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悪の種子  作者: ひよこ1号


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31/69

助けを待ちながら

幼い子供が不憫な目にあっているのでご注意を。

漸く力尽きて、扉を叩く力も無くなった頃、そっと寄りかかっていた扉が開かれて、侍女が一人入ってきた。

丁寧に顔を拭って、熱の籠った頬を冷たい布で冷やしてくれる。


「……ここから、出して」

「申し訳ございませんが、それは出来ません。お嬢様もここから出られない方が良いと思います。大奥様は何をされるか分かりませんから……」


そうだ。

確かにあの悪魔は、フローレンスを殺すかもしれない。

あんなに力いっぱい殴って……。


思い出すと涙が込み上げてきた。

悲しいのではない。

腹が立って仕方がないのだ。


「お可哀想に……」


そうだ、あの役立たずの母親は何をしているのかしら?


「お母様は?」


聞くと侍女は顔を曇らせた。


「奥様は、大奥様に鞭で打たれて臥せっています。医師に診せましたが、三日は起き上がれないかと」


やっぱり、役立たずは役立たずね……!

だったらやはりお姉様に頼るしかない……。


「……お姉様は?お姉様に会いたい……」


侍女は苦しそうに眉を顰めて言う。


「シヴィアお嬢様は、お国のご用事で王子殿下と王都を離れられているのです。どうか、今しばらくご辛抱ください」

「うう……ひっく……」


お姉様はきっと助けてくれる。

いつだって間違ったりしないから。

厳しいけれど、きちんと、話を聞いてくれる。


ふわり、と暖かい物で包まれてフローレンスは顔を上げる。

毛布で包まれていて、侍女はぺこりと頭を下げた。


「これ位しか出来ませんが、ここは冷えますから」

「……ありがとう……」


フローレンスがか細い声で礼を言うと、侍女は立ち上がってもう一度お辞儀をして粗末なその部屋から出て行った。

今までフローレンスは自分の部屋も屋敷も、綺麗で豪華な事が当たり前だと思っていたのである。

その正反対の部屋に容れられて、普段どれだけ恵まれているのか痛感した。

ふわふわのベッドも、綺麗な床も壁も、温かい毛布も。

当たり前に与えられていたものを取り上げられて、怒りもこみ上げる。


「大嫌い…」


あの祖母が悪事を働かなければ、フローレンスは意地悪をされなかった。


「大嫌い…」


フローレンスを誰より可愛いと言ってきたのに、母は助けに来ない。


「…おねえさま……」


厳しくて、正しくて、優しくて、美しいお姉様。

ずっと羨ましくて、ずるいと思ったりもした。

綺麗な物に囲まれて、王子殿下と一緒に過ごしている事も。

でも、それはただ欲しくて、欲しいと思って貰えるものじゃない。

あのみみずがのたくったような文字を、読めないといけないから。


毛布から出たつま先が、冷気に晒されて冷たくなって、フローレンスは何とか身体を縮こまらせて毛布の中に収まった。


ここは、汚くて、寒くて、それだけで恐ろしい。

でも、扉から出れば、祖母がやってきて、フローレンスを沢山ぶつのだ。

泣いても、嫌だと言っても止めなかった。

大嫌いなビアンカの言った事のひとつは、正しい。

お祖母様は悪魔なのだ。


フローレンスは気付いていませんが、カッツェが閉じ込められていた部屋です。


年明けと共に救い出される予定です。

明日も二回更新。

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― 新着の感想 ―
今更ですが、年末と言わず最低でもリアル三が日中は閉じ込めたままで良かったんじゃないかなあ……
お祖母さんがやりすぎなのはあるが、言っていることは完全な間違いではないだよね。 あと、姉に頼んでも招待して貰えない理由と被害者に対する謝罪の必要性と勉強だけでなく我慢などを覚えさせて必要なら本心を隠し…
被害者に思いを致すのがまるで無いのが怖いです。 どのみち、貴族女性としては、お先真っ暗ではないですか、フローレンス。 良いお年を。
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