婚約破棄された悪役令嬢は、お城を爆裂魔法で壊滅することでざまあします
「あーあ、最悪。……私には読書を楽しむ時間もないのね」
侍女に対して吐き捨てるように言った私は、そのまま席を立つ。真っ赤な絨毯を踏みしめ、悪魔のようにニヤリと笑った。
「今日は黒いドレスにしてよかったわ、汚れが目立たないし」
侍女のラルタの唾を飲み込む音が、空気をさらに重くする。
数歩歩いたところで、跪いている彼女の前に立ち止まった。その青い髪を触ると指に絡める。
「あいかわらず、柔らかくていい髪質ね」
「あっ、お褒めにいただき……」
私は少しいらっとした。
「褒めてないんだけど!」
「あっ、そ、その」
「いいわ! 早く行かないといけないみたいだから」
怒りのままに一歩踏み出すと、右にある姿見が目に入る。
田舎娘みたいな茶色い髪と茶色い瞳、そして顔。我ながら、侯爵令嬢と思えるのはその豪華なドレスだけ……あっ、靴もそうだわ。
そんなこと言った連中を思い出し、がぜんやる気が湧いてきた。
「さて、何して遊ぼうかしら……」
ふと、自分の指先に目をやった。
少し爪が割れちゃったじゃない――怒りの感情がさらに高まり限界を超える。
私はそのまま、屋敷の外へと向かったのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★
第一王子ラターナが怒りの声をあげた。
「君との婚約を破棄する!」
私と彼との正式な婚約後、初めてのパーティーで言われたのがこれ。
な、なんなの――そう思った瞬間、殿下の隣で意味深げに微笑む女がいた。
男爵令嬢クリスティーナ。
ああ、こいつか。
このバカ王子を騙した犯人は、分かりやすく目の前にいた。
金髪碧眼で国一番の美人であることだけを武器に、殿下にすり寄った泥棒猫。まあ、殿下としても私のような田舎臭い女より、美女を横に置いておきたいだろうと、ずっと見逃してあげていた。
それが婚約者の私が余裕を見せるところだと、ずっと我慢してきたのが仇になったみたい。
「ふっ、驚いて声もでないか!」
「ねえ、ラターナ殿下。私、あの人こわーい」
殿下の腕に胸を押しつけ、横で甘える猫のように言うクリスティーナ。彼女は殿下に見えないことをいいことに、私に向かって舌を出した。
その姿を見て、怒りの感情を通り越して呆れた私は、「ふう」と深いため息が漏れる。
「ああ、もうやんなっちゃったわ。わたくし、どうもおままごとは苦手で」
彼にそう言い放つと、婚約者の証――銀のティアラを無造作に彼女の頭へと乗せた。
「あげるわ。もういらないし」
私は呆けた彼女と殿下の横を、そのまま颯爽と通り過ぎる。
「なあ、俺の言ったとおりだろ。あの女なんて怖くないさ」
「すごーい、殿下!」
背後から聞こえる声に、私は「どう滅茶苦茶にしてやろうかしら」とつぶやく。
そして、こみ上げてくる笑いを、抑えるのに必死だった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「あーあ、簡単だったわね。はーい、これが王都の最後」
私は右手にもった銀のティアラを、背後に向かって放り投げる。中身はどっか吹っ飛んだのかしら、まあぜんぜん興味ないけど。
「お嬢様、魔法の威力を少しは加減していただかないと……」
ついてきたラルタの眉が少しあがる。
私の悪い癖ね、王妃教育の時にも「その表情ははしたない」と注意されたっけ――そう思い出すと、私は満面の笑みを浮かべてラルタの目を見つめた。
「ごめんなさいね」
「い、いえ。お城の形は残っていますので、問題はないのですが」
「本当にごめんなさい。王宮を使い物にならなくしちゃったわね」
私の後ろに広がる一面の焼け野原。それは私の爆裂魔法を使用した後の城の残骸。
燃え盛るバルコニーで、大声で騒いでいた王子とあの女。その姿を見て、怒り任せに最大威力でぶっぱなしたから……少しは反省しないとね。
「お嬢様、王位はどなたに」
「そうね。私がなってもいいけど……うーん面倒だから貴方にあげるわ」
「えっ、あの」
自分には無理といった、驚愕の表情で私を見るラルタ。
青い髪、金色の瞳、整った顔だち。貴方のほうがよっぽど王族らしいわ。
「じゃ、王冠は王様とともに逃げちゃったから、あの銀のティアラを探して被っときなさい」
「あ、あの、私では」
「いいの、いいの。優秀な部下はつけるから、あなたは『はい』とだけ言っていればいいのよ」
「は、はい」
ラルタの顔が死人のように青ざめているけれど、きっと感動しているのね。
その素直な返事に、私は思わず微笑んだ。
「そう、その返事。いい子ね」
天使のような微笑みを向けたはずなのに、ガタガタと震える彼女。
もう、まるで私が悪者じゃない……そう思って振り返った。
「うーん、仕方ないか。王軍も三日で壊滅させちゃったし」
王国のくせにあんなに弱いのが悪いのよ。
焼け野原となった王宮を見て、呆れ果てた。
「ふぁああ、もう寝るわ。体力使うと眠くなるわね」
「はい、お嬢様。ベッドの支度を」
「いいわ。王様にそんなことさせられないもの」
「えっ」
彼女の驚いた顔が妙に面白い。
「ハハハ、何か甘いものでも食べにいこうかしら……お店は残しておいたし」
よかったわ。
そう思った私は、今にもスキップしそうな足取りで、お気に入りのスイーツ店へと歩き出したのだった。
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