、とんだ期待外れだ】


 雅人に力を与えたと。

 私の彼氏だったから雅人が巻き込まれたと。

 響子さんが言っていた嫌な感じというのは、魔王の事だったのか。


【あの棒の方が、余程貴様の面を動かした】


 くくくと笑う魔王の振動が私に伝わってくる。

 おかしくもない私の身体まで揺れてきた。


【―――ああ、勘違いするな。余が与えたのはあやつの闇をそっと後押しするだけの物。堕ちていた物を有効に使ったまでよ】


 私に寄越された瞳は愉しそうに細められている。


 それは知っている。

 雅人がパチンコにのめり込んだのも、私の元から去って行ったのも、彼の意思だという事は。


 でも今日の日の事は、人としての彼の意思が無視されている。


「……魔王」

【なんだ】


 まだ細められたままの瞳に、歪んだ自分の顔が見えた。



「私はこの町で魔法少女をやっている正社員庸子です。―――即刻この町からお引取り願います」



 忘れていた名乗りを拳に乗せて、魔王の顔へとぶち込んだ。

 だけどその手はガードされ、掴まれた手からギシリと骨が軋む音が聞こえる。


【っくく。芸の無い事だ】

「それはすみません。これならどうですか?」


 掴まれた手をそのままに、自由な足を後ろに思い切り引く。

 そして膝を曲げて、魔王の2本の足の付け根目がけて思い切り振り上げた。


【っ】

「痛っ」


 やはりというか、そこも硬いものに覆われていたせいで私の膝も悲鳴を上げている。

 しかし頭上の魔王の歪んだ顔を見れば、少しは衝撃が伝わった様でよかった。

 腰を掴んでいた腕が緩み、私の身体は宙に投げ出される。眼下には地面、これ位の高さなら少し骨をやる位で済むだろうと体勢を整えようとすると。


【―――誰が逃がすと言うたか?】


 耳の奥へと直接流し込むような声が聞こえ、思わず鳥肌が立つ。

 地面へと落ちる筈だった身体は再び宙に留まり、身体に魔王のマントから出ている蛇に巻かれているのが分かった。足がぶらぶらと所在無げに揺れている。

 どうやら私は長い物に巻かれる運命なのかもしれない。

 溜息を零して顔を上げてみれば、身動きが取れない私を見てニヤニヤ笑う魔王がいた。


「……なんでそんなにピンピンしてるんですか。無いんですか魔王様」

【余の物がそんな柔に出来ている筈もなかろう。何なら試しに使ってみせようか、小娘?】

「セクハラは結構です」


 どこの世界も上に立つモノは同じなのだろうか。


 しかし、相変わらず状況が回復する兆しが見えない事に焦りを覚える。

 起死回生の案も呆気なく終わり、カスみたいな魔力残量しかない私達に、果たして魔王を倒す事が出来るのだろうか。

 私の奥の手も不発に終わった。

 力も魔力も到底敵いそうにないのだ、やはりここはもう室長には腹を括って貰うしかないだろう。外ゆえ若干寒いが仕方がない。

 そう室長に伝えようと口を開くと、その顎を長い爪を携えた手に取られた。

 目の間に広がる、3つの目を持った魔王の顔。


【―――魔力が欲しいのなら、余の物をくれてやるぞ?】


 それは願ってもない申し出だった。室長からならば。


「……ちなみに聞いておきますが、貴方から貰っても大丈夫なんですか?」

【さぁ? 身体に耐えうる程度にしといてはやるが、魔法少女としての力では無いだろうな】

「ですよね」


 なら結構と言おうとする私に覆いかぶさってくる魔王の顔。

 第3の眼と目が合ってしまい、金縛りに遭ったかのように身体が動かなくなる。何これ。

 蛇に拘束されている上にピクリとも手と足も動かせず、唇に温かい息がかかるのを感じ、もう駄目だと思って目を瞑った時。



「―――諦めるのか、ヨウコ」



