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永遠に、刹那に  作者: 塔子
その後
19/19

【10】

最終話です。

数年後。



「此方でしたのね、ミラ様」

「あ、陛下。おはようございます」

「相変わらずね。“陛下”は止してと毎回申し上げてますのに」

「でも…」

「以前のように“アルヘナ”と呼んで下さいね」



ミラとアルヘナの下にウェズンがバケツにたっぷり水を入れ運んで来た。


如雨露(じょうろ)を手にミラは、デネボラに半壊された庭園をほぼ半年で復元し、こうして今も尚、手入れを自らしている。


誰も何も言わないが、ミラが世話をすると花達は競い合うかのように咲き誇り、緑の葉は青く茂っていく。


嬉しそうに花達はミラから水を得、陽の光りに輝く。



「ウェズン様、高い所は届かないので宜しくお願いします」



ウェズンはミラの言葉に了解であると軽く頷き、ミラの両脇に手を入れ抱き上げた。



「きゃあ!ウェズン様!私を抱き上げて頂かなくても!!ウェズン様が私の代わりにお水を!!」



毎回、こんな風に花々に水を上げているのだろう事は、想像するに容易い。


アルヘナはミラをウェズンのやり取りを微笑ましく見詰めている。



「ウェズンも、ミラ様の事が本当に気に入ったのね」



ウェズンは主人(アルヘナ)に向って瞳をキラキラさせ、今度は大きく頷き、ミラは「私もウェズン様には多くの事を教えて頂き、とても感謝してます」と抱き上げられたまま頭を下げる。



「小さくなってしまった分、高い所に作業が不便になってしまったので…」



申し訳なく思うのか、深青色の瞳は陰りを見せる。



「いいえ、成人されたミラ様は愛らしかったですけど、幼いミラ様は絶大な可愛らしさです」



ミラの姿は、今、6歳の頃の姿をしている。


レグルスと共に王宮へ出仕するようになると、誰もが婚儀をあれほど早めてしまうほどの婚約者を一目見たいと騒ぎ立ててしまった。


アルヘナは「王宮内は単調で退屈な所、皆、小さな刺激すら求めるものです」と。


蒼海の女神を、誰にも見せたくないレグルスは魔術でミラを老婆ではなく、今度は少女に変えた。


デネボラは激怒したものの、初めて拾った時のミラを思い出すのか、ミラへの盲愛は増すばかり。


アルヘナは「子供がお好きなら、早く伯父様の御子をお産みになられたら宜しいのに」と言えば、追い討ちを掛けるかのように「デネボラ様にお子様が誕生すれば、お世話いたします」とミラが言う。


そして、今、デネボラは王子を産み、二人目を妊娠中である。



「――では、そろそろ、私はデネボラ様の所へ参ります」



バケツと如雨露(じょうろ)をウェズンと一緒に片付けた後、ミラは「失礼します」とアルヘナに礼を執る。


ミラの日常は、今までと何も変わらない。


レグルスの世話をし、屋敷内の全てを一人で任せれている。


王宮に来れば、出仕するレグルスの手伝いを少しばかり、とウェズンと庭園を整えたり、ウェズンと厨房で料理を教わったり、ウェズンと多少の魔術を習ったり……。


離宮へ行けば、デネボラ様とアルファルド様の為に給仕をし、シリウス王子の子守りもする。


紅い瞳の赤子は見ているだけで、ミラの頬は緩む。


以前、デネボラから貰い受けた右足にあるアンクレットは、今ではいつでもミラの思う時に転移が出来るようになり、ミラは光り始めたのを確認し、デネボラの下へ転移しようとした所に――。



「ミラ」



自分の名を呼ぶのは、誰よりも大切な人の声。



「レグルス様!」



レグルスはその小さなミラの身体を優しく抱き上げる。



「レグルス様、お仕事中では?」

「終わらせた」

「私は、これからデネボラ様の所へ」

「………」



ミラの中では、レグルスの屋敷内の仕事より、王宮内の仕事より、離宮でのシリウス王子の世話を優先している。


レグルスは眉間に皺を寄せ、無表情で分かり難いがとても不機嫌なオーラが出ている。



「レグルス様もミラ様との間に御子をお作りになったら宜しいのです」



デネボラはすっと目を細め、口元を羽扇で隠す。



「懐妊されれば、無理は出来ませんわ。お屋敷で体調を見ながら、ごゆるりと過ごされるのが一番良いかと――」













数ヶ月後、ミラはレグルスの子供を身籠もる。



蒼海の女神――それは伝説の女神。


魔導師長レグルスの妻の本当の姿を見た者は居ない。









『永遠に、刹那に』 END

最後まで、お読み頂きありがとうございました。

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