表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 星空
4/13

第4話 偽りのデート

 とうとう一緒に絵を見に行くことになった。美術館はデートのお決まりコース。そんな非現実的な場所を選ぶのも、まあよくあること。冴子にとっては、映画を見に行くよりも良いというくらいだった。絵を見るのは個人的にも好きだし、仕事柄、自分磨きにも最適だったし。美術館の最寄り駅で待ち合わせをした。改札で彼を待つ。

 携帯にメールが来る。

『どこにいますか?』

冴子はもう改札を出ていた。改札の中にいる良彦の姿を見つけた。笑顔で手を振ってみる。彼は嬉しそうに駆け寄ってくる。

「待ちましたか?」

「いいえ、今来たところです。いい天気でよかったですね。」

「ほんとですね。さ、行きましょう。」

美術館を目指して歩いていく。今日は確か『レンブラント展』が開催されているはず。冴子は特には宗教画に興味はなかったが、後学のために、冴子の方からぜひ観てみたいと言い出したのだった。

 良彦は普通に絵を観て回った。言葉は少なかった。そのおかげで冴子もじっくりと絵を観賞することができた。下心があるのかないのか。それはあるに決まっている。でも冴子は心のどこかでそうでないことを願っていた。

 

 でも、どうなるものでもなかった。独身の冴子にとって、結ばれるはずのない恋愛など、何の価値もなかった。良彦はどんなつもりで冴子に近づいてきたのか。あんなマイホームパパさんが、家庭を壊してまで冴子とのことを真剣に考えるはずもない。


「加奈子さん、疲れませんか?」

「ええ、大丈夫です、ありがとう。」

そんな優しい言葉についふらふらっとくる。でもそれも全部、幻のようなもの。騙されてはいけない。いえ、騙されたふりをしていればいいのだ。


 一通り全部観て回ると、時計の針はちょうど12時をさしていた。

「そろそろ出ましょうか。」

「そうですね。」

「どこか食事でもいかがですか?」

「ええ、そうしましょう。」


 美術館を出ると、公園の中を少し散歩しながら、食事のできるところを探すことにした。爽やかな5月、新緑のきれいな季節だった。

 ふと良彦の左手が冴子の右手に触れた。とその瞬間、良彦は手ちょっとためらった後冴子の手を握ってきた。やはりこういうことになるのか、と冴子は思いながら、その手をそっと振りほどいた。

「ごめんね、加奈子さん。」

「いえ・・」

「ほんとにごめんね・・」


 少し沈黙が流れた。でも、それから冴子は、今度は自分から手を握ってあげた。そして良彦を見上げてそっと微笑んであげた。(こんな感じでどう?きっとうまくいくわね、きっと)男なんて単純だ。(でも、あなたが結婚していなかったらよかったのにね)


 良彦は嬉しそうだった。41歳とは思えないほど、子供のようにはしゃいでいる。(ごめんね)冴子は心の中でつぶやいた。


 冴子は何度もやめようと思った。こんなこと。でももう少し。もう少ししたら、もうやめよう。結婚できない恋愛なんて、はじめから自分が傷つくのがわかっている。それなのに、この男は私に近づいて、私の心をもて遊ぼうとしている。勿論、彼はそんなことは意識しているわけがない。だから、気づかせてやりたいのだ。こんなナンセンスなこと、もうやめなければいけない、と気づかせてあげたい。そのためには、もう少し、彼に夢を見てもらおう。冴子が繋いだ手をちょっと強く握ると、良彦もぎゅっと握り返した。またもや勘違いさせている。彼はどんどん冴子を、いえ、加奈子を自分のものにできると喜んでいるに違いない。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