 目の前を切っ先が落ち、風が横切る。

 私を拘束していた蛇もバラバラに斬られ、投げ出された私の身体は空で受け止められた。

 聞き覚えのある声に、鼻をくすぐるバラの香り。


「ブラック……様……?」


 すぐ目の前にいるのは、最近とんとご無沙汰だったブラック様だった。

 またしても危ない所を助けて貰ってしまった。2度ある事は3度ある。なんて縁のある諺なのだ。


 いや、ブラック様の腕の中でのんびり思考を巡らせている場合ではない。

 自分が開放されたとなれば、魔王はどうなったのかと探す。

 すると距離を取って宙に浮かんで私を見下ろしているのが見え、斬られかかったというのに、その顔に動揺の色は無い。


 そして長い剣を片手に黒のスーツに身を包んだブラック様は、私を地面へと降ろしてくれた。片手間にといわんばかりに室長らを拘束している蛇もあっさりと斬り捨てる。

 自由になった3人の元へ駆け寄って、安否を確認した。


「皆さん大丈夫ですか?」


 私の問いに室長と宮さんは大丈夫だと言ってくれるが、佐久間さんの様子がどうにもおかしい。

 泣く寸前の顔で私を見ていた。


「佐久間さん?」

「庸子さんが大変だったというのに……役に立たなくてすみません……」


 その手にあるひしゃげた木刀を見て、その気持ちが痛い程分かると佐久間さんの手を取った。

 私もさっき高山さんを失ったのだ。

 2人で相棒の死を嘆き慰め合っていると、肩に誰かの手が置かれる。

 その手に振り返れば、赤い瞳を細めて私を見るブラック様。肩から離れた手は室長を指差した。


「え?」

「―――悪いが、俺にのんびりしている暇は無いんだ」


 そしてブラック様は魔王に向かっていったのだった。


「ブラックさ……!」


 言うが早いか、長い剣に真っ赤に燃える炎が纏わり、その大きさは段々と増していく。

 そして炎を纏う剣を振りかぶりながら宙にいる魔王の目の前に飛び上がると、そのまま振り下ろした。


【ちっ】


 辺りを覆う炎に、流石の魔王もマントを翻して回避を計る。

 しかしブラック様はそれを許さず、前に周り込んで横に一凪ぎ。それによって起きた風が遠い私の所までやってきて髪を揺らした。


 ―――凄い!


 魔王に対してひけを取らない、初めて目にしたブラック様の猛攻に、私は口を開けて見ていたのだった。


「……凄いですね……流石ブラック様」

「ぶ……ブラック、様……っ!?」


 思わず零れ出てしまった感嘆の言葉に、室長の手から棒きれがポトリと落ちた。ようやく耳が痛くなったのだろう。


「おい庸子。ぼさっとしている場合じゃねぇぜ。折角あいつが時間稼いでくれてるんだ、何かいい方法探さねぇと」

「それはそうなんですけど。今までの相手と違って魔法も体術も効かないんです。そうなるとやっぱり―――」


 ブラック様だって忙しいのだろう。

 あんなに素敵なのだ、彼女の1人や2人はべらせてクリスマスを過ごすに決まっている。素敵。

 私の救済になど時間を割いている場合では無い筈。



 それに。

 何より私が魔王を倒したいのだ。



「室長」

「む……!? わ、私は昔から運動はからっきしでな……! すまないが、ヨーコ君の役には立てな―――」


 無理無理と勘違いをして手を振っている室長の腕を掴み、ちょっとそこらの木陰で魔力を搾り取るコトの合意を求めようと見上げる。

 しかし焦る余り強く引っ張り過ぎたのか、勢い余って傾いてくる室長の顔が目の前に迫ってきた。


 そして唇にぶつかる柔らかい感触。



「……」

「……」



 それは間違いなく室長の唇だった。




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