12話『あの時間を、もう一度やり直すことができたなら』
✿
両親が離婚した。
理由は何だったか覚えていないが、驚愕と言えるほどの理由ではなかった気がする。
当時中学生だった俺は消防士である父と共に、この町に残ることを決めた。
"俺のことはいいから、楓は母さんのところに行けばいい"と父は言ってくれたが、それでも俺は町に残ることを選んだ。
小さな頃から困っている人を助けるヒーローに憧れていたのは、きっと父の影響もあったと思うから、何か手助けをしたかったんだ。
父は仕事以外は何もできないような人だったから、おかげで俺にもやれることはあった。
具体的には炊事や洗濯をしたりと、地味なことだけど。でもおかげで今、毎日自分で弁当作るくらいの腕は身に付いている。
ある日、俺は昼休みの時間を狙って母の職場に行った。
離婚なんて家で盛大にお別れパーティーをするようなものでもないから、引っ越しの準備でろくに話もできなかった母と、最後に挨拶がしたかったのだ。
そうして訪れたのが、当時母が働いていた水波バンクの旧歩風西支店だった。
結論から言うと――母には会えなかった。
ってのもまあ当然のことで、母は何日も前に次の職場への異動手続きを済ませていたらしい。
新たな職場へ異動するまでの空白期間を使い、引っ越しの準備を終わらせ、ついに今朝家を出た。
つまるところ――今さらここに来たところで、母に会えるはずがなかったのだ。
無論、愛すべき我が家に帰ったところで、もう……。
自分の世間知らずさと、そして何も言わずあっさりと家を出ていった母を憎らしく思った。
軽いショックを受けた俺は、そのまま何をするでもなく受付前の椅子に座り込み、銀行に来る人、出ていく人の流れをぼんやりと眺めていたところで――あの惨劇に巻き込まれた。
突如として現れた銀行強盗。偶発的に起こった巨大な地震。
困っている人を助けるヒーローに憧れていた俺は、何かできることはないかと考え続け。
結局、怖くて震えあがって、手を伸ばせなかった。
引き金が引かれたあと、心が死んでしまったかのように虚ろな彼女を見て、俺は自分のことが心底嫌いになった。
引き金を引けなかったことで、俺はこの子を見殺しにしたんだと思った。
その後、『イノセント・エゴ』の一員を名乗る男によって事件は隠蔽されたが、忘れられるはずがなかった。
だって、誰かを助けたいと思っていたのに――俺は間違いを犯してしまったんだ。
それから始めた人助けは、きっと代償行動だったんだと思う。
誰かを助けることで、自分を捧げ続けることで、少しずつ罪の意識が薄くなっていく気がした。
元の自分に戻れる感じがした。
あの頃の、純粋に誰かを助けたいと思っていた自分に――。
そうしてずっと普通のフリをしてきた。
誰かに罰されたいのか、誰かに許してほしいのか、自分はどうしたいのか――自分でもよく分からなくなりながら。
それがまさか、つい先日――あのときの女の子の前で、今度こそ俺が引き金を引いてしまうことになるとは、思ってもみなかったけど。
でも後悔はしていない。
もしまた別の人が――それこそ同時に手を伸ばしていた冬馬が引き金を引いていたら、俺はいよいよ自分を見失っていたと思うから。
だから、二度目の間違いは犯さなかったと、断言できる。
「――君、面会の希望者が来ている」
「はい。今、行きます」
そうして高砂楓は留置場から出される。
人を殺した少年として、警官に睨まれながら――。




