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最終話 俺達がお前らに、野球の面白さってやつを教えてやる

 高校教師になって、4年の月日が流れた。


 俺はもう、30歳だ。

 25歳で日本に帰ってきて、教員採用試験を受験。

 翌年から採用されたからな。




 人にものを教えるって、本当に難しい。

 チートなスキルを持っていても、関係ない。

 毎日試行錯誤の繰り返し。

 なかなか上手くは行かない。


 新任教師だった頃の(とよ)(やま)(かん)()先生の方が、今の俺よりずっと立派に先生してたと思う。


 あ、もう豊山じゃなくて、()()(がわ)()甘奈先生だった。

 姓が変わるのって、なかなか慣れないよな。


 俺も友人からは、いまだに(はっ)(とり)って呼ばれることが多い。

 優子と結婚して(ひじり)(しのぶ)になってから、もう5年経ってるんだけどな。


 そう。

 俺は婿(むこ)養子として聖家に入った。


 優子は1人娘だからな。


 こういう時、次男は身軽でいい。

 服部家のことは、兄さんに丸投げだ。




 現在、優子は妊娠中。


 なのに平気で、スポーツ用品メーカー社長としての仕事をこなしている。


 4回目の妊娠ともなると、慣れたもんだ。

 今回も、出産ギリギリまで働く気だろう。


 ちなみに4人目の子供じゃない。

 3回目で双子を授かったから、もう5人目だ。


 なのに優子は、まだまだ産むつもりらしい。


「お前まさか、家族で野球チーム作るつもりなんじゃないだろうな?」


 って尋ねたら、


「アメフトチームでもいいのよ」


 って返された。


 アメフトはサッカーと同じ11人。

 普通は攻撃と守備でまるっとメンバーを入れ替えるから、22人必要。


 無理だ。

 体力が持たない。


 優子のじゃなくて、俺の体力が。

 相変わらず、夜の聖女様は底なしだし。


 【回復魔法(ヒール)】があるとはいってもなぁ……。




 夫として、父親として、教師として奮闘する毎日が続く。


 異世界で冒険していた頃や、プロ野球選手をやっていた頃よりハードかもしれない。


 草野球で遊ぶ暇もないぜ。


 世界一決定戦(WBC)やオリンピックの時は、お声がかかったりもした。

 高校教師が日本代表(侍ジャパン)入りなんて、前代未聞過ぎる。


 学校や県は参加できるように調整すると言ってくれたけど、俺は辞退した。


 生徒達に、迷惑かかっちゃいそうだったからな。


 子育てで、めっちゃ忙しいし。

 ベビーシッターさんやお手伝いさんを、雇っているにもかかわらずだ。


 国際試合は()()(がわ)()(すめらぎ)(てっ)(しん)さん、()()(ぜん)()さんに、俺の分まで頑張ってもらった。




 忙しさのあまり、家族や職場関係以外との交流は減っていく。


 東大野球部のみんな。


 日本プロ野球関係者。


 メジャーリーグの人達。


 濃密過ぎる3年間を共に過ごした、(くま)(かど)高校野球部の仲間達ですら疎遠になりつつある。


 しょうがないな。

 俺だけじゃなく、みんな忙しい年齢だもんな。




 いつの間にか、長い月日が経ってしまった。


 だけど高校野球に燃えた3年間は、昨日のことみたいに思い出せる。


 目を閉じれば今でも、グラウンドの景色が鮮やかに蘇る。


 大歓声と甲子園のサイレンが聞こえる。


 熱い夏の日差しを感じる。




「聖センセ~。な~に思い出にひたっちゃってるんスか?」


 俺は現実に引き戻された。


 ここは熊門高校のグラウンド。


 俺達の活躍によって野球部の地位は高まり、設備は良くなった。


 だけど相変わらず、広くはない。




 思い出の世界にジャンプしていた俺を、野球部員達が取り囲んでいた。


 こいつらは俺達の後輩。

 熊門高校の野球部員達だ。


 監督兼顧問は俺、聖忍。




「しっかりしてくださいよ~。子育てで、疲れてるんじゃないですか~?」


「今日の練習試合は、寝てていいっスよ。俺達だけで、サクッと勝ってみせるんで」


「『元メジャーリーガーの聖忍、監督なのにベンチで居眠り』とか、ちょっとしたスキャンダルですね。ウケる~」


 やたらイジってくるけど、みんな可愛い俺の生徒達だ。


 気のいい奴らだし、野球が好きなのも伝わってくる。


 今の熊門は、俺達が在籍していた頃のような常勝軍団じゃない。


 だけど公立の強豪として、周辺校からは一目置かれている。


 もう弱小じゃない。




