子供達の恋の行方
シヴィアは一瞬、窺うようにアルシェンに視線を送ったが、年下の子供、しかも王子の要望を無下には出来ない。
にこにこと邪気のない笑顔を向けてくるフランシスに、シヴィアは穏やかに微笑む。
「ええ、勿論ですわ、殿下」
アルシェンと言い合っていたエルキュールも、慌てた様にフランシスを押しのけて前に出た。
「私もシヴィと呼びたい。私の事は気軽にエルとでも呼んでくれ」
「いや、お前それは性急過ぎだろう。私だってまだアルシェンだっていうのに」
さすがに呆れを隠さずに、アルシェンが言い放つ。
ふふ、と思わずシヴィアが笑い声を立てた。
「そうですわね、確かに。もう少し時間を頂いて交流を重ねてから……私的な場のみでしたら喜んで」
「では、私も貴女に呼ばれる名を考えておきますね」
スッとフランシスがまたエルキュールの前に出て言うので、シヴィアは微笑みながら軽く膝を屈して返した。
息子達がシヴィアに群がる姿を、ルディーシャは半眼で見ていた。
「まったく、男の子ときたらもう!」
「まあまあ、今後は園遊会でも他の淑女達との出会いもあるのだから」
王妃が窘めると、ルディーシャは振り返っていた姿勢から、真っすぐに座り直す。
「でも、兄弟というものは女性の好みが似るのでしょうか。……ある意味シヴィアで安心ですけれど」
何処かで挫折しなければならない思いだ。
もし彼らの誰かが、彼女の頑なな心を溶かすのならそれも良い。
平民や低位貴族になる覚悟さえあれば、シヴィアも受け入れる可能性はある。
王妃も少しだけ悲しそうに手にした紅茶に目線を落とした。
シヴィアの決意は二人にも納得がいくものであったのだ。
悪い人間となる種子を王家に根付かせてはならない、という憂国の思い。
だとすれば選択出来る道は限られる。
王子達がそのどれを選ぶのか、それともシヴィアを諦めるか。
そして、そのシヴィアの決意をいつ、王子達に伝えるべきなのかを王妃は沈思した。
ルディーシャも、王妃の表情に気づいて同じく黙して考え込む。
「シヴィと話をして、息子達には早めに言った方がいいのではないかと思うのです。年齢と共に薄くなっていく思いなら良いのですけれど……」
「まずは、園遊会にて他の令嬢達と会わせてみて、様子を見る事に致しましょう。取り返しのつかない所までいってから言うのは確かに残酷で、傷も深くなります。それに、何より強い思いをぶつけられて困るのはシヴィでしょう……」
いつの間にか子供達の会話は、アルシェンとエルキュールとフランシスの兄弟の過去の話になっていて、シヴィアもフローレンスも楽しそうに三人の話を聞いて、時折笑っている。
彼らがずっと子供のままで、自分達が守ってやれるのならば幾らでも守ってあげたいが、そうもいかない。
何れ大人になり、それぞれの思いを抱いて個々の道に踏み出す時が来る。
早目に情報を与えておかないと、取り返しのつかない方へ舵を切ってしまう事も往々にあるものだ。
しかも、悪辣な女であるディアドラの容姿に似ていながら、誰よりも清く厳しい少女の行く末が不幸なものであっていいはずはない。
争いの種は早めに摘んでおくことに越したことはないのだ。
「養女には出来ませんけれど、ああやってみると、フローレンスは末の娘と言われても違和感ございませんわね」
「ええ、そうね」
王族の様な金色の髪は、ふわふわと綺麗に波打っていてリボンで飾られている。
痣だらけだった白い肌も、元のミルク色の綺麗な肌に戻っていて、大きな青い瞳もとても美しく可愛らしい。
妹みたいで、恋愛感情が湧かなかったのかしら、とルディーシャは不思議に思ったが、愛おし気に子供達を見つめたのである。




