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虫食い姫は隣国の王太子殿下から逃れたい。  作者: 幽八花あかね
隣国の王太子殿下から逃れたい。2章

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32. 鈴と心臓と木の葉とどんぐり 「……ふふっ」「おい」



 就寝方法の話し合いを終えた後、エリエノールは夏休みの課題に取り組んだり、王宮書庫室で調べ物をしたりした。

 

 夕食後。サイードの部屋には、エリエノールとサイードとアベルがいた。三人は各々ソファや椅子に座り、机をぐるりと囲んでいる。


「お時間を頂いてしまって、すみません。確認しておきたいことがありまして」

「ああ、分かっている。血の匂いのことだろう?」

「はい、そうです。ちなみに……今日は、いかがでしたか?」

「今日は特に何も起きていない。大丈夫だ」


 サイードの答えを聞いて、エリエノールはひとまずほっと胸を撫で下ろす。


「それなら良かったです。それで、この件はこれからどう扱いましょう?」


 現在この部屋の中には三人しかいない。学校ではこの三人にレティシアを加えた四人で調べ物をしていて、他の人には話していなかった。


 問題は、この夏季休暇中はどうするかということだ。


「やはり、迂闊に明かすのは危険だと思う。下手に広めれば、この事実を知った人まで巻き込んでしまう可能性もあるからな」

「そうなると、今まで通り四人で解決策を探して、他の人からの情報はそれとなく聞いて集めるという形が良いのでしょうかね」

「ああ、僕はそう思う。アベルは?」

「わたしも同意見です」

「では、そういうことで決まりだな」


 結論、現状維持。あっさりと決まってしまった。


「……それと。エリエノール、成人祭の日のことを覚えているか?」

「どのことですか?」

「君が怪我を負わされた件だ」

「ああ、覚えてますよ」

「結局犯人は目星も付いていないようだが……あの件と血の匂いの件は、関連していると思うか?」

「うーん……どうなんでしょう。あの犯人は闇属性適性だったような気がするんですけど、血の匂いの方は聖属性っぽいんですよね。でもどっちも強そうです。共犯とかいう可能性もあるかなぁって」

「……なるほどな」


 まだまだ解決の兆しが見えないこの問題。

 いったいどうなることだろうか。


「そういえば、何日かしたらレティシアも城に来るぞ」

「! 本当ですか?!」


 エリエノールはぱっと顔を上げ、瞳をキラリと輝かせた。


「ああ。めちゃくちゃ嬉しそうだな」

「はいっ! 嬉しいです」

「……可愛いな」

「はい、レティシア様は可愛いです」

「違くないが、違う」

「あははっ」


 サイードが呆れたようにため息をつき、アベルが肩を震わせて笑う。よく分からなかったが、エリエノールもなんとなく笑った。





 そして夜。

 お風呂から上がったエリエノールはイヴェットとともに、みんなで寝ることになる大部屋へと向かった。


 イヴェットとマチルダは、しばらくは部屋の前で騎士と一緒に見張りをしてくれるらしい。「若い子たちの青春を邪魔してはいけないですから」と言っていた。


「お邪魔しまーす……」


 そっと小さくドアを開け、様子を窺いながら中へと入る。

 

(ミクさんとダルセル様が、ふたりきりだ……)


 まだ寝る時間には早いからか、男女を区切る衝立は端の方に寄せられていた。ミクとダルセルは布団の上にカードを広げ、何かをやっている。


(占い学の何かかな?)


 ミクの選択科目は「占い学」と「神学」だ。神官見習いのダルセルも一年生のときは同じ科目を取っていたはずだから、夏休みの課題を手伝ってやっているのかもしれない。


(課題、けっこう多いよなぁ……)


 エリエノールだけ七科目他の人より多い影響は、試験だけでなく長期休暇中の課題にまで現れた。レポートだとか実験だとか、まあ各科目いろいろと出されている。


「やった、わたしの勝ち! ダルセル弱いね〜」

「はい、負けました」


(……ん? 勝ち負け?)


