表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【SS追加!】断罪令嬢の飯テロ食堂  作者: 九葉(くずは)
SS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/57

SS : 月待ち食堂の小さなお姫様と、揺れるプリン

 第二子となる長女、エレナが生まれてから半年。

 『月待ち食堂』は、かつてないほどの「甘い空気」に包まれていた。


「あうー! あうあう!」

「はいはい、エレナちゃん。じいじですよ〜」


 定休日の店内。

 父・ガラルド公爵が、とろけきった顔で赤ちゃんを抱いている。

 エレナは私に似た銀色の髪と、ライオネル様譲りの金色の瞳を持つ女の子だ。

 その可愛らしさは破壊的で、父もマダム・ロッテンマイも、そして兄となったレオンも、彼女の虜になっていた。


「エレナ、いい子だねぇ。ボクが兄さまだよ」


 5歳になったレオンが、背伸びをしてエレナの頬をつつく。

 すると、エレナはキャッキャと笑い、レオンの指をガブリと甘噛みした。


「いたっ! ……でも可愛い!」

「あらあら。この子は食い意地が張っているわね」


 私が苦笑すると、横で見ていた聖獣シロが尻尾を揺らした。


『みゃう(当然だ。この娘の魔力回路は、胃袋に直結しておる。将来は兄をも凌ぐ美食家になるぞ)』


 恐ろしい予言だ。

 そんな賑やかな午後、私は家族のために「おやつ」を用意することにした。

 まだ離乳食前のエレナは食べられないけれど、毎日お手伝いを頑張ってくれているレオンへのご褒美だ。


 ボウルに卵と牛乳、砂糖を入れて混ぜる。

 バニラビーンズをさやごと入れて香りを移す。

 ザルで濾して滑らかにし、カラメルソースを敷いた型に流し込む。

 蒸し器に入れて、弱火でじっくりと蒸すこと二十分。


 粗熱を取り、冷蔵庫で冷やせば――。


「お待たせ! 特製『カスタードプリン』よ!」


 お皿の上でプルプルと揺れる、黄色い宝石。

 スプーンを入れると、適度な弾力がありながら、口の中で滑らかに溶ける「固めプリン」だ。


「わぁぁぁ! プリンだ!」


 レオンが歓声を上げる。

 ライオネル様も、公爵様も、マダムも、みんなでテーブルを囲んだ。


「いただきます!」


 レオンが一口食べる。

 卵のコクと、ほろ苦いカラメルが絡み合い、バニラの香りが鼻に抜ける。


「ん〜っ! おいしい!」

「うむ。素朴だが、奥深い味だ」


 みんなが幸せそうに食べている、その時だった。


「…………じーっ」


 父の膝の上にいたエレナが、熱い視線を送っていた。

 その金色の瞳は、揺れるプリンに釘付けだ。

 口元からは、よだれがツーッと垂れている。


「あう! マンマ!」


 エレナが身を乗り出し、小さな手を伸ばした。

 その手には、微弱だが確かな魔力が宿っている。

 ……まさか?


 シュンッ!


 次の瞬間、レオンの皿にあったプリンが、ふわりと浮き上がった。

 

「ええっ!?」

「プ、プリンが飛んだ!?」


 浮いたプリンは、そのままエレナの手元へ――吸い込まれる直前、ライオネル様が超反応でキャッチした。


「危ない!」


 ライオネル様の手のひらの上で、プリンがプルンと着地する。

 エレナは「あうー……」と残念そうに眉を下げた。


「……無詠唱魔法か」

 ルーカス様(たまたま居合わせた)が眼鏡を光らせた。

「食欲をトリガーにした念動力。……末恐ろしい才能だ」


 私はため息をつきつつ、ミルクを用意した。


「エレナ。プリンはまだ早いのよ。……でも、そんなに食べたかったのね」


 私が哺乳瓶を渡すと、エレナは不服そうにしつつも、チュパチュパと飲み始めた。

 その横顔は、ライオネル様が唐揚げを見つめる時の目にそっくりだった。


「……こりゃあ、将来の食費が心配だな」


 ライオネル様が苦笑いして、私の肩を抱いた。

 兄はカツカレー好き、妹はスイーツ好き。

 『月待ち食堂』の賑やかさは、これからも増すばかりのようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