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32話『幽霊屋敷へ遊びに行こう!』

 ゴールデンウィークの後半、四連休を目前に控えた平日。

 中途半端で取り留めのないその日、俺は前の席で友人である高砂(たかさご)(かえで)からとある話をされた。


「……なあ幽霊屋敷の噂って知ってるか?」


「いや知らないけど」


 ここ二週間、どうにも噂という噂に踊らされることの多い俺だ。


 人間社会と風説やら街談巷説やらは切っても切り離せないものとはいえ、悪辣なる噂に巻き込まれたことで、直接的に被害を受けたことで、すっかりそれらに対して忌避的になっている。


 元々ほじくり返されたくない過去も持っていることだし。

 なのでその話についても俺は一切知らなかったのだが、聞くところによると。


歩風町(ほかぜちょう)の南側に南坂(みなみざか)っていう長い坂があってさ。そこを登ったところに誰も住んでない洋館があるんだよ。結構ぼろいの」


「……はあ」


「で、あの辺は夜になると結構静かだから、妙に雰囲気があるっていうかさ。もはや不良も寄り付かないスポットになってるんだけど。最近あの辺を通りかかったサラリーマンが、部屋に灯りがついていて人影が写ったところまで見ちまったんだと」


「それで幽霊騒ぎか」


 ちなみに楓がこの話をどこから仕入れたのかというと、洋館の近くを通りかかったサラリーマンの息子が桔梗高校に通う生徒の一人らしく、その繋がりで幅広い人脈を持つ楓の耳に入ったらしい。


「でも何でもまた俺にそんな話をするんだよ」


「や、明日から四連休が始まるだろ? 一緒に行こうぜ」


 溜めも何もなくあっさりと言ってくれる楓。


「……一応、理由を聞いておこうか」


「言っとくが肝試しとかそういう話じゃないぜ? もし住み着いてるのが身寄りのないホームレスだったりしたら、この噂が広まったことで警察沙汰になるかもしれないし。もしくは人が居着いたって実績が不良たちを呼び込むかもしれないだろ」


 なるほど。それは確かに人助けを日常的に行う楓らしい発想だった。

 警察沙汰となるか、不良の溜まり場となるか、いずれにしても面倒事に発展するより先に、前もって手を打とうという腹積もりか。


「で、相手が何か事情を抱えてるなら、お前の洞察力が役に立つかもしれないしな」


 本当に高砂楓という男は、どこまでも他人のために動く男なんだな。

 と、関心していると楓はこう付け加えた。


「あと本当に幽霊がいたら面白いし」


 ……いやまあ、変に気負うよりはいいかもしれないが。


 にしてもそこまで可能性をピックアップするなら、その幽霊屋敷を権利者から借り受け、正式に、法的に何の問題もなく生活している人が居るというのも考慮してもいいと思うけど……。


「……話は分かったよ。そういうことなら明日、その洋館に行こう。……前にいつかって言ったしな」


「――ちょっと待ってください」


 不意に、俺の言葉に被せるようにして少し舌足らずな可愛らしい声が割り込んできた。

 声の主は楓の前の席に座る女子、琴平花灯(ことひらはなび)だ。


「その幽霊屋敷の探索、わたしも同行してもいいですかね」


「ん? んー、琴平から提案が来るのは意外だけど、わりぃ。危険かもしれないしさすがに女の子は連れていけないよ」


 意外でも何でもなく、楓は丁重にお断りした。

 俺はフィジカル面で言えば平均以下ではあるが一応男であり、一方で花灯は小動物っぽいちんまい女子。


 もし洋館に住み着いているのが危険人物だった場合、何かあっても責任が取れない。

 そういった気遣いをさりげなく見せた楓だが、花灯はそれを除け者にされていると感じたようで。


「……不祥です……」


 そう言いながらジト目で俺に助け船を出すよう訴えてきた。

 花灯は教室内では控えめだが、その実、ウザカワ系を自称する残念子ちゃんだったりする。


 お互い周囲に隠したいことがある立場同士、同盟を結んだ仲だ。

 つまりここで何かしら言っておかないと、あとでウザいメッセージとか送られてきそうだ。いわゆるスタ爆とか。


 それにその幽霊屋敷に危険なやつが住み着いてるなんてことはないので、俺は助け船を出すことにした。


「ちょっと待って。楓、花灯も連れていこう」


「え? いやでも……」


「危険だとわかったらすぐに帰ればいい。時間は昼間、何なら夏野(なつの)も呼んで大勢でいけばいいさ」


 と、成立しているのか破綻しているのか分からない理論を振りかざす。


「同意です。この上なく完全に同意です」


「………うーん……じゃあ、まあ……。まだ何かあるって決まったわけじゃないしな」


 力強く拳を握る花灯の後押しもあり、楓はしぶしぶ花灯の同行を認めた。

 夏野には放課後にでも俺からメッセージを送る。まあ基本遊ぶ友達がいないとかで誘いを断らない彼女のことだ。きっと参加してくれるだろう。


 こうして明日。四連休の初日。

 俺たちは幽霊屋敷を探索するという名目で遊びに行くことになった。


 水波市歩風町の南側。南坂と呼ばれる長い坂を上りきった先にある古い洋館。

 まあ言ってしまえばそこは、俺が四月から新居としている場所なのだけれど――。

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