 首を傾げながら、改めてふたりの手元にあるカードを見てみる。


(あっ、遊戯用カードだ)


 遊戯用カードは、四種類各十三枚の、合計五十二枚のカードのことである。鈴、心臓、木の葉、どんぐりの四種類の組があり、各組には、一から十の数字、従者、王后、王の十三枚のカードがある。


 ミクのいた世界もまるっきり同じカードがあり、あちらではそれを〝トランプ〟と呼ぶと言う。


 ふたりが先程までやっていたのは、どうやら〝孤独のお后様〟のようだった。

 王后カードを一枚抜いた五十一枚のカードを使い、同じ絵柄や数字のカードをペアにして捨てていき、最後に手元にひとりぼっちの王后カードが残ったら負けというルールである。


「あっれ、エリエノール来てたんだ?」

「はい、先程」

「エリエノールもやる?」

「はい、やります――あっ、こんばんは。殿下、アベル様」


 ドアが開き、サイードとアベルがやってきた。サイードは一瞬驚いたような顔をした後、「あっ、ああ」と硬い声で返してきた。


「サイード様っ、ようこそいらっしゃいました! カードゲームしますか? ちなみにエリエノールはやるそうです」

「……やる」

「じゃ、今度は五人ですね! 何しますー?」

「なんかあっさりわたしスルーされてるんですけど、強制参加ってことですかね?」

「え、アベルやらんの?」

「やりますけど?」

「でしょー?」


 ミクはにこにこと話しながら、手際よくカードを切っている。さすが、コミュニケーション能力が高い。


「……〝結び〟はいかがですか?」


 ぽつりと提案したのはエリエノールである。大して難しいルールではなく、五人でもやりやすいゲームだ。

 こういうゲームの経験がないエリエノールでも、なんとなくできそうだと思うものだった。


「あー、〝結び〟ね。良いんじゃん? 他の意見ありますか?」

「僕はそれで良いと思うぞ」

「同じく」

「同じく」

「じゃ、〝結び〟で決定ね」


 ミクが切り終えたカードを、布団の上にばらばらと並べていく。みんなで手分けしながら、カードを広げた。


〝結び〟は、順番に二枚ずつカードをめくっていき、数字や絵柄のペアがそろったら自分の手持ちに加えてもう一度二枚めくり、最後に一番多くのカードを持っていた人が勝ちというゲームだ。


 一から十の数字カードは同じ数字同士がペア、従者は同じ色の記号同士――赤色の鈴と心臓、または黒色の木の葉とどんぐり――がペア。王后と王は、同じ記号のふたりを結ばせてペアにする。


「数字は同色縛りあり? なし?」

「どちらでも良いですが……」

「じゃ、どっちかに手上げて。ありがいい人ー?」


 サイードとアベルが手を上げた。


「じゃ、わたしもあり派なのでありで。はい、じゃんけんして勝った人から時計回りでやりましょう!」


 じゃんけんの結果サイードが勝ち、サイード、エリエノール、ミク、ダルセル、アベルの順でカードをめくることになった。





「殿下、早く選んでくださいよー」

「いま思い出そうとしてるんだ。ちょっと待て」

「もう二分も待ってますー」

「あとちょっとだから」

 

 ゲームがだいぶ進んだ頃になると、サイードが面倒くさいやつになった。さっさと取れば良いのに、どうにかカードを手にしようとうんうんと唸っている。


 ちなみに今はエリエノールが四枚、サイードが二枚。他のメンバーはまだ取れていない。


(あれが心臓の八だから、殿下が探しているのは鈴の八。すぐそこにあるのに……)


 もういっそ何処にあるか言ってしまいたい衝動に駆られたが、これはそういうことをしたら楽しくなくなってしまうゲームだろう。お利口さんなエリエノールは、ぐっと口を噤んだ。


「これか!」


 サイードがようやく、一枚のカードをめくる。


 それは、鈴の六だった。


「……ふふっ」

「おい、エリエノール。いま笑ったな?」

「いえ、別に。じゃあ、わたくしの番ですね」


 サイードが先程めくった鈴の六の、右斜め上。エリエノールはそのカードをめくる。


「!」

「赤の八は頂きますね」


 にっこり笑って、今度は向こうの心臓の八をめくる。その前にめくったのは鈴の八だったから、無事にカード獲得だ。

 悔しそうなサイードの目の前で、エリエノールはさらにもう二枚カードを手に入れた。





 そして、最終的に。


「エリエノール。君の記憶力は化け物だな」

「お褒めにあずかり光栄です」

「くそっ……次は負けないからな」


 エリエノール二十八枚、サイード十六枚、ダルセル四枚、ミク二枚、アベル二枚という結果になった。サイードはめちゃくちゃ悔しがっている。


「まあ、他のゲームなら勝てるかもしれませんから。頑張ってください?」

「ああ、そうだな」



 次に〝嘘だ!〟というゲームをやったら、エリエノールは大負けし、サイードはそれを笑って馬鹿にしてきた。


(殿下だって、優勝はしてないくせに……)


 ちなみに、〝嘘だ!〟の優勝はアベルである。



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