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虫食い姫は隣国の王太子殿下から逃れたい。  作者: 幽八花あかね
隣国の王太子殿下から逃れたい。1章

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30. 試験勉強の日々 (どうしよう。可愛い……)



「終わったよ」


「――はい。ええ、よくできています。ここまでが自然エネルギーの収集をするための魔法陣です。このように自然エネルギーの収集をする部分を〝収集部〟と呼び、これは収集部の〝第一形態〟にあたります。収集部は発動する魔法の威力に応じて形態を変える必要があり、第一形態は上位の形態の一部にもなる最も基本的なものです」


「すげぇ、まるで教科書読んでるみたいだ。さすがエリエノール、記憶力良いね」


 そう言われても、今まで人と記憶力を比べたことがないので分からないが。……本当にこんな教え方で大丈夫なのだろうか。


「そうなのでしょうか……? えっと、ここまでは大丈夫ですか? 分かりますか?」


「うん。大丈夫。次は……属性と単語ひとつの部分だよな? 省略詠唱みたいなの」


「そうです。次は〝詠唱部〟で、普段わたしたちが魔法を使うときの詠唱の代わりになる部分です。と言っても、わたくし自身は魔法を使えたことはありませんが。教科書にはそうなっていましたね。今回範囲になっているものは単語ひとつですが、一応言っておくと難しいものだと複数の単語があるものもあります」


「へぇ。で、今回はとりあえず水の象徴を周りに書いて円で囲えばいいんだよな?」

「そうです。できますか?」

「おう」


 エリエノールはジャンの様子を見守りつつ、今度は図書館で借りた本を読み始めた。分かればあとは書くだけなので、なにもずっと観察している必要はない。

 単語の紙はもう作り終えたし、他に何かすることが思いつかなかった。


 エリエノールは自習室にも大談話室にもほとんど顔を出さないが、図書館くらいはたまに行っている。

 サージュスルス王国のランシアン侯爵邸もそれなりに本があったが、さすが大国の王都にある王立学園となれば蔵書量が違う。


 まだ読んだことがない本がたくさんあるのでそれを読むために行っているが、目当ての本を借りたらすぐに寮の自室に撤退していたので司書さん以外とは全然関わっていない。


「象徴は描けた。次が古代魔法語の……なんだっけ?」

「今回書くのは{生成}です。綴りは分かりますか?」

「分かんないけど、綴りってことはあれって文字があるのか?」


「文字がある……というか、古代魔法文字で綴られたものが古代魔法語ですよね。現在使われている文字と形が違いますが、綴りは似ているところもあります。七十八種類の文字がありますが、その――」


「あー、うん! あれね。何か同じ形が出てくるなと思ったら、あれは文字だったのか。へぇ、うん。あはは」


(なんか、遮られた??)


 思わず話しそうになったことは古代魔法文字のことだから、試験のために詳しく覚える必要はないので別に聞かれなくてもいいのだが、ジャンの慌てたような反応が少し気になった。


 まさか、今まで古代魔法語が古代魔法文字で書かれていることを知らなかったのだろうか。もしそうなら驚きだ。


「えっと……古代魔法文字から教えた方が良かったですか?」

「いや、大丈夫。{生成}の綴りを教えてください」

「何故突然丁寧語で……。{生成}の綴りはこうですよ」

「あー、これね。ありがとう。同じように書けばいいんですよね?」

「……はい」


 なぜ中途半端に丁寧語を織り交ぜてくるのだろうと疑問に思いつつ、エリエノールは本を片手にジャンを見守った。


 そうして彼を見ていると不意に、前にエレーヌがジャンのことを〝きさくな馬鹿〟と言っていたなということを思い出した。別に今ジャンのことを馬鹿だと思ってしまったからではない……はず。


(古代魔術のみんなと出会って、もう一ヶ月か……)


