表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/58

第28話 アスリートなら、スポンサーに自らの価値を示せ

「その問いには、なんと答えていいのやら……。半分は正解、かな?」




 (かな)(おい)氏は、眼鏡を指で押し上げる。


 特に強そうには見えないけど、言い表しようのない凄みを感じるぜ。


 やはり異世界と、関係がある人間なんだ。


 こないだ魔王竜(デイモスドラゴン)を召喚した、青いローブの少女。

 あいつの仲間かもしれない。




「きみたちはさっき、『同類』だと言ったな? それはつまり……」


「ええ、そうです。あなたと同じように、異世界へと召喚されました」


 同じ異世界関係者に、黙っていても仕方ない。


 俺は構えを解かないまま、自分達のいきさつを語り始めた。


 剣と魔法の異世界アラミレスに召喚され、3年間冒険したこと。


 魔神サキを討伐したこと。


 その後は地球に戻ってきて、普通の高校生として生活していること。




「異世界アラミレスか……。そんな名前の異世界も、あるんだな」


「金生さんは、違う異世界だったと?」


「ああ、ナロハイファンという。それに俺は、召喚されようとして未遂に終わった」


「えっ? それではなぜ、全身から異世界の匂いがするんですか?」


「たぶん、【女神の加護】の匂いだな。きみたちのスキルやレベルと同じようなものだ。これを魂に仕込まれて、魔王討伐の鉄砲玉として異世界に派遣される予定だった。魔王が現地の勇者に倒されて、異世界派遣は中止になったが」


「金生さんも、何か超人的な能力を?」


「俺の場合は、『財力チート』ってところだな」


 なるほど。

 このお金持ちっぷりは、女神様の力によるものか。




 アラミレスの関係者じゃないなら、敵である可能性は低いな。


 俺と優子は、武器を【アイテムストレージ】に戻した。




「失礼しました。魔神軍の生き残りが、関与している可能性も捨てきれなかったので」


「構わない。警戒するのは当然だろう。しかし、きみたちも大変だったな。高校1年生で、魔神討伐なんて重責を背負わされるとは。異世界関係者はもう少し考えて、地球人を召喚して欲しいものだ」


「ご……ごめんなさい」


 いきなり、部屋の隅にいたメイドさんが謝った。


 紫色の髪と瞳を持つ、神秘的な雰囲気のメイドさんだ。




「金生様。まだ根に持っているんですか? お金持ちになってハッピーな人生を送れているんだから、結果オーライじゃないですか。加護を授けた私に、もっと感謝してもいいと思います」


 ええっ!?

 金生さんに加護を授けたってことは、このメイドさんって女神様!?


 全然気づかなかったぞ?


 ああ。

 注意深く観察すると、人間じゃない力を感じる。

 魔神サキに近いけど、禍々しさは感じない力だ。




「俺は独り身のオッサンだったからいいですけど、この子達はまだ若い。親元から連れ去り、異世界で過酷な魔神討伐を強制するなどもっての外です」


 俺達のことを心配してくれるなんて、このオッサンはいい人だな。


 だけど……。




「金生さん。いきなり召喚されて、確かに戸惑いはしました。だけど俺達は自分の意思で、魔神討伐を決意したんです」


 これだけは言っとかないとな。


「それに俺達を召喚したプリメーラ姫は、自分も魔神討伐の旅に同行してくれました。危険を異界から来た勇者に丸投げして、高みの見物を決め込んでいたわけじゃない」


 あっ。

 メイド女神さんが、胸になんかグサグサ刺さったリアクションをしている。


 この女神様は、金生さんに魔王討伐を丸投げする気満々だったんだな。




「ふっ……。きみたちは、大人だな。俺が高校1年生だった頃は、自分の夢しか見えていないガキだったよ」


「異世界で3年間過ごしたんで、精神年齢は18歳だったりするんですよ」


「なるほどな。……そういえばきみたちは、何の用件で俺を訪ねてきたのかな?」


「……すっかり忘れていました」




 俺と優子は、(くま)(かど)高校野球部が置かれている現状を説明した。


 グラウンドを使える日が週3回しかなく、練習が足りていないこと。


 使えても狭く、(けん)(せい)()()(がわ)()が場外弾を連発して近所迷惑になってしまうこと。


 だから金生さんの私設ドーム球場を、使わせて欲しいということ。




「事情はわかった。甲子園か……。夢を追う若者は、応援したい。しかしドーム球場を稼働させるには、莫大なお金がかかる。照明や空調設備の電気代。グラウンドの整備費。稼働させるスタッフの人件費。タダで使わせるわけには、いかないな」


