第72話 「絶命!ワタル、閻魔大王と邂逅ッ!」
前回までのあらすじ! 再び現れた脱獄囚・クラックと熾烈なバトルを繰り広げるワタル! 闘いは終始ワタルがリードしていたが、クラックの必殺技“心臓止”によって心臓を止められてしまった!果たしてどうなる、ワタル!
「……がはッッ!!」
心臓を止められてしまったワタルは、苦しそうに息を吐きながらドサリと地面に倒れたッ!
「……貴様の心臓の音が止まったな……」
クラックはその発達した聴力を用いて、ワタルの心音が完全に停止したことを確認!
どうするワタル! このまま主人公が死んでしまえば、言うまでも無くこの小説は連載終了であるッッッ!!!
「う……うぐぅ……」
ワタルは起き上がろうと必死にもがくが、無駄ッ! 圧倒的無駄ッッ!!
いくら最強の武闘派高校生と言えど、直接心臓を止められた状態からの蘇生法など存在しない!!!
読者の皆様も想像してみてほしい! この世界にいる一流のアスリートも、鍛え上げられた肉体を持つ武闘家も、人間である以上心臓が止まれば“死”あるのみッ!
それはワタルも例外ではないッッ!!
――そしてッ!
「……ッ……ッッ!!」
ワタルはッッ!!
「…………………………ッ!」
息を、引きとった……ッッ!!
時刻は午前8時24分……! 享年17歳……!
「……ハッ! こ、ここはッッ!?!?」
ワタルは、見知らぬ部屋で目を覚ましたッ!
そこはなんとも異様な空間ッ! 無駄なものが何も置かれていない殺風景な部屋で、ワタルはパイプ椅子に座っており、彼の目の前にはなんと“赤鬼”がいたッ!
筋骨隆々の肉体に赤い肌、そして頭に生えた2本の角……間違いない、赤鬼である!!
唯一奇妙な点は、彼の恰好が何故かビジネススーツということだ!!
「おお、やっと目を覚ましましたか。それでは“面接”を始めましょう」
ワタルと対面するような形で椅子に座っていた赤鬼は、フランクな口調でそう言ったッ!
「め……面接……ッ!」
ワタル、困惑ッ!
確かにこの絵面はどこからどう見ても“面接”そのものだが、いくら何でも唐突過ぎるッ!
すると赤鬼は穏やかな表情で口を開いた!
「どうやらあなたはまだ状況の整理ができていないようですね。では単刀直入に言いましょう。あなたは死んだのです」
「な、何ィィィッッッッッ!!!!!」
ワタルは絶叫しながら、パイプ椅子から立ち上がるッ!
「ふざけるなッ! 俺はまだ死にたくないッッッ!!!」
「そうは言ってもですね、死んでしまった以上は仕方がないことです。あなたはこれから私と面接をして、天国に行くか地獄に行くかを決めます」
「ッッッ???」
ワタルの混乱は加速していくッ!
だがそれも無理のないことだ! 突然「あなたは死にました。今から面接をします」と言われて、混乱しない者がいるだろうか!? いいや、いないッ!
「ちなみに私の名前は“エンマ”と言います。死後の世界の人事部を担当しているものです」
「エンマ……じゃああんたは、“閻魔大王”なのかッ!?」
ワタルは仁王立ちしたまま仁王の形相で尋ねたッ!
「ええ、そんなところです。それではお座りください、ワタルさん」
「………………分かったッッッ!!!」
混乱が完全に収まったわけではなかったが、とりあえずワタルはパイプ椅子に座るッ!
するとエンマは手元の資料に目を落とし、それをパラパラとめくり始めたッ!
「えーと、お名前は“伊藤ワタル”さんですか……ほほう、17歳と言う若さでお亡くなりに……」
「その紙の束はなんなんだッ!?」
「これですか? これはあなたの履歴書のようなものです。ここに今までの人生の一部始終が載っています」
「なるほどなッ!」
ワタルは納得したッ!
「それにしてもあなたの人生……中々面白いですね……私も長いことこういう仕事をしていますが、ここまで濃密な履歴書を見るのは初めてです……ん?」
エンマは資料をめくる手をピタリと止め、怪訝な顔になったッ! その表情は文字通り“鬼の形相”であるッッ!!
「どうしたッ!」
「ワタルさん、あなた……あの魔王を倒したんですか!? 凄いですね!」
素直に感嘆するエンマッ!
「これならあなたは文句なしの天国行きですよ! おめでとう!」
彼はそう言うと椅子から立ち上がり、ワタルに手を差し伸べてきた!
「おおそうかッ! ありがとうッ!」
ワタルも立ち上がってエンマの手を握り、仲良く握手ッ!
「……ってんなワケないだろうがッッッッッ!!!!!」
ワタルは憤怒の形相で叫びつつエンマの腕を引っ張り、グッと懐に引き寄せるッ!
「ちょっ、なにするんですか!」
エンマ、困惑!
しかしそんなことはお構いなしに、ワタルはエンマを背後から抱きしめたッ!
そしてそこから背中を思いっきり反り、相手を持ち上げるッ!
そうッ! その動きは間違いなく“バックドロップ”ッッッ!!!
(※バックドロップ……レスリングやプロレスでよく用いられる投げ技の一種。別名ベリー・トゥー・バック・スープレックス。相手の背後に回り込んで抱え込み、体をブリッジさせながら後方に投げ飛ばす。一般的にはアメリカ出身のレスラーであるルー・テーズが開発したと言われているが、近年の研究によって古代エジプトの剣闘士・ベアックドゥ・ロペスが考案者ではないかとする説も現れた。エジプトの壁画にも、ロペスがバックドロップを行う絵が描かれている)
ワタルは時速120キロの勢いで体をブリッジさせ、エンマを後方に投げ飛ばしたッ!
「うわーーーーー!!!!!」
エンマ、面接室の壁に激突!!!
「悪いが俺はまだ天国に行くつもりはないッ! はやく俺を元の世界に戻せッ!」
キレるワタルッ! するとエンマはヨロヨロと立ち上がりながら口を開いたッ!
「そんなこと出来るわけないでしょう!」
「うるせえッッッッッ!!!!! やれッッッッッ!!!!!」
ワタルの怒りは理不尽を通り越したレベルにまで到達ッ!
凄まじいスピードでエンマに肉薄したかと思うと、左手で彼の胸倉を掴み、右手でペシンペシンと顔面を往復ビンタッッ!!
「おらッ! おらッッ!! 戻せッッッ!!! 俺を戻せッッッッッ!!!!!」
ペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
「グエーーー!!!!!」
時速900キロで行われるえげつない往復ビンタに、エンマはたまらず悲鳴を上げたッ!
果たしてワタルは、元の世界に戻ることが出来るのであろうか!? それとも健闘むなしく、天国に行かされてしまうのであろうか!?
次回、「ワタル、恫喝!そして無理矢理復活ッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]よくわかるバックドロップの歴史……異世界転生出版