 そう思うと、なんだか感慨深い。


「書き終わった。次が最後の部分のあのごちゃごちゃだよね?」


「〝反応部〟ですね。魔法によって何がどのように変わるのかということを説明するような部分です。今回の魔法陣だと{生成する}{水}{を}{水素}{と}{酸素}{から}の七単語で構成されます。まずは{生成する}ですが、これは末尾が変形する以外は{生成}と同じです。書けますか?」


「……こう?」

「そう、正解です! では――」



 こうして水の魔法陣を描きながら構成を説明して、一日目の勉強会は終わった。

 勉強会は、楽しかった。だが、本当にこれで大丈夫だろうか。少し不安だった。





 勉強会二日目。昨日と同じく第一魔法自習室で、エリエノールとジャンは勉強を始めた。


「何これ?」

「今回の試験範囲の古代魔法語百語を一枚ずつ紙に書いたものです。……さあ、勉強を始めますよ」

「はい、よろしくお願いします。エリエノール先生」

「……」


 もういちいち言うのも面倒くさいので、この勉強会をしている間は「先生」と呼ばれても気にしないようにしよう。エリエノールはそう思った。



「では、今日は〝燃える魔法陣〟を描きましょう。収集部第一形態、描けますか?」

「やってみる」

「はい、頑張ってください」


 エリエノールはまた本を読みながらジャンを見守った。


「――描けた。どう?」

「はい、完璧です! さすがです、ジャン様。やればできますね!」


 今日はひとりできちんと描けた。各属性の象徴の順番を覚えてくれたらしい。

 収集部はどの魔法陣を描くのにも必要なので、それが描けるようになったのは大きな進歩だ。


「うん、ありがと。次が火の象徴と{燃焼}だよな。……綴りが分かんないけど」

「{燃焼}は……これですね」


 エリエノールは机に置いてある紙から『燃焼』を探し、それをジャンに渡した。机の上の紙は今は現代語が表に見えるように置いてある。裏が古代魔法語で、これは{燃焼}だ。


「ありがとう。ていうか、エリエノールって本当に勉強しなくて大丈夫なの?」


「ええ、試験範囲の内容は全て頭に入っていますから。ジャン様は、他の科目は大丈夫なのですか?」


「他もやばいけど、今回は古代魔術頑張る。これだけは絶対及第点取る!」


 高等部の定期試験は、八十点以上が「優」、七十点以上が「良」、六十点以上が「可」である。ここまでが及第点だ。


 五十九点以下は「不可」で、全員追試。追試で六十点を下回るとまた「不可」で、六十点を取れない限り延々と追試が続く。


 最初の数回は普通に開催される追試だが、人数が少なくなると先生に申請しないと追試が開催されなくなる。

「不可」があるままでも学年は上がれるが、三年生の秋まで「不可」が残っている場合は魔導師試験を受けられず、卒業もできない。留年は二回までならできる。


 仮に全科目全試験で「不可」を取り続け追試でも及第点を取れなければ、最終的には百を超える追試が溜まっていることになるのだ。そうなると恐ろしい。


(できるだけ、『不可』は回避させてあげたい)


「はい、頑張りましょう! お役に立つかは分かりませんが、他の科目の要点まとめておきますね」


「え、そこまで迷惑かけられないよ。古代魔術で十分――」


「暇なので全然大丈夫です。一発で全て及第点を取れるかは分かりませんが、できるだけ早く全部及第点にしましょう。古代魔術は絶対に『良』以上は取らせます」


「ありがとう。頑張る。じゃあ、詠唱部描いてくよ」


「はい。頑張りましょう!」


 エリエノールはジャンの様子を見守りながら、今度は他科目の要点を新しいノートにまとめ始めた。


 今までは自分で勉強をしようとしたことはなかったが、みんなが試験勉強をしているなら自分も何か勉強らしいものをしてみたいなと思ったのだ。

 ルイズに聞くと、ノートまとめは女子生徒がよくやっている勉強方法らしい。


 満点を目指すなら細かいところも覚えなくてはならないが、及第点なら基本を押さえればいけるはず。どうにかして、ジャンに良い点数を取らせよう。


(よし、頑張ろう!)