 もちろん、わかっている。

 金生さんにとっては(はした)(がね)だとしても、なんの対価もなく使わせてくれってのは虫が良すぎるだろう。


 俺達が対価として用意しているのは、異世界から持ち帰った不思議アイテムの数々だ。


 【鑑定魔法】と同じ効果を発揮できる、【スカウティングオーブ】。


 地面から浮かび上がり、滑るように飛行できる【シルフボード】。


 装着者の成長を著しく促進する、【魂育の首飾り】。




 これらのファンタジーアイテムは、地球でも問題なく作動することを確認している。


 最初は地球上に存在しない宝石とかだけ、渡すつもりだった。

 だけど相手が異世界のことを知ってるなら、ビックリ魔導具とかまで見せてもいい。


 お金だけでは手に入らない、珍しいアイテム。

 所有してみたいはずだ。




 【アイテムストレージ】からこれらを取り出そうとした時、金生さんは意外なことを言い出した。




「お金のかかるドーム球場をきみたちに使わせるということは、資金援助(スポンサード)することと同意だ。アスリートが企業などからスポンサードを受けるためには、通常どうする?」


「それは……。大会に出て、結果を残したりだとか……」


「そうだ。だがきみたちには、もう夏の県大会までに出られる大会がない。他の方法で、スポンサードを受けるに相応しい選手だと示してもらわないといけない」




 背後から、風切り音が聞こえた。


 振り返ると遠藤先輩が、金属バットで素振りをしている。




(はっ)(とり)くん。きみはエースピッチャーだったな? 我が家の身体能力(フィジカル)チートなメイドをうち取れたら、全面的なバックアップを約束しよう」






○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●






 ロールスロイスに乗せられて、屋敷と同じ敷地内にある私設ドーム球場へとやってきた俺達。


 ……デカい。


 昔、福岡ドームまでプロ野球の試合を観にいったことがある。


 あれと変わらない規模だ。


 建設に、何億円使ったんだ?




 マウンドに立ち、周囲を見渡す。


 青々とした人工芝。

 今は無人だけど、圧倒的収容数を誇る観客席。

 ギラギラと輝く照明。


 俺はプロ野球選手志望じゃない。

 だけど華やかな場所でプレーすることに、憧れがないわけでもない。


 ドーム球場は興奮する。






「服部くん。優子ちゃん。制服のままじゃ投げにくいだろう? 着替えるなら、ロッカールームに案内しよう。トレーニングウェアも貸し出すぞ」


「いえ、お構いなく。俺達はこんな方法で、着替えられますんで」




 金生さんの眼前で、【装備換装魔法】を発動。




 俺と優子は一瞬で、熊門高校野球部のユニフォームへと衣装チェンジした。






お読みくださり、ありがとうございます。

もし本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけると執筆の励みになります。

広告下のフォームを、ポチっとするだけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓他にはこのような作品を書いています↓

本作と同じ世界が舞台。お金の力で無双します。ヒロインの遠藤夢花は、忍達の先輩です
【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

格闘と怪力で、巨大ドラゴンをフルボッコにする聖女の恋愛と冒険譚。本作に出てくるミラディースは、この作品の女神です
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

近未来異世界で繰り広げられる、異世界転生したレーサーの成り上がり物語
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

ファンタジー異世界の戦場で、ロボヲタが無双する
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~
― 新着の感想 ―
[一言] 一応ツッコミで言いますけど、女神なんでそこに居るの、なんでメイドになっているの。
[良い点] これは燃えますね! どっちも応援したいものです!
[一言] 流石の夢花ちゃんでも、異世界組に本気を出されたら勝てないのでは……?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