「あ~、悪いな。寝不足で、ボーッとしてた。今日の練習試合が楽しみ過ぎて、昨夜は眠れなかったんだよ」


「遠足前の小学生じゃあるまいし!」


 部員一同がドッと笑う。


 練習試合が楽しみだったのは本当だ。

 なんせ今日は、久しぶりにあいつと会えるんだからな。




「みんな! 試合相手が来るまでに、確認しておくぞ? 今日の練習試合、相手チームのことについては一切口外禁止。破った奴は、魔神の呪いで酷い目に逢うから気を付けろ」


 お気楽モードだった部員達がどよめく。




「口外しちゃいけない対戦相手って、どんな連中なんですか? まさかプロ野球選手とか? プロアマ規定違反になるから、秘密なんですか?」


「いや、プロじゃない。あっちにはまだ、プロが存在しないからな」


 部員全員が、頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。


 説明するより、実際に相手を見てもらった方が早い。




「おっ、ちょうど来たみたいだぜ」


 俺の台詞に、部員達はキョロキョロと辺りを見渡す。


 バスや徒歩で来たんだと思ったんだろう。


 今回の対戦相手は、そういう交通手段じゃない。




 グラウンド上空に、青い稲妻が(ほとばし)る。


 続いて空中に、ポッカリと穴が空いた。


 中から次々と、人影が飛び出してくる。


 ウチの野球部員達と、同じ年頃の若者達だ。


 ただし、地球人とは明らかに違う身体的特長を持った奴も混ざっている。


 長い尖った耳を持つエルフ。


 ずんぐりむっくり筋肉質体型に、(ひげ)モジャのドワーフ。


 尻尾を持ち、頭上にケモ耳を生やした獣人。

 

 全員お揃いの格好だ。

 野球のユニフォームだけど、地球のものとは少し違う。

 華やかな()(しゅう)などで、ファンタジックな印象に仕上がっている。




 最後に、よく知った男が空間の穴から出てきた。




「陛下自ら監督として、チームを率いてくるとは……。国王という仕事は、意外とヒマなのですね」


「今日のために、無理矢理スケジュールを調整したのですよ。大臣が泣いていました。今日はよろしくお願いしますね、聖先生」




 互いにお行儀よく挨拶した後、力いっぱいハイタッチを交わした。




「久しぶりだな! (けん)(せい)!」


「忍も元気そうだね! 会えて嬉しいよ!」




 もう3年ぶりぐらいか?


 魔神サキの力で、地球と異世界を自由に行き来できるようにはなった。


 だけどお互い忙しくて、なかなか会えない日々が続いていたんだ。


 優子とプリメーラ姫が開発した異世界通信魔導具で、近況報告はしていたんだけど。




「今日はまた、バラエティ豊かなメンバーを連れてきたもんだな。選手は種族も性別もバラバラ。貴族っぽいのも、混ざってるみたいだけど?」


「ああ。年齢が高校生ぐらいってこと以外、無制限で集めたよ。純粋に、野球の上手さだけで選抜してね。彼らがウィリアム王国代表……いや、異世界アラミレスの代表だ」


「あっ、汚ねえ。お気楽な練習試合に、U-18日本代表を連れてくるような真似しやがって。なりふり構わず、勝ちに来てるな?」


「なりふり構わず勝ちに行くのは、忍の専売特許じゃないんだよ」


 憲正の眼鏡が光る。

 やっぱこいつ、性格悪いわ。

 俺と同じぐらい。


 今日は腹黒監督対決だな。




 ケンセイ陛下と異世界選抜チームを見て、熊門高校野球部一同はビビっていた。


 これはいかんな。


 こんな精神状態じゃ、勝てる試合にも勝てなくなってしまう。




「いいかみんな、ビビるなよ。相手は異世界から来たファンタジー種族だけど、同じ野球選手だ。日本の高校野球の強さを見せつけてやれ」


 


 俺の言葉を聞いて、部員達の目に光が戻った。


 そうさ。

 相手はスキルやレベルの力で身体能力が強化されているけど、それだけだ。


 技術や戦術が洗練されている日本の高校野球で、異世界ファンタジー野球を(じゅう)(りん)してやる。




 俺は異世界選抜チームの前に立ち、片手で金属バットをクルクルと回転させた。


 そのままビシリと、ヘッドを憲正達に向ける。






「今日は俺達がお前らに、野球の面白さってやつを教えてやる」







【異世界帰りの勇者パーティによる高校野球蹂躙劇】




―――完―――




最後までお読みいただき、ありがとうございます。

忍達の物語は、これで完結です。


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