 エリエノールの心は、珍しく燃えていた。




「詠唱部できたよ。次があの面倒くさい――反応部だよね?」


「そう、反応部です。では、ここで問題です。〝燃える魔法陣〟の反応部に描く術式は何でしょう。現代語でも良いので答えてみてください。あ、発動条件が最初に必要なので気をつけてくださいね」


「あー、発動条件ね。そんなのもあったっけ。授業でやったのは『後』『十』『秒』『から』『破く』『これ』『を』で、『発動条件』……だよな?」


「そうです! 順番も完璧です。では、燃焼させるのは……?」


「『燃焼する』『火』『これ』『を』『酸素』『反応する』『熱』……とかなんとか」


「そう! そうです! 術式の構成、覚えられました?」


 昨日の様子を見ると術式の単語の順番なんて全然分からないのかと思いきや、発動条件もその先もきちんと正解を答えられてしまったので驚いた。意外と飲み込みが早いのだろうか。


「昨日あの後ちょっと自分でも勉強してみた。発動条件はやってなかったけど、その後のところは詠唱部の名詞を動詞にしたやつと、属性の象徴じゃなくて名詞の単語……とか」


 ちょっと照れたように、勉強した内容を言ってくるジャン。

 

(どうしよう。可愛い……)


 昨日はまずいかと思っていたが、こうして自分で勉強してきてくれる心意気があるならエリエノールもやりやすい。

 そして頑張っている子は、可愛い。すごく応援したくなる。


「ご自分でも勉強してみたのですね。偉いです。こちらに、先程ジャン様がおっしゃった術式通りに紙を並べました。今見えているのは現代語ですが、ひっくり返せば古代魔法語が書いてあります。考えてみて分からなければ見てみて、魔法陣を完成させてみてください」


「了解、エリエノール先生。頑張ります!」

「はい、応援しています!」


 

 ――こうして〝燃える魔法陣〟は無事に描き終わり、その後〝そよ風の魔法陣〟を描いてから二日目の勉強会は終わった。


 三日目には古代魔法語を表にした紙を並べてそこから単語を選んで術式を作ってみたり、一日目にやった〝水を生成する魔法陣〟を何も見ずに描けるかどうか試してみたりした。


 四日目は休日でかなり長い時間勉強会ができ、ジャンはこの日に古代魔術の今回の試験範囲の魔法陣を全て描けるようになった。


 そのため五日目には古代魔術をさらっと復習した後に、他の科目の総復習をした。

 要点をエリエノールがまとめたノートをジャンに渡し、分からないというところを教えたり、問題を出して答えさせてみたりした。





 そして日が暮れ、今は五日目の勉強会ももう終わろうとしているところである。ふたりは自習室前の廊下を歩いていた。


 ふたりとも、五日間めちゃくちゃ頑張ったと思う。まだ試験は終わっていないが、エリエノールはどこか満足感を覚えている。


「本っ当にありがとう!! まじで今回はいける気がする。頑張って全科目及第点目指す!」


 ジャンはとてもやる気に満ちている様子だ。口先だけではなく、今日の様子を見ると本当に全科目及第点も夢ではない気がする。


「はい、お互い頑張りましょう。勉強も大事ですが睡眠もとても大事なので、あまり無理せずちゃんと寝てくださいね」


「はい、エリエノール先生! あの、もし良かったら、今度の期末試験のときも一緒に勉強会してくれるかな?」


 ジャンは、はにかみながらそう言った。


(ジャン様、可愛い)


 五日間の勉強会はとても楽しかった。ジャンともっと仲良くなれた気がするし、こういう友人との勉強会なんかにエリエノールはずっと憧れていた。


 もちろん、できることならまた一緒に勉強会をしたい。


「はい! お友だちとの初めての勉強会、とても楽しかったです。ぜひまたお願いします。では、これにて失礼します。おやすみなさい」

「うん、おやすみ。エリエノール」


 大談話室前でジャンと別れ、エリエノールは軽やかな足取りで西階段の方に向けて歩き出した。


 明日からは、いよいよ中間考査だ。



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